第37話 夜の闇に蠢く者ども

 暗闇の中、微かな明かりに照らされて腕試しをしている2人。そんな姿を、ずっと離れた森の中から見ている2人の姿があった。

 高い木の上だが、闇夜と周囲の枝葉もあり姿を伺い知ることは出来ない。

 しかし近くで見れば、その姿が王室特務隊である事が一目で分かる。

 その特徴的な兜も、鎧も、マントも、何一つ隠そうとはしていないからだ。


 一人は長身に加え強大な筋肉の男。薄茶の髭と無数の傷。見えている部分だけで十分の凶悪という言葉が似合う。たとえ笑顔であっても子供ななら逃げてしまうであろう風貌だ。

 もう一人は女性だが、身長は男性とほぼ変わらない。

 こちらも見事な筋肉を感じられる。


「あれがケニーやベントンから報告があったクラム・サージェスか」


「クラム・サージェス・ルーベスノア子爵ですよ」


「細かいねえ。そんな取ってつけた爵位とかどうでも良いだろ。そんでどうするんだ? ベントンの話では、腕一本犠牲にするなら倒せるって話だ。実際それ程のもんかは分からんが、それでセネニア姫を牽制できるならさっさとやっちまって良いんじゃないのか?」


「それはベントンだからの話でしょう? 彼の話を素直に聞くほど馬鹿なことは有りませんよ。仕掛けるなら失うのは腕一本ではなく、どちらか片方の命くらいの覚悟は必要でしょう」


「それ程かねえ」


「ケニーの報告にはありませんでしたが、スカーラリア家が行った実験に関してはご存知ですか?」


「詳細はしらねえな。だがそれなりには調べたぜ。ただ結果は失敗だ。その成果が奴隷として処分された事でそれは実証されている。それ以上、何か必要か?」


「何を成功とし、何を失敗とするか……取り敢えず、その件に関しては今度で良いでしょう。ただ先程の件はあくまで彼単体での話ですが、もっと正確に言いましょうか? 今動くなら、辿り着く前に両方消えます」


「だろうな、王派が動かないはずがない。これは結局のところ、ただの派閥争いだ。しかしなあ、セネニア姫の為に俺たちが動く必要があるか? しかもあっちは王命だろ? 無駄すぎる。手は出したくねえ案件だな」


「セネニア姫にユニークスキル発現の兆し有りと報告があります」


「確かか? しかしそれだけでは弱いが……」


 今の王族で、ユニークスキル持ちはいない。

 元々数が少ないのだから仕方がないが、やはり有ると無いでは権威に差が出てしまう。

 だがそれでも第6王女。末端だ。他国なりどこぞの有力貴族に嫁がせるときに、少々箔が付く程度だろう。


「2代目の”不敗王”インゼナッセ・バーリント・クラックシェイムと同じユニークスキルだとしてもですか?」


「まてや……そんな事が発覚してみろ。継承権は大混乱間違いなしだ。最悪の場合、王宮は血と陰謀の魔境になるぞ。いや、それどころじゃねえな。今と昔じゃ状況が違う。ますます戦火が拡大する――こちらにその気が無くても、周辺国が黙ってはいられるわけがねえ」


「今でもあまり変わりはありませんがね」


「段階が変わる。それで、その信憑性は?」


「ナンバー4、ケニー・タヴォルド・アセッシェンからの情報です。姫本人に自覚は無く、まだ王にのみ報告されていますが」


「知っている奴はもう知っているって事か。ならこれから更に増える。その前に決着は付けないとな。ところであの長大な隊列は何だ?」


 此処から肉眼で見える所には何も無い。だが、“それ”はあと2日もあれば到達するだろう。

 松明と魔光を頼りに村へと向かう大規模なキャラバン。

 兵団ではない。物資を運ぶ輜重しちょう隊だが、後ろが見えないほどに長蛇の列をなしている。

 そしてその先頭にはためく赤い旗は――、


「第4王子、ヘイベス様の隊ですね。物資と技術者、それに魔導士ですか。おそらく村を強化するための軍団でしょう。しかもあれは本隊旗。本人も同行していると考えるのが自然かと」


「おいおい、冗談だろ。ならクエントもエナもセネニア姫側かよ。“絶懐不滅”に“十星”だけじゃ飽き足らず“神知”と“魔略”まで付くとか反則じゃねえか。あっちに鞍替えしたいぜ」


「個人戦に特化しているのはケニーだけなので必ずしも手詰まりとは限らないですが……考えは自由ですよ。協力はしないけど、止めはしないから好きになさい」


「ケッ、無理だ無理。少なくとも今は話にならねえ。当分は様子見だ」


「珍しく賢明ですね」


「俺は臆病なんだよ」


「それより、気が付かれましたね」


「くそが! この距離だぞ! 今度ベントンに会ったら、アイツの腕をへし折ってやる」


 こうして2つの影は闇の中へと消えた。

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