第24話 人の皮を被った悪魔かこいつは

 何百年か、あるいは何千年何万年、もしかしたらもっとかも知れないが、それ程永く生きていたらもうどうでも良いだろうという歳の話に反応する面倒くさい女、王国特務隊のケニー・タヴォルド・アセッシェン。

 彼女はどうやら俺に用件がある様なのだが……。


「単刀直入に言おう。このまま君たちにはルーベスノア村に行って欲しい」


「辺境も辺境。それもまた厄介な場所をご使命ですねえ」


「ふむ、知っているなら話が早い。説明の手間が省けたというものだ」


 元々、王都から可能な限り離れた村でひっそり暮らそうと思っていた訳だしな。

 それに任務の都合上、色々な出自を利用する。そんな中で使い勝手が良かった。

 だが今回の目的地からは真っ先に外してある。


 理由は2つ。

 1つは、その村は隣国であるロストベン王国に隣接している。

 いや、今はロストベン魔国と呼んだ方が良いか。

 その国に隣接していたのは広大な未踏の地。魔物の世界だ。

 かつては魔物の侵攻を防ぐ防波堤だったが、魔物に屈し、今ではその配下にあるという。

 配下といっても、果たして生きている人間がいるかは疑問だがな。

 そんな訳で2つ目の理由だが、今も現存しているか分からないからだ。のんびり暮らすとかありえねえ。


「それで、そんな辺鄙で危険な地に行って何をしろと? これでも自分は――」


「出来る限り王都を離れ自由に生きたいのだろう?」


 そこまで正確に当てられると、行動から読んだとは言えないな。

 思考を読むか、希望や願望を視るユニークスキル持ちがいるか?


「それが分かっていて従うと? いやまあ、確かに従いますとも、はい。しかし道に迷って違う場所に行ってしまうかもしれませんが、その辺りはどうなんでしょうねえ?」


「確かに、これは君の自由を奪う選択だ。折角自由の身になったというのにな。だが君はセネニア王女の願いを聞いた」


「まあ報酬が出るって話ですし、護衛くらいはねえ」


「その護衛が、いつまで続くかは君自身把握していない。もちろん何処かの町に着いた時点で報酬を受け取り別れればいいだけの話ではある」


 つまりは、まだ世間的に姫様は死んだ事にはされていないと。

 報酬を出すのはその町の領主だからな。

 死んだ王女が訪ねて来たら……ふむ、町によっては国に大きな亀裂が入るか。

 こんなのが出張って来たのもそのためってところだろうな。


「だが君はそうしないだろう。まだ君は、本当の意味での自由を知らない。生きるためだけに動き続けただけの幼少期。スカーラリア家に仕えていた頃。ブラントン商会の奴隷であった日々。さてそこからポンと放り出されても、何をしたらいいのか分からない。今の希望も、おそらく誰かにそう言われたからだ。何の執着もない。だから危険を理解しながらも、あっさりとセネニア王女の護衛を引き受けた。その間は、今まで通りの君でいられるだろう。任務に忠実な、何も考えない“便利屋”としてのな」


「まあそうなりますかねえ。ですが途中でその本当の自由を見つけて、姫様を放り出すってのは?」


「君が彼女と別れる時は、任務が終わったと判断した時だ。受けた任務を投げ出さない事くらいは調べている。そうでなければ、こんな話などしない。君はある意味危険すぎるからな。本来であれば、この機会に首を飛ばしておくところだ」


 酷い脅迫だな。しかも多分だが自覚がない。強すぎる故か、それとも長く生き過ぎた故の天然か。

 ある意味最強の相手だな。話が通じないだろうという意味で。


「それで、そこへ行って何をしろと? 大体まだその村残っているんですか? だとしたらたいしたものですが、そんな危険なところに姫様を送る理由は?」


「君にはそこでレベル屋をやってもらいたい」


「はあ?」


 おっと、ついつい素が出てしまった。

 というか何を言っているんだこの女。


「さすがに辺境とはいえ、1箇所でも陥落したら国内の動揺は計り知れない。それ故にそれなりに軍は派遣しているのだよ。だが辺境すぎて補給がままならない。他の国との戦争で、見た目以上に我が国は疲弊している。それに戦争に合わせて、レベル屋の分家は皆その方面に作られた。辺境に作る余裕など、何処の店にもないのだよ」


「それならせめて、近場で一番大きな町でやれば良いんじゃないですかい? 人も集まるでしょうし、補給も楽ですよ」


「王室が一枚岩ならそうであろうな。だがそうでもないのが今の状況だ。だから君には、セネニア王女を守れるシステムとレベル屋をゼロから構築して欲しい。大きな町のように、既に作られた状況では穴が多すぎて対処しきれまい」


 ものすげえ無茶ぶりをしてきやがったなコイツ。


「しかしそうなりますと、姫様とよほど近くにいないといけませんが、その点はどうなんですか?」


「当然同居してもらうし、基本的に24時間一緒にいてもらう。護衛だしな。当然、手を出せば首が飛ぶ。その代わり、アーヴィ家の娘に関しては好きにして構わない。許可する。本人にもそれとなく伝えておこう。貞操か家族か……まあ断りはすまい」


 こいつは人の皮をかぶった悪魔か?

 それとも、もうそんな事を気にしないくなるほど色々見て来たか。


「というか、レベル屋なんてしていたら24時間の護衛なんて無理ですわ。あれはそんなにぬるい商売ではありませんぜ」


「安心しろ、セネニア王女のレベルは十分だ。自衛の手段さえ教え、状況が分かる位置にさえいればさほど問題はないだろう。そもそも、そのシステムを構築するのも君の仕事だよ」


 有無を言わさねえって感じだな。

 というか、話が勝手に進んでやがるというか、計画書を読み聞かせているようだ。


まとめれば簡単だ。セネニア王女の護衛。現地兵を育てるためにレベル屋を建設。そして内外からの敵を撃退しつつ、 ロストベン魔国を人の手に取り戻してもらおう」


 最後にしれっと無茶苦茶な要求を加えてきたな。


「なんか増えているような気がしますが……しかもどう考えても無理なのが問題ですねえ」


「便宜は図ろう。なに、君が真の自由とは何かを見つけるまでの間だけ、我らに協力してくれればいいだけの話だよ。では任せた。いずれまた会う事もあるだろうが、再びこの剣を抜かせないでくれよ」


 そういうと、二人ともかき消すように消えていた。

 世の中は広い。そして上には限りがない。そんな事を思い知らされた感じだ。

 戦っている感覚から見るに、遊ばれていたのは間違いあるまい。

 というか、お前剣なんていらないだろうとずっと突っ込みたかったよ。

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