冤罪で王都のレベル屋を追放されたから田舎でのスローライフを目指したのに、いつの間にやら王都がこっちに引っ越してくるらしい
ばたっちゅ
【 解雇と解放と冤罪と命の危機 】
第1話 レベル屋を追放されました
レベル屋の仕事は朝から大変だ。
俺の仕事はプリズムポイズンワームの飼育。
見た目はタマムシの様に光る芋虫だが、その毒は即死級。
皮膚に触れるだけでアウトな上に、こいつは更に吐いて飛ばしてくるのだから最悪だ。
しかも見た目以上に速い。
排泄物も猛毒となれば、もはや普通の人間には扱えないよな。
更に加えれば魔法無効、斬撃・刺突・打撃に高度な耐性を持ち群れで行動する。
英雄と呼ばれるような100レベル級の冒険者が、こいつの群れに遭遇して全滅したなんて話もある程だよ。
まあ毒は俺には効かないが、それは秘密だ。知られると面倒なんだ、色々とね。
しかしこんなモノの飼育をしていると、それはそれで経験値も少しずつだが貯まる。
なにしろこいつは強いだけに、倒した時に得られる経験値が高い。しかもこいつはレアモンスター。得られる経験値は同格の3倍以上だ。
そのおかげで、最近は随分と楽になった。
とまあ、どうしてこんな危険なモンスターを飼育しているかと言えば、俺が最初に言ったようにレベル屋だからだよ。身分は奴隷だけどな。
「47番! 今日出せるのは何匹だ!」
「予定通り24匹ですよ、親方」
その言葉に満足そうにうなずくと、
「へへ、ご予定通り準備は万端です。ほら、早速始めろ!」
「へいへい」
餌の腐肉で12匹を“レベル場”に誘導する。凄まじい匂いだから、釣るのは簡単だ。
ただ当然、吐かれる毒を避けながらの全力疾走。石壁のトンネルに、互いの足音と吐き出された毒がべちゃべちゃと飛び散る音が響く。
革の鎧を着ているが、まあ役には立たないな。当たれば一気に浸透してハイさようなら……となるだけに、逆に当たってしまうとマズイ。
全く厄介この上ない。
「相変わらず見事に避けるな」
「軽業のスキルだったか? 正に天職じゃねえか」
担当が違う連中は気楽なもんだ。
臭くてたまらないうえに、”普通なら”命懸けというかとっくに死んでいる作業だぞ。
こうして12匹をレベル場に入れると、俺はさっさと奥の扉から逃げる。
同時に、裕福そうな男が縄を斬った。
身なりからしてお貴族様って所だろう。
縄が切られると同時に、ゴゴゴゴゴと威圧的な音を立てながら石の天井が落ちて来る。
こいつらを飼育しているもう一つの理由。
それは毒以外の強力な武器を持たない事だな。
石と壁が擦れる音を立てながら、狭いレベル場全体を石の天井が押しつぶす。
同時に縄を切ったお貴族様のレベルが急上昇。そりゃもう、見ただけで分かる。倒したのは彼なのだから当然だな。
今までウサギ相手にも負けそうだったボンボンが、これで一気にレベル100オーバー。
もう体から出るオーラが違う。英雄クラスだ。
オーガの群れでも一人で殲滅できるだろう。レベルだけならだが。
そして2人目も同様に行って今日のお仕事はおしまい……とはいかない。
後は死骸を片付けて飼育部屋を掃除して、リポップの準備をして鍵をかけてと。
これでようやく本当に終了だ。
今日も無事生き延びたな。
■ ■ ■
「おーい、47番」
「何です?」
仕事が終わってこれか夕食だってのに、いきなり同僚に呼び止められた。
余計な仕事じゃなければ良いんだが、なにせここは王都にあるレベル屋でも最高級。
俺が世話する最高難易度のプリズムポイズンワームの他、ニーズに合わせて20種類以上のモンスターを飼育しているからな。
手が足りなくなったり、問題が起きると駆り出されるわけだ。
こちらの当面の問題は、朝から何も食べていないって事だけどな。
「親方が呼んでいる。さっさと来いって事だ。何かやらかしたのか?」
「奴隷の俺に何が出来るわけもないだろう。仕事の方も順調だよ」
かつての戦士や魔術師なんかは、絶え間ない訓練で基礎的なスキルを磨き、低級のモンスターなんかを倒して地道にレベルを上げるしかなかった。
剣術なり槍術なり、或いは下級魔法などのスキルをまあ最低限3まで上げるのに数年。
子供の頃から学んでいればもう少し早く到達できるが、それでも成人した辺りか。
そこからモンスターを倒し、レベル1の駆け出しから一人前……大体レベル10になるまでに数年。
リーダー格のレベル30になるまでには……もうここからは個人差だ。数年で届くやつもいれば、人生のピークでようやく。或いは一生なれない奴もいる。
当然、そこまでに命を落とす奴なんてざらだ。
特に新人なんて、泡のように生まれては消えていく儚い存在である。
因みに一般の兵士なんかは大体レベル12くらい。将軍級は段違いだが、それでも100を越えるのは稀。
ところがそんな常識を、レベル屋があっさりとぶっ壊した。
スキルの習得は学習、研鑽、努力……やり方次第で独学でも身につく。
けどレベルは違う。相手が不可欠だ。一生山に籠って剣を振っても、1レベルだって上がらない。
そこで
分配式だな。
共に戦った人間や、僧侶の回復とかバッファーの強化、毒や拘束、弱体化などのデバッファーには貢献度に応じて経験値が入るが、武器や防具を作った人間には入らない。
何処までが貢献か有効かの線引きは神にでも聞かなければわからんが、時間的な線引きとか、より直接的な貢献とか言われているな。
当然、魔物を管理しているだけでは入らないが、さっきのように”攻撃されながら逃げる”という行為に関してはちょっとだけ入る。
本当にちょっとだけだけどな。
とまあ話が逸れたが、さっきみたいに超レアの超強敵を一人で倒せば凄まじい経験値が入る訳だよ。
特に互いのレベルに大きな差があるほど更に経験値ボーナスが入る。
逆を言えば、上がってしまえばそこが限界だな。ボーナスがなくなれば効率は急激に落ちてしまうのでね。一般的な大貴族様クラスでも、あのくらいが限度ってところさ。
それでも十分すぎるけどな。
つっても、今じゃ金さえあればレベル10くらいなら市民でも半年の給金で届く。
裕福な商人だと50オーバーは当たり前。
さっきみたいな貴族様なら100超えもゴロゴロといる。
特にこのマーカシア・ラインブルゼン王国はいち早くレベル屋に投資した。
様々な試行錯誤の上に今のシステムを確立し、レベル50を超える超兵団を編成。
最初はお粗末だったスキルもレベルで押し切った。
というか、元々兵士同士のスキルは何処の国も大差はない。
ましてやそのレベルでバンバン戦っていれば、スキルも勝手にガンガン上がっていく。
今では多くの近隣諸国を併合。周囲との交易で何とか成り立っていた小国も、僅かの間に超大国の一角になったという訳だ。
まあそんな事を考えている間に、いかにも成金趣味の扉の前に到着。
見るだけで憂鬱になるが仕方ない。
何度かノックして中に入る。
「47番です、入りますよ」
「よう、よく来たな。まあ座れや――あ、やっぱいい、必要無いわ。お前今日で解雇な」
こいつは何を言っているんだ?
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