最強の魔王様は転生失敗して人間になったので、大嫌いな人間の勇者のためにダンジョンに宝箱を設置する
ぼくはち
第1話 魔王死す
ここは剣と魔法の世界。
ある日、魔王城に勇者一行がやって来た。
勇者とタンク、槍使い、ヒーラー、魔術師2人の6人パーティーだ。
俺様、魔王ネロスは勇者一行に労いと歓迎の言葉をかける。
「勇者シルバとその仲間達よ、よく来たな。
お前たち人間の都と違って殺風景な場所だがゆっくりしていってくれ。」
人間の国の最大戦力である、勇者御一行の6名様にビビってるのがバレないようにできるだけ威厳がありそうな口調で話す。
だって最強の魔王様がビビるなんてかっこ悪いからな。
昔、「お前は勇者に無惨に殺されるって」なんてお告げが走馬灯に出てきたことがあったのだ。
ちょっとくらい許してほしい。
「お初にお目にかかります。魔王ネロス様。
勇者シルバ・グロッツです。
手厚く歓迎いただき感謝いたします。」
「気にするでない、シルバよ明日は魔界を隅々まで案内してやろう。
そなたも人間の国や文化について色々と教えてくれぬか?」
歴史上、人間と魔族は3回大規模な戦争していて、お互い敬遠している部分はあるが、大切なのはそれを反省して未来をよりよくしていくことだ。
魔族と人間共に手を取り合って繁栄していこうじゃないか。
ちなみに俺が魔王になってからはずっと友好関係を築いているからな、勇者様が来るとなったら国賓として丁重におもてなしをするのは当然のことだ。
最近人間の国ではあまり俺に対しての悪い噂が流れているので、簡単に会うのは危険だと進言してくる者もいたが、ここで勇者にその噂は誤解だと弁明した方が平和に穏便に事が進みそうだ。
それに、走馬灯で見たお告げ通りこの魔王城にある転生術の魔法陣を使えば、最悪死んでも転生できる。
なので、念の為に前日のうちに隠し床の下にある転生陣には魔力を込めている。
試したことはないので、正常に作動するか心配だが…
まあ、お告げ通りにはしているし、魔力はしっかりと込めてあるので大丈夫だろう。
そんな事を考えて1人頷いていると、勇者からの質問に少し不安を覚えた。
「魔王様にお聞きしたいことがございます。
今、人間の国で大量発生し暴れている魔物達や異常気象はあなたの仕業ですか?」
「知らないな。」
本当に知らない。
魔物を使役することは可能だが調教するのに時間がかかる。ペットと同じだ。
異常気象だってそうだ。
近隣ならともかく、遠方の天気なんて操れない。
彼らはその犯人が俺とでも言いたいのだろうか?
「シルバ殿、騙されてはいけませんぞ!大人しくしていたとはいえ、相手は魔族!我等が神グラディウス様のお導きにも魔王倒すべしと出たではありませぬか!」
勇者の後ろにいた修道服を着た魔術師の男がヒステリックに叫んだ。
シロをクロと決めつけるなんて素晴らしい神様だ。
「勇者シルバとその仲間達よ、悪いが魔物のことと、異常気象のことなど知らぬ。
だが魔物討伐に手を貸してやったり、食料を分けてやることならできるぞ?」
「シルバ殿!耳を貸してはいけませぬ!あなたのご家族も魔物に殺されたではありませんか!」
今度は修道服を着た魔術師の女が叫んだ。
「パルパーティ、クライス失礼だぞ。
魔界に入ってから魔王城まで感じなかったのか?僕らは何の妨害も受けずにここまで真っ直ぐこれたんだ!案内人までつけてもらった。
むしろ、歓迎されている雰囲気じゃないか!
それにおかしいと思わないのか?
魔王は護衛もつけずに1人で謁見の間に来ているんだぞ?」
その通りだ勇者シルバ!
だが1人でいるのは、魔族には単騎で戦うことがカッコいいとされる風習があるからただのカッコつけだがな。
まあ、俺は魔族最強の男魔王ネロス様だから負けるつもりなど毛頭ないが。
パルパーティと呼ばれた男とクライスと呼ばれた女は俯いる。
「ネロス様、申し訳ありません。
私どもに魔界や魔族、魔物について教えていただくことはできませんか?」
「構わん、お互い誤解があったようだしな、
いいか魔物というのはそもそも‥」
俺の魔力感知が反応する。
パルパーティとクライスが何か魔法を使おうとしているようだ。
こいつら本当に戦うつもりか?
さらに先ほどまで全く戦意を感じなかった勇者シルバと後方に控えていた3名からも急に殺気が感じ取れる。
それにしては何かおかしい。
「お前たちどうした?」
「や…め…ろ」
勇者は苦しそうに呟いた。
次の瞬間目を真っ赤にした勇者が剣を抜いて殺気を全身に纏って突っ込んできた。
ギリギリでかわすが勇者の仲間が魔法攻撃を放ってくる。
直撃した、かなりの威力だが、まだまだ動ける。
「待てお前達!話そうじゃないか!
こんなやり方必ず禍根を残すぞ?」
「…」
誰からも返事がない、何か様子がおかしいが戦うしかないようだ。
殺さないように、全員気絶させよう。
俺は凍結魔法で部屋の温度を一気に下げた。
寒さで動きが鈍くなるはずだ、持久戦に持ち込んで制圧しようと考えた。
しかし、パルパーティとクライスとやらが2人掛りでレジストしてくる。
「クソ!」
強力な魔法を室内で使う訳には行かない。
魔王城が壊れてしまうからな。
剣を抜いて戦うか?
しかし勇者一行に怪我人を出してしまっては人間の国と本格的な戦争になってしまうかもしれない。
考えてる間でも、勇者シルバとその仲間達は攻撃の手を緩めない。
部屋の損壊などお構いなしに強い攻撃魔法や斬撃を放ってくる。
俺はそれらの攻撃を全て防御魔法で防ぎ切り、攻撃に転じた。
しかし、俺が魔法攻撃をするとレジストされ、直接攻撃をすると、タンク役が攻撃を防ぎ、カウンター攻撃を別の人間が行う。
攻撃が当たってもすぐさまヒーラーが回復させる。
とても効率的で仲間を信じた戦い方だ。
人間がなぜパーティーを組んで戦うのかわかった気がする。
戦いにおいては個人主義の魔族が、今までの戦争で最後には魔王が討ち取られ負けるのか理解できた。
勇者との戦いが終わったら無理矢理にでも取り入れよう。
「なかなかやるじゃないか!
しかしお前達もそろそろ疲れてきたのではないか?」
「…」
相変わらず誰も応えない。
まあいい。
『パァン!!』
俺は目眩しに小規模な爆発魔法を使用して隙を作り、勇者陣営の懐に潜り込んだ。
そしてヒーラーの女の溝落ちに拳を叩き込んで気絶させる。
これで勇者一行は回復の術を失った。
あとは消耗してきたところを一人一人気絶させてればいい。
そう思った時だった。
急激に体の力が抜けて跪いた。
どうやら魔力切れで動けなくなったようだ。
おかしい!
俺は今の戦いと、昨晩の転生陣に魔力を込める作業でしか魔力を使っていない。
それにその程度のことで切れを起こすほど、俺の総魔力量は少なくない。
全体の3割も使っていないだろう。
このままではまずい、逃げるか!
俺は全力で走って扉に向かったが、いつの間にか強固な結界が張られていて出ることができなかった。
今の状態では結界を破るのに時間が掛かる。
もちろんその隙を逃すほど勇者一行は甘い連中じゃない。
しばらく勇者達の攻撃に抵抗したが、やがて力尽きた。
俺の首筋に剣を突きつけながらシルバが聞いてきた。
「言い残すことはないですか?」
ちくしょう、負けた。
部屋が壊れるとか、死人を出さないようにとか考えず戦えばよかったとは思うが、まあいいや。
さっさと転生して次会った時はケチョンケチョンにしてやる。
「シルバ、気をつけて帰れよ。」
シルバの剣が振り上げられた。
俺は転生術の魔法陣を起動させた。
ゴゴゴという鈍い音と共に部屋が揺れ、床が光り始める。
「シルバ!ネロスはなにか起こすつもりだ!早くヤれ!」
剣が振り落ろされ首が飛ぶ、薄れゆく意識の中で覚えていることは、シルバが泣いていたことと、「ご苦労」という重く響く声だった。
次に意識がもどった時はまばゆい光の中で俺の手を引っ張ってこっちだ、あっちだと騒がしくしてる白い霧の球体のようなやつに魂を引っ張り回される感覚だ。
なんだこいつは、転生する時に現れる妖精のような奴か?
話かけようと思っても声が出ない、抵抗しようにも力も出ない。
転生なんて初めてなので勝手がわからない。
こんなことなら一回試しておくべきだったな。
願わくば、イケメンで頭が良くて高身長で超強くなれて無双できる魔族に転生させてくれ!
声が出せないので俺は心の中で白い球体に念を送り続けた。
俺の念が届いているかは全くわからないが…
そして白い球体は、良い物件をようやく見つけたのか、「これだ!」と叫んで俺の魂を転生先の体に叩き込んだ。
感覚が急にもどってくる。
少し寒いな。
目を開けてみると先ほどのまばゆい光の中ではなく、薄暗い森の中だった。
先ほどの謎の白い球体はいないようだ。
あいつは何だったのだろうか。
とりあえず落ち着いて自分の身につけているものや周りを捜索して整理してみる。
ここはどこだ?魔王城か?魔界のどこかか?
場所はわからなかったが、俺は今森の中にいて周りには人間の死体が20人ほど転がっている。
全ての死体に外傷はないが、何かと争った形跡はある。
「穏やかじゃないな。」
俺が持っている装備は人間の鎧、人間の剣、人間の盾、人間の水筒など人間が使っている物ばかりだ。
鏡がないので顔は見れないが、手足や胴体を
おそらくだがいや、間違いないだろう。
「まずいなどうするか…」
俺は人間に転生してしまった。
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