見た目は普通の高校生、中身は異世界最強の剣聖〜全ての怪奇相手に剣一つで無双する〜

あおぞら@書籍9月3日発売

第1章 剣聖と学校の怪奇

第1話 誕生日、厨二100%の記憶を思い出す

『———ふっ……所詮、強さを追い求めた者の辿る末路はこれか……』


 俺は、てっぺんの見えない超巨大な世界樹に寄り掛かりながら、血が次から次へと溢れる腹部の傷を押さえ……己を嘲笑する。

 剣は折れ、全身傷だらけでもう立ち上がることさえ出来ない。

 広大な平原を見渡せば、一面に数万、何十万にも及ぶ兵士や魔法士の死体が無造作に転がっていた。


『……せめて最後くらい、家族に謝りたかった……」


 俺は、とある辺境の村で生まれた。

 周りを森に囲まれ、完全に隔離されている村。

 昔からその村の周りには凶悪な魔物が数多く生息し、相対的に村の者はある一定の力量に達しなければ大人と認められない特殊な村だった。

 

 俺は、そこで村一番の天才と謳われた。

 身体が生まれつき強靭で、鍛えれば鍛えるほど人間離れしていく。

 魔法はからっきしだったが……剣の才能は誰も寄せ付けない程で、剣の腕前も僅か10歳にして村最強の座を手にしたほどだった。


 しかし俺は、昔から外の世界を見てみたいという夢があった。

 自分の剣がどれほど通用するのか、気になって気になってしょうがなかったのだ。

 

 だから俺は———15歳となった夜、村を出る決意をした。

 村長や村の住人は勿論、家族にさえ話すことはしなかった。

 誰もが寝静まった深夜、俺は村をそっと飛び出した。

 道中で魔物に襲われたが……村最強と呼ばれた俺の敵ではない。


 あれから20年……村の人は勿論、家族とも会っていない。

 突然逃げ出した俺が再び会って、皆んな何を言われるのか怖かったからだ。

 その恐怖から逃げ、ずっと考えないようにしてひたすら剣の腕を磨いていたら、いつしか剣の頂点———『剣聖』と呼ばれるまでに至っていた。

 

 だが実情は、家族に会って何と言えばいいか分からず腕を磨くことを現実逃避の一環にしているだけで、そこに嘗ての力への渇望はあまりなかった。

 俺は人生の半分以上、家族のことを考えないために剣に熱中していたに過ぎなかったのだ。



 その結果———俺は強くなり過ぎて世界を敵に回してしまった。



 どの国も、1国をたった1人で滅ぼせる俺の存在が邪魔だったのだ。

 俺は誰かに縛られることを嫌い、何処にも所属しなかったのも大きな要因だろう。


 首輪を着けられぬ最強は危険なだけ……と考えた世界の大国達は、俺を排除するために同盟を組んだ。

 当然大国が同盟を組めば、その周辺国は勿論のこと、離れた小国でさえ自分が俺の味方ではないと示すために追随するように同盟の傘下に下る。

 結果……人類だけでなく亜人族や魔族、長耳族らも同盟に入った。

 

 そこから俺対世界の戦争が始まった。


 だが結果は———日の目を見るまでもなく明らかだった。

 圧倒的な数の暴力に、俺は屈した。

 不覚にも腹部に止血などもはや全く意味をなさない致命傷を受け、もう身体も動かせない。

 

 


『も、もし……ごほっ……来世があるのなら……家族を大切にしよう……』




 俺は、此方に向かってくる大群を視界に納めたのち、既に朧気となった家族の姿を思い出しながら———ゆっくりと目を閉じた。

 

 








 ———誕生日。


 それは高校生であっても少なからず嬉しい1日だろう。

 社会人の方々は知らないが……少なくとも俺———朝山あさやま剣人けんとにとっては嬉しい日である。


 そんな嬉しい1日の朝7時。

 今日、5月24日で17歳となる俺は目を覚まし、ベッドから上半身だけ起こした状態で眉間に皺を寄せ、呟いた。


「———…………何なんだよ、あの厨二真っ只中みたいな夢は……」


 高校生の俺からすれば、見ただけで黒歴史になりそうな内容の夢。

 友達は勿論、家族にすら言えない恥ずかしい内容の夢……なのだが。


 ……何か、妙にリアリティーあったよな……。

 夢なのに痛みとか血のむせ返る匂いとか感じたし……。

 てか、夢と言うよりは……1人の人間の人生を体験した、と言った感覚に近いか?

 

「マジで何だよ……あ、もしかして前世の俺だったりして」


 ……………ないな、ないない。


 俺は即座にその可能性を否定する。

 そもそも前世の夢を見るとかそういった類のモノは二次元の中だけだ。

 現実でそんなファンタジーな出来事は起こらないと、この17年間で嫌と言うほど理解している。


「まぁどうせ夢だし考えるだけ無駄か。さっさと準備しよ……」


 俺はそう自己完結させ、ベッドから降りる。

 生憎、幾ら誕生日と言えど今日は学校なのでぐうたらする時間はない。


 不思議な夢を見た程度にその夢の内容を頭の片隅に置き、クローゼットに向かう。

 俺の通う高校は公立なので制服が勿論ある。


「ま、私服って面倒だし文句はないけどな」


 だが出来れば、夏だけは私服でいさせて欲しいよな。

 制服、夏服でもくそあっついし。

 

 何て他愛の無いことを考えながら制服を着ていた時———。



「佳奈、ちょっと剣人起こしてきて」

「えー……かな、まだ食べてるんだけどー」 



 ………………は?


 俺は思わず自分の耳を疑う。

 今聞いた声は、間違いなく俺の母親と小学3年生の妹の佳奈のモノだった。

 しかしそれはおかしい。

 だって———。




「……この部屋、リビングの真上だぞ……?」




 恐らく……というかほぼ確実に2人はリビングにいる。

 佳奈がご飯を食べているのが何よりの証拠だ。

 大声ならまだしも、普通の会話程度の声量で俺の部屋からリビングの声が聞こえるなんて有り得ない。


 ……え、今の幻聴……なわけないよな、流石に。

 でもならどういう———ん?


 俺が頭を悩ませていた最中、ふと、俺の部屋のドアの向こうから気配を感じた気がした。

 意識を集中させれば呼吸音も聞こえてくる。

 俺は唾を飲み込んで恐る恐る内開きのドアを開けると……。


「……佳奈……」

「え!? 何で分かったの、お兄ちゃん!? かな、お兄ちゃんを驚かせようと思って静かに来たのにーっ!」


 ドアの前に、息を潜めて取っ手に手を伸ばしたまま固まる、ツインテールの黒髪黒目の可愛い妹———佳奈の姿があった。

 佳奈はバレたことに不服そうに頬を膨らませ、抗議の目を向けてくる。

 俺は目の前で信じられないことが起きたことに呆然としながら、何とか謝る。


「あ、あぁ……ごめんごめん」

「むーっ……お母さんが早く降りてこいだって」

「あ、うん、着替えたら降りるって伝えてて……」

「はーい」


 そう言って次こそは……などど呟きながら佳奈は下に降りていく。

 俺はそんな佳奈の様子を見ながら……唖然としたまま零した。





「…………あの夢、実はマジもん……?」



 


—————————————————————————

 どうも、あおぞらです。

 逆転生の作品はあんまり書いたこと無かったので、挑戦してみました。

 どうぞ、よろしくお願いします。


 また、ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!

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