聖女様追放されるってよ
いぎたないみらい
俺も追放っすかー
「マリア!お前を追放する!」
「…は」
「お前はこの10年間、聖女ではないにも関わらず、王宮と神殿に虚偽の申告をし、我が国を騙していた。これは国家転覆の行為として見られる。故にお前は大罪人である」
絶句した。
意味がわからない。聖女に関して虚偽の申告なんてできるはずがない。そもそも、聖女様は貴方の目の前で力を見せたから聖女なんだろう?神殿長。
「な…なにをおっしゃって…」
「黙りなさい。発言を許した覚えは無いですよ?聖女…いえ。罪人マリア」
「シャーロップ、王女殿下…」
「王女殿下の名を気安く口にするな!」
ガンッ!
「!?うっ…っ…」
衛兵が聖女様を上から勢い良く押さえつけた。
なんてことをっ…!当たり方が悪ければ、鼻が折れるだろうが! 王女もだ!世界の宝である聖女の一人を罪人扱いなど、例え一国の王女でも赦されることではない!
「お待ち下さい!聖女様がそんなことをするハズがないでしょう!」
「!レイソン君…?」
「…ああ、居たのですか。婚約者サマw」
「ハッw 王女殿下の婚約者サマとはいえ、罪人を庇うとはどういった御了見で?ましてや、アナタは只の子爵家子息だ。何ができると言うのか」
周囲から嗤いが巻き起こる。当然だ。全て事実なのだから。王女の婚約者とはいえ、子爵家に籍をおいている今の俺が神殿や王族に勝てるわけがない。
だが、婚約者の過ちは咎めるべきだろう。
「…私は聖女様の学友として、よく御仕事のお話を聞いています。聖女様が偽者であるなど、考えられません。それに証拠がないでしょう?」
「証拠ならばここにありますよ」
幾つもの束ねられた書類を見せ付けてきた。聖女様が今まで行ってきた仕事の内容、学園での行動、虚偽申告の方法などなどが読み上げられていく。全てがあり得ないものだ。王女と神殿が作り上げた話だ。
それなのに…。
「これらの行いは、学園の生徒たち、仕事に関わっていた者たち、王宮の方々、そして民衆からの証言により調べがついています。そこの女は、罪人なのです」
―――グルだ。この国の全員が、揃って貶めようとしている。……正直言って、腐ってる。
「っ陛下は、国王陛下は何か」
「父上からも許可が降りています。聖女を騙った罪人を我が国から追放せよと。良かったですね、マリア。父上が優しい方で。
―――死刑にならなくって♡」
王女が聖女様の耳元でそんなことを囁いた。周りの者たちは、にやにやとしている。
国王陛下は一体何を考えているんだ?聖女様の価値をお忘れになったのか?
この国の者共は、聖女様をなんだと思っているんだ。
「というわけだ。マリア、今すぐに我が国から出ていってもらおうか」
「あ、そうそう。アナタもですよ?レイソン殿。わたくしとの婚約を破棄し、この国を出てもらいます」
「なっ、何故です!?レイソン君はなにもしていないでしょう!?」
「 チッ!発言を許可していないと言っているでしょう!罪人がっ!!」
パシンッッ!
「聖女様!大丈夫ですか!?」
聖女様が扇子で頬を叩かれても、嗤って見ているだけなのか、コイツらは…!
俺の中で、ナニかが切れた。
―――ああ。もういい。
「わかりました」
「レイソン君っ!『わかりました』じゃないですよっっ!!」
「聞き分けが宜しくて結構。さっさと出ていって下さいな」
「二度と我が国に訪れるなよ、お前たち」
「聖女様、行きましょう」
聖女様の手を引き、俺たちは罵倒と嗤いに包まれながら、会場を後にした。
「レイソン君!何を考えてるんですか!」
「聖女様、これからどうなさるつもりなんですか?」
「話を聞いてくださいっ…!」
「聞いていますよ。聖女様がお一人で国を出て、何事も無く、別の国へ行けると思っているんですか?魔物ならなんとかなるかもしれませんが、盗賊はどうするんです?」
「ほえっ」
「入国手続きは?そもそも、他国への旅路の支度は?食糧はあるんですか?」
「…ッ…えぇ~っ、とぉ~」
あ、目ぇ逸らしたぞ、この人。
「考えてないんですね」
「ぁ…っ………~~~~~っはいぃ~…」
「ですよね。知ってました、知ってました。と、言うことで。我が国に来ませんか?」
俺は満面の笑みでそう言った。嬉しいんだからそりゃ笑う。今ほど、幸運なことは無い。
「……。
…………。
………………………。
…………………………………ほえぇっ?」
聖女様が驚いている間に迎えの馬車が来た。俺は馬車に乗り、聖女様に手を差し伸べながら言う。
「俺の出身国で隣国の、メルカトル帝国へ」
「………えええっ!!???」
世界最大の国、メルカトル帝国。世界中の、聖女に対する認識を共通のものにする [聖女保護法] を提案した国であり、世界トップ3に入る武力、頭脳、文明をもつ国だ。
俺は訳あって、王国にいる遠い親戚の子爵家に一時的に籍をおいていた。地味だしフツメンで理想の皇子様とは言えないが、一応帝国の第二皇子だ。
――と、いう旨を移動する馬車の中で聖女様に伝えると、案の定。
「今までご無礼を働いてしまい、大ッッ変ッ、申し訳御座いませんでしたああああ!!!」
ズシャァァァッ!!って音がつきそうな勢いで頭を下げられた。あれ、今にも土下座しそう?てか土下座されてる?
「ちょっ、お気になさらないで下さい、聖女様」
「いえいえいえいえいえ!私ごときに敬語なんて不要です!第二皇子殿下さま!」
「落ち着いて下さい。聖女様は私より身分が高いので、敬語をとることは出来ません」
「いやいや、私、身分高くないので!」
「いえ、高いですよ?帝国は建国の際も、建国後も、初代聖女様に幾度と無く助けられているんです。なので、国の統治をするのは皇帝ですが、帝国の最高位にいるのは聖女なんです」
「ほえっ」
この人、驚くと変な声出すよね。
「ところで聖女様。王国の結界はどうされるんですか?」
「…ハッ ! ( 危ない、思考停止モードに…… )えと、結界ですか?」
聖女の結界は魔物の力を1/10以下にすることが出来る。悪魔の場合は1/5に減少し、さらに少しずつだが自動で浄化することも出来る。結界内では人間の身体能力が強化されるため、どの国も聖女を欲している。
「あの国の結界ならもう解いちゃいました。聖女の加護が当たり前過ぎて、もはや仕事してないと思われてたみたいなので。ムカついて!」
スッゴいにっこり笑顔だ。可愛い。
「今はこの馬車と、護衛さん?に結界を張ってます」
「…護衛に気付いてたんですか?」
「?はい。いつも居ましたよね?2人くらい」
「!……ハハッ…。やっぱり貴方は本物だ」
うちの護衛が気付かれたことは、今まで片手で数えられる程しかないのに。
まるで初代聖女様だな。
―――帝国に着いてから、聖女様はのびのびと暮らしている。
「すっっごく楽しいです!それに、ありがとうって言ってくれて、頑張ろうってなります。嬉しいなあって」
お気に召して頂けたようで何よりだ。
今日はこの国で出来た友達となにやら買い物したらしい。
――王国は魔物と悪魔の一斉襲来によって、滅亡しかけた。当然だ。聖女様によって生きていられたのに、その聖女様を罪人として追放したのだから。
聖女様が王国へ救助に行かれたので、俺もついていった。何があるかわからないからな。そこで王女に会ったんだが、俺が皇子と聞いてあからさまに態度を変えていた。
全部スルーしてやったよ、ざまあw。王女の様子を見て、聖女様もスッキリしたらしい。
やっぱり、聖女様には笑顔が似合う。
聖女様追放されるってよ いぎたないみらい @praraika
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