第16話

フェスティバルの二日目、香織と涼介は引き続きワインとグルメを楽しみながら、会場を見て回っていた。彼らは前日に出会った田中静子と再び顔を合わせた。静子は笑顔で近づいてきたが、その表情にはどこか影があった。


「おはようございます、田中さん。」香織は静子に微笑みかけた。


「おはようございます、三田村さん、藤田さん。」静子も笑顔を返したが、その瞳には何か悩みが見え隠れしていた。


「田中さん、何かお困りのことでもありますか?」香織は静子の様子に気づき、優しく声をかけた。


静子は一瞬躊躇したが、やがて深いため息をついて話し始めた。「実は…お二人にお話ししたいことがあるんです。お時間をいただけますか?」


「もちろんです。」香織は静かに頷いた。


「どうぞ、こちらへ。」静子はフェスティバルの喧騒から少し離れた静かな場所へ二人を案内した。彼女は深呼吸をしてから、重い口を開いた。


「実は、最近インターネットで知り合った男性に騙されてしまったんです。」静子の声は震えていた。


「それは大変でしたね。どういう経緯でそうなったのか、詳しく教えていただけますか?」涼介は静子に寄り添いながら尋ねた。


「彼とはSNSで知り合いました。彼はアメリカに住むビジネスマンで、優しくて紳士的な人でした。最初はただの友達として話していただけだったのですが、次第に親しくなり、やがて彼から愛の告白を受けました。」静子は少しずつ話を続けた。


「そして、彼が突然ビジネスで大きなトラブルに巻き込まれたと言ってきました。どうしても資金が必要だと頼まれ、私は彼を助けたい一心で大金を送金してしまったんです。でも、それから彼の連絡が途絶えてしまって…」静子は涙をこらえながら話した。


「それは本当に辛かったでしょうね。送金したお金はどのくらいの額だったのですか?」香織は静子に優しく尋ねた。


「日本円で約300万円です。」静子はうつむいて答えた。


「300万円…それは大金ですね。彼に何か手がかりになる情報はありますか?」涼介は静子に詳しく聞いた。


静子はスマートフォンを取り出し、彼とのメッセージや写真を見せた。「これが彼から送られてきた写真とメッセージです。」


香織と涼介はスマートフォンの画面をじっくりと見た。彼の名前やプロフィール、写真は一見本物のように見えたが、香織はすぐに違和感を覚えた。


「この写真、どこかで見たことがある気がする…」香織は考え込んだ。


「私も同じだ。インターネットで逆検索してみよう。」涼介は香織の提案に同意し、写真を逆検索した。


検索結果には、同じ写真が複数の詐欺事件で使用されていることが示されていた。これは確実にロマンス詐欺の手口だった。


「田中さん、これはロマンス詐欺です。彼の写真は他の詐欺事件でも使われています。」香織は静子に説明した。


静子はショックを受け、目に涙を浮かべた。「そんな…やはり騙されていたんですね。」


「田中さん、安心してください。私たちが彼を見つけ出し、あなたのお金を取り戻すお手伝いをします。」香織は力強く言った。


「ありがとうございます…お二人に出会えて本当に良かった。」静子は感謝の気持ちを込めて言った。


「これから、彼の情報を詳しく調査し、手がかりを見つけましょう。静子さん、彼から受け取ったメッセージやメールをすべて提供していただけますか?」涼介は丁寧に依頼した。


「はい、もちろんです。」静子はスマートフォンからデータを転送した。


香織と涼介はそのデータを分析し、詐欺師の手がかりを追うために、さらに調査を進めることにした。古城でのワインフェスティバルという美しい舞台の裏で、二人の探偵は新たな謎と対峙することとなった。


「香織、このフェスティバルに参加している人たちの中にも、同じように騙されている人がいるかもしれない。」涼介は考え込んだ。


「そうね。彼らの手口を暴き出すためには、さらに多くの証拠を集める必要があるわ。」香織は決意を新たにした。


こうして、香織と涼介は静子のためにロマンス詐欺の犯人を追い詰めるための調査を開始した。美しい古城の中で繰り広げられるフェスティバルの華やかさの裏には、闇に潜む真実が待ち受けているのだった。

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