第17話 ヘアピン、言及とありがたみ
雑貨屋。
カバンから羽子板まで何でも揃っている。
「ここで最後に色んなもの買おっか」
「そうね」
まずは自立する鏡。
「どの色がいい?」
「これね」
ピンクを指さした。
「ん」
拾ってカゴに入れる。
「あとは」
自分用の単三電池。
「何に使うの?」
「去年買ったミニ扇風機に、
もうすぐ使うだろうから」
「私もその扇風機買おうかしら」
「いいね」
ミニ扇風機コーナーへ。
「不思議なのだけど、
何故今更こんな簡単なものが流行ったのかしら」
「さあ?皆が使ってるからじゃない?」
「そういう安易な買い方は避けたいわね」
「どうする?」
「私は、
すみれさんが使っているから買おうかしら」
「エヘヘ」
ピンクのものがカゴに入った。
「あとは、櫛が欲しいわね」
「髪長いもんね」
「ええ、油断するとすぐにはねるの」
「くせっ毛なの?」
「そこまででもないけれど、悪い日は酷くなるわ」
「ヘアアイロンとかどう?」
「そこまでするほどではないのかも」
「まあ高いしね」
手頃な櫛をカゴに入れた。
雑貨屋を適当に見て回る。
ある場所で、霊美ちゃんが足を止めた。
カラコンのコーナーだ。
「欲しいの?」
「あ、いえ、
よく女子校生がつけている
というイメージがあって」
「うん、私もつけてるよ」
「へ…そう…」
目を覗き込まれる
「つけてみる?」
「いいの?」
「いいのって…いいよ、
霊美ちゃんは自由なんだから」
そう言うと、目を輝かせながら見始めた。
「どれがいいのかしら…」
「何でもあるよ、
お化けみたいに黒目が大きくなるやつとか」
「ジョークグッズとして、一考の余地ありね」
同じ棚をぐるぐるする。
「すみれさんは、何がいいと思うかしら」
「そうだね…霊美ちゃんは綺麗な黒髪してるし、
黒を強くするのもいいかも」
「なるほど」
黒目が大きくなるやつを
先に言うべきじゃなかったと今思う。
「後は、色の強いやつがチラッと見えたら、
この人おしゃれだなとはなるかも」
「すみれさんも?」
「私も、もちろん」
引き合いに出されるのは恥ずかしいな。
「これ…にしようかしら」
やや強めの青を選んだ。
「ピンクとかじゃなくていいの?」
「ええ、最初は落ち着いたものに」
「それがいいと思う、
あと、買った時にアプリおすすめされるからね」
「わかったわ」
霊美ちゃんがおしゃれに目覚めていくのは、
私としても嬉しい。
でも少し、心配なところがある。
霊美ちゃんは
私が普通を目指しているところが凄いと言った。
でもそれは周りに合わせているだけで、
実際はそこまで難しい道ではなかったと
知られた時、霊美ちゃんはどう思うか。
「すみれさんは物知りね」
「…え?」
意外な言葉が出てきた。
「霊美ちゃんの方が物知りだよ」
「ある方面ではそうね、でもこういった、
美容関係は本当に詳しいと思っているわ」
「いやいや、私なんて全然、
ブランドとかも沢山知ってるわけじゃないし」
「私も、知らないことの方が多いわ」
「うーん…」
確かに哲学のような分野に関して、
私が今学び始めても
霊美ちゃんに追いつける気がしない。
現在進行形で知識を蓄えているだろうから。
霊美ちゃんも、同じ気持ちなのだろうか。
「これからも沢山のことを教えて欲しいわ」
「こちらこそ」
「他になにか買うものあるかしら?」
「私はない」
「私もないわ…お会計しましょうか」
「うん」
電池を握って近くのレジへ行く。
隣では霊美ちゃんがアプリの説明を受けている。
初めてのことのようでやはり
時間がかかりそうに見えるが、
こういう買い物も多いので
今のうちに慣れてもらおう。
商品を見て回ろう。
「あ」
いいものを見つけた。
霊美ちゃんの角度から見えないように、
会計する。
早速開封してスタンバイ。
「ありがとうございましたー」
「あ、ありがとうございました…」
「お疲れ様」
「本当に…疲れたわ」
「霊美ちゃん、目瞑って」
「…?まだ店内よ?」
「違う違う、とりあえず」
「ん」
『パチ』
「はい」
霊美ちゃんが買った鏡を差し出す。
「これは…」
花のしつらえたヘアピン。
花の名前は、すみれ。
「…」
「…」
「ちょ、ちょっと重すぎ「いいわね、これ」
「すごく可愛いわ」
「そ、そう?」
「花の名前は何かしら?」
あ、はい、そうですよね。
自分の名前だから覚えてるだけで、
普通の人はすみれの
名前と物が一致しませんもんね。
「わ、わかんないや…」
自分の口から言うのが恥ずかしく、
はぐらかしてしまう。
「ふぅん」
霊美ちゃんは即座にスマホで検索を開始した。
「あ、ちょ」
「どうしたの?」
「いや何でも…」
「何でもないなら」
「何でもなくはない…けど…」
「そういうのははっきりと言って欲しいわ」
「うう…」
自分で言うという墓穴を掘ってしまった。
「その花の名前、すみれ」
「…ふーん」
あーあー言っちゃった。
「それなら後生大事に、
肌身離さず持っておくわね」
「そうしてください」
「ときめくほどいじらしいわね」
「まだ言うの」
恥ずかしくて死にそう。
「私も何か送ろうかしら」
「へへ…本物が
そばに居てくれたらいいんじゃないんですかね」
あ、クサいこと言った。
「…名案ね」
『ギュ』
手を繋いだ。
「手繋ぐのって、初めてだっけ?」
「そうかもしれないわね」
「何回もキスしてるのにね」
「更にそれ以上の…」
そこで口はつぐまれた。
そう、あれ以来アレの話は一切していなかった。
もちろん意識はする、キスしている間も、
いつ舌が唇を割って入っているか考えていた。
言及したのは今が初めて。
つい数時間前とは思えない程の、
遠くの方にしまっている思い出。
これが近づいてきた時、果たしてどうなるか。
「…あの時は、ろくな了承を取らずに行って、
ごめんなさい」
意外な方向の言及。
「うううん、あれ以外方法がなかっただろうし、
気にしてないよ」
「そう、ならよかったわ、本来ならあれは、
その、もっと関係が発展して、
大人になってからすることだもの」
そう明言されると、より背徳感が増してしまう。
「今どきのカップルじゃ、
そこまで珍しいことではないと思うし、
そんなに気負い過ぎなくてもいいと思う」
「なら…またいつかする?」
ドキッとした。
近づいてきた。
「うん…またいつか、特別な時に」
「そうね、
高頻度でやるとありがたみが無くなるものね」
ディープキスのありがたみとは。
気持ちいいことか。
「まだ時間あるし…お茶してから帰ろっか」
「そうしましょう」
「あ、ちょうどいい所に」
よく見るカフェチェーン店を見つけた。
「席空いてるかな」
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