第8話 授業参観


『キーンコーンカーンコーン』

「起立、礼、着席」


授業参観が始まる直前の昼休み。

既に誰かの親がちらほらと集まってきている。

霊美ちゃんは、

遠目からでもわかるくらいソワソワしている。


「霊美ちゃん」

「すみれさん、こんにちは」

「今日のお昼も購買?」

「ええ、そうなるわね」

「じゃあ…これ!」


霊美ちゃんの机に弁当箱を差し出す。


「これは…」

「今日のために作ってきたの」

「そ、そうなのね。

すみれさんも授業参観に

身が入っているようで何よりだわ」

「…?霊美ちゃんの分だよ?」


霊美ちゃんが畏れながら弁当箱に触れた。


「や、やっぱりそうなのね…でもどうして?」

「霊美ちゃんを応援するために、ね」

「そ、そう。そんなわざわざ…」

「霊美ちゃん頑張ってるし、これくらいさせてよ」


「なら、お言葉に甘えて…

お弁当なんていつぶりかしら」

「いただきます」

「あ、いただきます」


恐る恐る紐をといている。

早く開けて、リアクションを見せて。


『パカ』

「あら…」


霊美は蓋を開けた体勢で固まっている。

弁当には自分で気恥ずかしくなるくらいの

文字が乗っている。


『ガンバレ!ダイスキ!』


霊美ちゃんは未だポカーンと口を開けている。


「…あーん」


その口にタコさんウインナーを入れる。


「モグモグ…ハッ!」


可愛い。


「美味しいわ…」

「えへへ」


霊美ちゃんの箸が途端に進み始める。

文字をつまむときに

一瞬躊躇するのがまた可愛い。

あっという間に食べ終わる。


「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

「本当にありがとう…

私のためにこんなものを用意してくれて」

「いいのいいの、また作って来ようか?」

「それはさすがに申し訳ないわ…」

「ううん、やっぱり作らせて。

惣菜パンとかおにぎりばかりだと

栄養偏るから…って私、

お母さんみたいなこと言っちゃったね」

「そ、そうね」


返答しずらいことを言ってしまった。

自重しよう。

チャイムがなる一分前に席に戻ったが、

霊美ちゃんはまだソワソワしている。

まだ来ていないのだろうか。

もうすぐ授業が始まる。


『ガラッ』

「!…!?」


最後に入ってきたのは、

どこかオーラのあるギャルっぽい人だ。

前時代的なギャルではなく、

今どきの茶髪にウェーブをかけたギャル。

霊美ちゃんはその人を見て、

明らかに動揺していた。


『キーンコーンカーンコーン』


そしてチャイムが鳴った。


「きりーつ、れーい、ちゃくせきー」


霊美ちゃんは動作の一つ一つが

ワンテンポ遅れていた。


『ガラッ』

「ごめんなさーい」


うちの母親もワンテンポ遅くやってきた。

いつもこうだ。


「ではまず昨日の続きから───」


流石にもう上の空ではないようで、

授業に集中していた。



「きりーつ、れーい、ちゃくせきー」


担任の授業だったので、

即座にホームルームが始まり、

つつがなく終わる。

後は各々の家族と帰る時間となるだろう。

一組を除いて。

霊美ちゃんとギャルっぽい人が

どこかへと歩いていった。

それに着いていく。


「ちょっとすみれ?」

「あ、お母さんは先に帰ってていいよ、ばいばい」

「あ…もう、勝手な子」



二人は校庭の人気のない場所で止まった。


「何故あなたがここにいるの?」

「何でって、

おばさんが忙しいから私が代わりに

頼まれただけじゃん、それに一応親族でしょ?」

「…まあいいわ。

それで、この学校の様子は見たの?」

「うん、名前の通り普通の女子校って感じだね」

「はぐらかさないで。幽霊のことよ」

「んー?なんのことだろ」

「はぐらかすのもやめなさい。

この成果には私の生活がかかってるの」


終始冷静なように見えて、

風上はギャルっぽい人にあるように見えた。


「確かにいがちな地縛霊は居ない。でもね」


あ、浮遊霊。

に、ギャルっぽい人が引き絞った

デコピンを差し出した。


「だから何?って感じ」

『バシュ!』


一瞬で、消滅した。


「ここらの地縛霊の強さなんてたかが知れてる。

それを払ったくらいで、

おばさんが評価してくれると思う?」

「功績に見合った報酬は与えてくれるはずよ」

「報酬金の分前は確かにきちんとくれるけど、

お金になってないのならビタ一文も貰えないよ」

「それは…

学校側に相談すれば「事後報告は

一番の下策だって言われたでしょ?」


ギャルっぽい人の語気が強くなる。


「それにおばさんにはこのこと伝えてるの?」

「伝えてないわ…

そもそも私が除霊できるなんて

思っていないでしょうし」

「うんそこがマジで不思議、どうやったの?」

「それは…」

「言えないんだ。

まあおバカな霊美ちゃんのことだから

ろくな手段は取ってないだろうし、

訊かないでおいてあげるね。

あ、おバカな霊美ちゃんがどうし「やめて!」

「「!?」」


不味い、咄嗟に出てきてしまった。


「すみれさん!?」

「誰?友達?あ、そんなわけな「そんな感じです」

「いえ、彼女よ」


一瞬、空気が凍りついた。

親族の人にすぐに

カミングアウトしなくてもよくない?。


「ふ、ふーん…」


だが確実にギャルっぽい人を

動揺させることはできた。


「あ、なるほど。君が霊美ちゃんの協力者ね…

ふーん、見えてきた見えてきた」

「何がですか?」

「君、利用されてるよ」

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