みちのくさ短歌
なばな
春
あそこにはわたしの家があったのだ新築の庭プランターの花
県道にかそけく一本咲く菜花十五インチのタイヤ過ぎゆく
月明かり工業地帯を通り抜けキャベツ畑の真珠の卵
待つ駅のレールの間に咲くすみれ届きそうでも届かぬ距離で
廃線の跡を癒すかのように蔓延る茅萱綿毛を撫でる
中庭のプラスチックの鉢植えに忘れ置かれたチューリップの花
日曜は町内会の草むしり黄色いたんぽぽ強くて憎い
地上にも星は瞬く片喰は這い蹲って靴底の下
望むまま荒野にその身を投げ出して無辺にひそかに姫岩垂草
階段のすみにそのまま吹き溜まり桜の花びら見る人もなく
びっしりとカラスノエンドウ蟻牧に集られるため生まれてきたの
芍薬は己の豪奢に堪え兼ねてひとひらひとひら剥がれて落ちる
乾涸びて白茶けて散る藤の花かき集めても色は戻らず
枯れ溶けたつつじの花は我が腕の火傷の痕のように爛れる
春風の空は青くもアネモネは心の黒を手放さずにいる
パンジーはマンホールの蓋の中半永久に咲き続けるよ
ハルジオンむかし遊んだともだちの家の更地に可憐に揺れる
夕映えに負けじと赤くゼラニウム我もそうあれそう思えども
丁寧な暮らしに敗れガーベラの埃をかぶる一輪挿し
思い出は開かない戸の中乾涸びた白詰草の花のかんむり
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