Days27 鉱物
外が暑かったせいかなんだか疲れてしまって、学校の夏期講習から帰宅したあと、自分の部屋のクーラーが効いてくるまでリビングで涼んでいようと思ってソファに横になったら、そのまま意識が落ちた。特に頭痛や吐き気がするわけではないので熱中症というわけではないと思うのだけど、リビングで寝てしまった。とても恥ずかしい。わたしは親にももう何年も寝顔を見せていないことが自慢だったので、高校三年生にもなって居間のソファで寝落ち、なんて悔しかった。
はっと目を開けると外はすでに薄暗くなっていた。壁時計は六時過ぎくらいだった。かれこれ二時間近く寝てしまったようだ。レム睡眠とノンレム睡眠のリズムの問題で人間の睡眠時間はだいたい一時間半のサイクルになる、と聞いたことがあるが、まさにそのワンサイクル寝ていたことになる。
ソファの上であおむけになっている。その腹部にタオルケットが掛けられている。たぶんお母さんが掛けてくれたのだ。恥ずかしい。消え入りたい。
起き上がろうとしたところ、システムキッチンのほうから話し声がした。
「――そう。じゃあ学費は工面できるのね」
「はい、なんとか。兄貴には申し訳ないんですけど……出世払いで返せって言ってたけど、いざその時が来たら絶対受け取らないと思うし。そういう人なんですよ、あの人は」
「あとは住むところね。それこそお兄さんの住まいに同居させてもらえたらって思うんだけど」
「それが1DKに住んでるんですよ。渋谷なんですけど、セキュリティがちゃんとしてて広くないところという条件で選んだらしくて。広くないところってなに、と思ったけど、さみしかったんだって。うち大家族だったもんなあって、めっちゃ思いました。それで、俺の進学のためにもう一部屋引っ越せっていうの可哀想だな、って。言えばしてくれそうではあるんですがね」
「そうねえ。聞いているとお兄さんのほうが弟離れできてないみたいな気がするし、これを機にお互い独立するのもいいのかもね。まあ、電車通学を前提に考えるなら探せばあるわよ。それこそ決まるまでお兄さんの部屋に一時滞在すればいいんだから」
それでふと、ああ、と思うのだった。
突然縁もゆかりもない地方に飛ぶのではなく、都内への進学を考えているんだな。
なるほど、大学に行っても、わたしが志望大学に合格できれば、また気軽に会えるわけか。
なんだか安心してしまって、タオルケットを抱き締めて丸まった。今、とてもリラックスしている。
「いいわねえ。未来が輝いて見える。なんにでもなれるんだもんねえ。本当に、学生さんなんてみんな宝石の原石みたいなものなんだから、将来が楽しみねえ――」
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