Days25 カラカラ

 学校が主催でやってくれる夏期講習という名目の授業のあと、彼はクラスメートの男子たちと意気揚々とグラウンドに出ていった。今日はサッカーをするのだそうだ。


 学校が終わったら、友達とボール遊びをする。このへん、高校三年生も小学三年生も変わらない。彼に限らず、たぶん普遍的に、そういう小学生はそういう高校生になるのだろうし、そうでない小学生はそうでない高校生になる。みんな体格だけが大きくなる。それがいつになったら落ち着いた大人になるのか、それとも落ち着いた大人という概念がわたしの中にしかないものなのか、疑問は尽きない。


 そうでない高校生のわたしはエアコンが効いた教室で涼みながら問題集を解きたかったが、ほかならぬ担任の先生が「あいつらが熱中症にならないように見ていてやって」と言うものだから、しぶしぶグラウンドの片隅の木陰にたたずむ。木陰だけれど、念のために日傘を差し、クラスメートに借りたハンディファンを回す。わたしのほうが熱中症になるんじゃないかしら。


 しかし体の大きな男子たちがサッカーボールを追い掛けてああでもないこうでもないと騒いでいるのを眺めているのは意外と退屈しない。サッカー観戦の才能があるのかもしれない。だからといってはしゃぐわけではないが、ラフプレーをして喜ぶ愚かな男子たちを見ていると、そういう生き物なんだな、と思って感心する。無尽蔵の体力! うらやましいとまでは思わないけれど、ああいう肉体があれば人生はもうちょっと楽しいんだろうな、とは思う。


 真夏の気温はなかなか下がらない。時刻は午後四時半になったが、まったく涼しくなどならない。今夜も熱帯夜だろう。私はハンディファンを小脇に挟んでハンドタオルで首筋を拭いた。ハンディファンを挟んだ脇も汗で濡れているだろうな。あとでウエットティッシュで拭いてから返そう。


「四時半よ! 休憩して!」


 そう叫ぶと、男子たちがぴたりと動きを止めた。そしてこちらに駆け寄ってくる。正確には、木陰に置きっぱなしの荷物に近づいてくる。かばんの中に飲料水が入っているものと思われる。


「なんだ、早苗も出そうと思えばでかい声出るんじゃん。普段腹筋なさそうな声してるのに」


 よく知らない男子に呼び捨てにされた。まあ姓だから許してやるか、とは思っているのについつい眉間にしわが寄る。


 肝心の彼はというと、木陰をスルーして遠くに歩いていった。


 目で追い掛ける。


 彼はやがて水道の蛇口にたどりついた。

 水まき用のホースを取り付ける。

 蛇口をひねる。

 そのまま頭から水をかぶる。


 ずぶ濡れだ。


「あー、生き返るわ……」


 男子たちが彼のほうに走っていって、ホースの奪い合いを始めた。汗を出し切ってカラカラだった彼らは制服姿のまま水浴びを楽しみ、そのままサッカーに戻ってこなかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る