Days9 ぱちぱち
彼がどうしてもアイスを食べたいと言うので、イートインのあるコンビニに寄った。家にアイスを持って帰ると、妹や同居の甥姪がうるさくて、心置きなくアイスを味わえない、というのだ。したがって、彼が甘いものを食べる場所は自宅の外、学校かわたしの家か飲食物を売っている店舗になる。
付き合ってあげるわたしは優しいカノジョだ、と思うのだけれど、ついていったところで何をするわけでもない。彼はたぶんわたしがひまだから連れて歩いてやっているのだと思っているし、実際わたしはひまである。
アイスを食べたいと言うからコンビニに来たのに、彼はアイスが入った冷凍庫ではなくレジの正面の棚に陳列されたポテトチップスをひやかし、そのままスナック菓子コーナーに吸い込まれていった。スナック菓子は溶けるものでもナマモノでもないのでいいのだが、食い気の強いやつだな、と思う。
不意に彼がしゃがみ込んだ。他の客の邪魔にならないかとはらはらする。
彼の大きな手が、棚の菓子を取る。
三十円の小さな菓子は、ぱちぱちする素材が入った綿菓子だそうだ。
「これ買お」
「好きにしなさい」
気まぐれなやつだ。
「なあ、雪ちゃん」
彼の手が小さなプラスチックのかごにどんどん菓子を入れていく。ひとつ百円以下とはいえ、彼はそんなにたくさんの小遣いを持って歩いているのだろうか。バイトはしていないくせに。またお兄さんにたかるのかしら。
「親父が子供の頃って、街に駄菓子屋さんっていうのがあったらしいぜ。こういう小さな菓子とカードやめんこといったちょろいおもちゃしか置いてなくて、でも小学生くらいの親父にとっては宝の山みたいに見えたって」
「ふうん、昭和ね」
「そういう店では百円で冒険できたんだろうな、って思うと、令和に生き残ってねえのは悲しいな」
明らかに三百円くらいある菓子を確保して、彼が立ち上がる。
「おでんも売ってたらしいぜ」
「おでんはお菓子じゃないでしょう」
「親父はお菓子だと思ってたってさ」
このコンビニにもおでんは出る。ただし今はシーズンではないので、おでんを保温する機械はしまわれている。
「さて。ハーゲンダッツ、レディーボーデン、明治森永プライベートブランド……」
「あ。忘れてはいなかったのね……」
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