魔力供給源を見つけた大学生ちゃん Ⅳ
「——最古の煌めきより創出されし朱よ。赫灼たる煌めきを映し出す咒力の影よ。現世に蘇りし光となりて、今ここに放たれん! 穿て……ファイアーボール!!」
今日も星見さんの呪文が炸裂する。
ふむ。今日はファイアーボールだから金曜日か。明日休みだ嬉しいな。
「あらら。今日も不発でした」
よくやるよな。星見さん。
こっちに引っ越してきて3ヶ月くらい経つけど、毎日欠かさずやっているのは素直に凄い。
継続力あるのだからその努力を絶対に他のことに向けるべきだとは思うけど。
「不発でしたぁ。おにぃさぁん」
「うん。目の前で見ていたからわかる」
毎日欠かさず行っている呪文詠唱。
実は引っ越し当時とは少し状況が異なっている。
前と何が違うのかというと——
「なんで星見さんは俺の膝の上で呪文詠唱を始めたの?」
「……??」
最近の星見さんは大学が終わった後、自室へは帰らずに直行で俺の部屋にやってくるようになっていた。
そして俺が胡坐をかいで座っている『その上』にポフンと彼女が腰を下ろしてくる。
まるで俺の脚の間が自分の指定席だと言わんばかりに、当たり前のように座ってくるのだ。
なんでここまで懐かれてるの? 自宅の飼い猫ですらこんなに懐いてくれたことないぞ?
「ここ、私の席ですよね?」
「違うよ?」
「違くないですよ?」
「違うんだけどなぁ……」
とまぁ、こんな感じで縄張りを主張してくるのだ。
「よいしょっと……」
漂う女の子のかほりに理性が抑えきれるか心配になったので、俺は逃げる様に立ち上がる。
少し離れた所で腰を下ろして、テレビを見ようと思ったのだけど。
「…………」
星見さんが物凄い形相で睨みつけながら俺の後ろをトコトコついてくる。
意地でも俺の膝の上から動きたくないらしい。
俺はそのままテーブルを右回りに一周し、結局元の場所に腰を下ろした。
星見さんも俺に続いて脚の間に腰を下ろす。
「テーブル一周散歩、楽しかったですね」
「星見さんに楽しんでもらえたなら何よりだよ」
星見さんは鼻歌を歌いながら上機嫌にスマホを弄っている。
鼻孔を擽る女子大生の香りに耐える日々は今後ずっと続いていくのだろうな。
「この間、星見さんのことをさ、『妹みたい』って言ったけど、訂正するよ」
「——えっ!?」
ひどく驚いたような形相でクルッと首だけ動かし、顔をこちらに向けてくる。
近い近い。鼻と鼻がぶつかりそうになる。
「わ、私のこと、ようやく女の子として——」
「星見さんはあれだ。『犬みたい』だね」
「わおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」
何が気に入らなかったのか、星見さんのグルグルパンチが俺の胸元に連続ヒットする。
「あはは。星見さんお手は腕を回転させる必要ないんだよ」
「むぅぅぅぅぅっ! どうしてお兄さんはそうなんですか! 本当にもう!!」
頬を膨らませながらボフンっと俺の胸に背中を預けてくる星見さん。
その様子が本当に子犬っぽく見えてしまい、つい俺の手は彼女の頭に伸びてしまった。
「!?!?」
「あ、ごめん」
驚いた顔で見られ、俺は慌てて手を引っ込める。
「い、今、物凄く魔力が高鳴りました」
「なんで!?」
「お兄さんのドレインタッチはとても優秀ですね。も、もっと、やってくれませんか?」
「え、えと、まぁ、星見さんの魔力にバフが掛かるなら、んと、よろこんで」
許可が出たので俺は先ほどと同じように手をポンと彼女の頭の上に置いた。
髪柔らかすぎない? なんでこんなに良い匂いするの?
自分で紅潮しているのがわかる。
そんな俺に星見さんは更なる試練を与えてくる。
「どうして撫でまわさないんですか?」
少し潤んだ瞳で縋るように見てくる星見さん。
い、いいのかな? 付き合ってもない男女がこんな風にいちゃついていいのかな?
そんな風に自分に歯止めをかけようとするが、頭に置いた手は自然と左右に動いてしまっていた。
「ん~。いいなこれ。うん。とってもいいですよ。さすがルシファーです。魔力がみるみる回復していきます」
「
「お兄さんの魔素が私の魔力と相性ピッタリだったみたいですね。癖になったので毎日してください」
「……気が向いたらね」
「けちぃ」
これを毎日行えるほど俺の精神力は逞しくない。
それにこれだけ近いと心臓の音が聞こえそうでちょっと恥ずかしかった。
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