闇の書物が大好物の大学生ちゃん Ⅱ
【前書き】
このお話は昨日投稿した『ファイアーボールが得意の大学生ちゃん Ⅰ』の続きのお話です。
今後もタイトルは変わっていきますが、中二病の『大学生ちゃん』シリーズとしてご認識願います。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「——天鼓の霹靂。天空に昇りし氷塊の粒子よ。今こそ我が御霊に宿りしまたえ。穿て! サンダーボール!」
ピンポーン
「お兄さん。私のサンダーボール来ませんでした?」
「うちに来る度いちいち呪文を唱えなくていいから」
隣の部屋の住民、
この子は夕食時になると毎日来るようになっていた。
つまりの所、夕飯に在りつこうと俺の部屋にやってくるようになったのだ。
俺もこの子が来ることを常に想定するようになり、毎日二人分夕食を作ることが習慣となっていた。
「ほら。夕飯できるから皿並べろ」
「はーい! ん~! 今日もいい香り。お兄さんは料理の天才ですね」
「はいはい。お世辞でも嬉しいよ」
「ちなみに私は魔法の天才です」
「今日はサンダーボールだったな。一体いくつの属性の魔法を操れるんだ? お前」
「えへへ。天才だから全属性です♪」
こんな感じで意味不明な話題で盛り上がれるので楽しいっちゃ楽しい。
1ヶ月前はコイツの中二病を何とかしてやろうと考えたこともあったが3日で挫折した。
コイツの中二魂は根っからのもので俺がどんなに現実を見せようとしてもまるで聞いちゃくれないのだ。
なので適当にコイツの話に合わせて俺も楽しむ方向に落ち着いた。
「お兄さんお兄さん」
星見さんが見上げるようにしながら俺の袖をグイグイ引っ張る。
年の近い妹が出来たような感覚は少し嬉しいが、さすがにちょっと気恥ずかしいな。
「なぁ星見さん。その『お兄さん』っての止めないか? 一応俺の名前は
「んー……」
星見さんは首を傾けながら悩ましそうに考えている。
やがて、悪戯っぽい笑みを浮かべつつ本当に邪悪な言葉を俺に投げてくる。
「『
その場で思いっきりずっこけそうになる。
「うぉぉぉぉぉぉぉい!? ど、どどどど、どうしてその名をお前が知っている!?」
それは俺のもう一つの名。
……高校時代、中二病真っ盛りだった時にそう自称していただけなんだけど。
「つい書いちゃいますよね『黒の書』。高校時代のお兄さんは中々のプリーストだった模様で」
「うわぁぁぁぁぁっ! 俺の中二日記! 実家に置いておくと家族に見つかると思ってこっちに持ってきてたんだったぁぁぁっ!」
「こういう闇の書物、大好物です。お兄さんのベッドの下を漁っていたら出てきました」
「勝手に男のベッドの下を漁るなぁ!」
「大丈夫ですよ。私が興味を示したのは黒の書だけでしたから。女体の裸が記された書物には触れていませんよ」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
俺の全てが詰まっていたベッドの下の空間はあっさりと彼女に侵略されていた。
もうお婿にいけない。ぐっすん。
「星見さん! それ返して! 燃やすから! 今すぐここで燃やすから!」
「えー、いいじゃないですか。勿体ない」
「星見さん! その本に対してファイアーボールだ!」
「ポケ〇ンみたいに命令されてもしませんよーだ……ふむふむ、お兄さんは召喚魔法が得意だったみたいですね」
「読み始めるなぁっ! か、返せ!」
星見さんに覆いかぶさるように手を伸ばし、
所々身体が触れ合うが今は女の子の身体の柔らかさを堪能している場合ではない。
一刻も早く、彼女の手から黒の書を奪い返さないといけない。
俺は星見さんの右手をベッドに押し付け、全体重を掛けて彼女の動きを封じ込める。
そしてついに彼女から黒の書を奪い取った。
よし、後はこの本を燃やすだけ——
「お、お兄さん、その、こ、この体勢は、んと、て、照れるなぁ、なんて」
「……へっ?」
言われ、自分達の状況を客観的に分析する。
ベッドに押し付けられた星見さん。その上に思いっきり乗っかっている俺。
更に彼女の細い腕を強引に押さえつけている俺。
完全に女の子を襲っている男の図がそこにあった。
「ど、どうぞ」
なぜか目を閉じ、唇を尖らす星見さん。
「うわわわわっ! ご、ごごごごご、ごめん!!」
慌てて跳び退いて彼女から距離を置く。
星見さんはゆっくり目をあけて不思議そうにこちらを見つめ返していた。
「あれ? 襲わないのですか?」
「襲わないよ!?」
さすがにそこまで節操無しじゃない。
ましてや妹みたいに慕ってくれる女の子に対していきなり野獣になるなんて失礼な真似したくなかった。
俺は模範的なお兄さんで居たいのだ。
「お兄さんって硬派なんですね。そういう所も私は良いと思いますよ」
良かった。俺の対応間違えてなかった。
一時の感情に流されて取り返しのつかないことをしてしまうところだったぜ。
「……まぁ、私的にはルシファーの眷属になることはやぶさかではないですので。血が欲しくなったらいつでも仰ってくださいね」
「
ごまかし合うように照れ笑いする俺と星見さん。
この後、思い出したように慌てて夕飯の準備を行い、ルシファー特製シチューをごちそうしてあげるのであった。
……お兄さん。
……黒翼ルシファーさん。
私は家に帰った後、真っ暗な部屋で悶々と先ほどの出来事を思い出していた。
私が見つけた黒の書を取り替えそうとして、たぶん無意識だと思うけどお兄さんは私に距離を詰めてきた。
手を拘束されて、ベッドに押し倒されて、一瞬だけど視線が交じり合って……
このまま襲われてしまうかもと思った時、全然恐怖なんてなかった。
むしろ私は自分からキスを求めていたような……?
まぁ、その、なんというか……
物凄く——
ドキドキしてしまった。
私に関わろうとする人は自然とあちらの方から距離を取っていく。
魔法が好きで、今でも本気で魔法が打てるって信じている夢見がちな私は、未だその夢から覚め切れないまま大人になってしまった。
大学生にもなって何をやっているんだ、とは別に思わない。
私は私の信じる道を進んでいるだけなのだから。
でも年を重ねるごとに友達は少なくなっていった。
そして中学生の頃辺りから私はずっと一人きりになっていた。
そろそろ夢から覚めないといけないのかなと思い始めたある日。
私はお兄さんに出会ったのだ。
お兄さんも最初は私を現実に戻そうとしていたけれど、すぐに挫折したみたいだった。
だからきっとお兄さんも私から離れていくのだと思っていたけれど——
『よう。今日は遅かったな。とっくに夕飯できているぞ。食っていくだろ?』
まるで家族のように私を受け入れてくれた。
離れていくどころか、私を招き入れてくれる人。
初めてだった。
夢見がちなままの私を認めてくれて、そんな私に話まで合わせてくれて……
気が付けば私は毎日お兄さんの部屋にお邪魔するようになっていた。
ある日、お兄さんがトイレに行っている隙にベッドの下を漁ってみた。
そして黒の書を見つけた時、私は喜びで震えあがった。
——ああ、この人も私と同じだったんだ。
その事実は今の私にはとてつもなく救いになって……
そしてお兄さんのことをもっともっと知りたいと思うようになったのだった。
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