オタクに理解ありすぎるギャルと、ギャルを理解しようとするオタク
「うっわぁ、オタクくん。消しゴムの柄アニメ絵じゃん。ウケる~!」
世の中には『オタクに優しいギャル』というジャンルが存在すると聞くが、そんなのあくまでも二次元の中の妄想に過ぎないと僕は思っている。
実際のギャルは目の前の二宮さんのようにオタクをばかりにしてくる人種でしかない。
害悪なオタク批判ギャルめ。早くどっかいってくんないかな。
「ね、ね、このアニメ面白いの~?」
くっそ馬鹿にしてきているな。
肯定すれば『高校生にもなってアニメとか……っ! ぷぷっ!』って批判されるに決まっている。
凡例に従うならばここは否定しておくのが無難なのだが……
しかし僕のアニメ愛はこんなギャルに屈するほど柔なものではない
「……まぁ、僕は好きですが?」
好きなものは好きなのだ。
だからきちんと肯定する。
この後馬鹿にされようが僕は自分の好きなものを否定することなどしなくないのだ。
「ふーん。サブスクで見れるん?」
「えっ? まぁ、大体どのサブスクでも見れると思いますよ」
そういうと二宮さんの目がキラリと輝いた。
「今日全話みてくる!」
「……はぃ?」
「オタクくぅぅぅぅん! ラブリーくりむぞん、めちゃくそ面白いじゃん! なんでもっと早く教えてくれなかったのさ!」
「…………」
なんだこの人。
えっ、本当にアニメ全話見てきたの?
アニメに理解ある系のギャルなの?
「ラブくりは義務教育ですからね。令和の名作と言っても過言ではありません」
「だね! だね! この作品知らない人勿体ないよ! あたし珊瑚ちゃん好き! ツンデレめっちゃ可愛くない!?」
珊瑚って……割と最近出てきた新キャラじゃないか。
この人、マジで全話みてきやがった。
「ツンデレとか知っているんですね」
「まーね。あたし自身がツンデレみたいなとこあるじゃん? 色々共感できるんよね」
「そ、そうですか。まぁ、その、ラブくり気に入ってもらえて光栄です」
推しアニメを見てもらえるのってこんなに嬉しいことなのか。
学年を重ねると段々『アニメ』に関して理解してくれる人は少なくなるのが悲しい現実だ。
アニメ好きが露呈すると『オタク』と称されてグループから弾かれてしまう。
そうしてぼっちオタクは誕生する。まぁ、僕のことなんだけど。
「ねね。次はあたしのおススメ映画見てよ! 恋愛ドラマなんだけどさ」
「映画……ですか……」
アニメじゃないのであれば正直乗り気じゃない。
好きでも無いジャンルの映画なんか見ても苦痛なだけ。
そう思う所も正直あるのだが、二宮さんも慣れないアニメ鑑賞をしてくれたのだ。映画1本くらい見て感想返すのが礼儀だろう。
「『イケメン100人に告白された件 ~私は女の子が好きだから全員振っちゃいました~』って作品なんだけど、これがまた泣けるんよ」
「泣ける要素あるの!? そのタイトルで!? B級ラノベ臭はんぱないんだけど!? 本当に恋愛映画なのか!? それ!」
「まー、騙されたと思って見てみなって。DVD持ってきたから」
「ジャケにイケメン100人映ってる!?」
「まぁ? ちょっとは泣けましたけど? まさか恋愛要素の他にもバトル要素とホラー要素とアクション要素があるとは思いませんでした。そのカオスっぷりが売りなんでしょうね。それでいて物語がしっかり纏まっていたのには驚きました。脚本と演出が超優秀だったのでしょうね。今年観た映画の中では僕の中でダントツトップの作品になりました。ていうかヒロインの演技すごく良かったですね。知ってました? あの子、僕達と同じ年の女優さんなんですって。映画見終わった後、僕彼女の過去作漁りにいきましたよ」
「めっちゃ見てんじゃん! しかもめちゃくちゃハマってるし!?」
「極秘情報らしいのですが、あの映画、続編製作中ってこと知ってました? 今冬公開されるみたいですね」
「極秘情報まで調べてきている!?」
うん。たまには実写映画も良いものだな。
アニメ以外にも面白い作品あるんじゃないか。知見が深まった感じする。
「ねね。次はお勧めのアニメ映画教えてよ。あたし、今アニメ熱半端ないんよね」
「いいですよ。その代わり二宮さんもお勧め実写映画持ってきてください。ヒロインが可愛い作品がいいです」
「…………ヒロインが老女の作品持ってきてやる」
「なんで!?」
「くっはぁ! 『Experience Point』泣けたー! あのラスト反則っしょ!」
「くっふぅ! 『転生未遂から始まる恋色開花』良かったです! ダブルヒロインの女優どっちも可愛すぎ!」
僕からはアニメ作品を二宮さんからはドラマ作品を互いの推し作品を見せあう日々は数ヶ月続いていた。
自然と二宮さんとの距離も近くなり、僕らは互いの趣味を尊重し合える関係になっていた。
むしろ僕は最近ドラマ派になりつつある。
逆に二宮さんは完全にアニメ派となっていた。
「やっぱオタクくんに話しかけてよかったー! 絶対この人なら私の知らない世界を知っているとおもったんよね」
「あっ、そうだったんですね。急に声を掛けられたからアニメを馬鹿にする為にやってきたのだと思ってましたよ」
「んな失礼なことするわけないし! ていうかアニメ馬鹿にするやつ居たら絞めるし! あたしが絶対許さない!」
シュッシュッとシャドーボクシングの構えで牽制を始める二宮さん。
動きがコミカルで少し可愛らしかった。
「今のあたしならはっきり言える。あたしアニメが大好き! 一番好き!」
僕の思っている以上にアニメにハマってくれている。勧めた側としてはこんなにも嬉しいことはなかった。
それにこの思ったことをビシバシ言える性格はとても好感が持てた。
「ついでに言うけどオタクくんのことも好きだよ!」
こんなにはっきり友愛を口に出来るのも彼女の美点なのだろう。
「それは光栄ですね。じゃあ今度遊びにでもいきましょうか」
「えっ!? マジで!? 超嬉しいんだけど! どこ連れてってくれるの!? メイト? ゲーセン?」
「僕達と言えば映画でしょう。今度『イケ告』の続編やるんですよ。一緒に行きましょう」
「えー、アニメにしようよ~。『ラブくり』の劇場版! ファンなら入場特典全コンプっしょ!」
「ラブくりもいいですが、ここは『イケ告』にしましょう。初回上映は俳優の舞台挨拶があるんですよ!」
「そんなんどうでもいいじゃん。『ラブくり』は週ごとにもらえるポストカード変わるんよ? 毎週行かなきゃコンプできんじゃん」
「イケ告!」
「ラブくり!」
意見が割れてしまった。
しかもお互い絶対譲らないという意思が交じり合い、面倒くさいことになっている。
ドラマ映画を見たい僕、アニメ映画を見たい二宮さん。
「……ぷっ」
「……ははっ。これじゃどっちがオタクかわかりませんね」
「どっちもオタクだよ。そしてどっちも恋愛映画好きでもあるよね」
「すげぇ。僕らいつの間にか互いの趣味をトレースしていたんだ」
「互いに影響されやすい性格だったんだろうね。相手が好きなものを好きになる。相性ばっちりじゃん? あたしたち」
「二宮さんが僕に合わせてくれているとばかり思っていたのですが……本気でアニメを好きになってくれたんですね」
「もちろんだよ。ちなみに……だけどさ。さっき言った『オタクくんのことが好き』って言葉も……その……マジなんだけど」
「……えっ?」
「えっ? ってなにさ! まさかあたしの愛の告白と『友達として』とか友愛の意味でとらえてたんじゃないでしょうーね!?」
「…………」
「うおりゃああ!!」
無言で目をそらした僕に対し、二宮さんは首絞め突進を仕掛けてきた。
いや、だってさ。クラスの人気者が……その……こんな陰キャオタクを好きになるなんて……信じられなくて……
「こんなにオタクくんのことを理解してくれるギャル、あたしだけよ? あたしにしとき? なっ?」
「……そうですね。僕のことをこんなに理解してくれる二宮さんのこと……僕も好きになりました」
「やった! 彼ぴだ! オタクくんがアタシの彼ぴ~! 嬉しみ」
「無理してギャル用語使わなくてもいいですよ? 二宮さんが実はそんなにギャルじゃないこと僕理解していますから」
「……へ?」
「二宮さんの好きな作品ってさ、オタクにも刺さりそうな題目ばかりなの知ってました? むしろギャルはこんなの見ないだろうなって作品ばかりなんですよ」
「まじぽよ!?」
イケ告も転生未遂もどちらかというと女オタクが好きそうな題材だった。
だからこそ僕もすんなりとそれらの作品を好きになれたのだと思う。
「まじぽよです。二宮さん、僕に初めて接触してくれた時からギャルよりかはオタクに近いなって思っていました。まぁ、そんな二宮さんだからこそ僕は好きになったのですが」
「あ、ありがとう。言われてみればあたしオタク寄りだったかも……ていうかギャル事情にも詳しいな!? 実は隠れギャル好きってことない?」
「あー、それはないです。むしろギャルはオタクの敵です」
「あたし物凄く胸中複雑なんですけど!? 元自称ギャルとして!」
「あっ、じゃあこうしませんか? 今度のお出かけは敢えてギャルが好きそうな映画を見てみましょう。新たな世界見えてくるかもしれませんよ?」
「それも面白そうね。彼ぴの提案なら乗っちゃるよ!」
こうして付き合って初めてのデートは『ギャルの実態調査』に決定した。
ちなみに二宮さんと一緒に見たギャルが好きそうな映画は意外にも僕らも楽しむことができ、これからもギャルの調査は二人で進めていくことになりそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます