負けず嫌いの才女は今日も勝負を挑んでくる(前編)

「また負けたぁぁっ!」


 教室のド真ん中で私の絶叫が木霊する。

 私は両手で頭を抱えながら雄叫びと共に机に突っ伏した。

 クラスメイトは『またか』といった様子で呆れるように私を眺めていた。

 ただ一人、隣の席の萌黄くんだけが心配そうに私に声を掛けてくれる。


「ど、どうしたの? 赤井さん!? いきなり絶叫をし出すなんてただ事じゃないよ!?」


「貴方のせいよ!」


「なんのこと!?」


 私がギロッとにらみつけると彼は分かりやすく狼狽えていた。


「テスト! まーたしれっと私より高い点数取ったわね!」


「人のテストの点数勝手にのぞき込まないでよ!?」


「英語で1点負けて、世界史で2点負けて、現国で4点負けて、数学でも10点負けたぁ!」


「なんで全教科の僕のテストの点数知ってるの!?」


「貴方の机を漁ったからに決まっているでしょ!」


「愚問みたいに言わないでよ!?」


 隣の席の小柄の男の子。

 私はこの人に連戦連敗をしていた。

 つい先日からこの子は私のライバルだった。たぶん私から一方的に。

 だから今回の中間テストでも彼の点数を上回ることを目標に頑張っていたのだけど、結果はこのざまだった。


 先に言っておくが私がポンコツというわけではない。

 自分でいうのはちょっと嫌味ったらしいけど、私は『なんでもできる』女の子である。

 勉強もスポーツもクラス行事も難なくこなすことができていた。

 俗にいう天才肌。

 そう信じて疑わなかったのだけど……

 上には上がいることが私はここ数日で思い知らされた。







『赤井さん! 1年に頃からずっと好きで――あ、あれ!? いない!?』


 別のクラスの男の子。名前なんて言ったかしら? 呼び出された時点で嫌な予感はしていたけど、案の定告白だった。

 勇気を出して告白してくれた彼には敬意を表する。

 だけど悪いのだけど私は誰とも付き合うつもりはなかった。

 たぶんだけど私と付き合っても嫌な思いをするだけだろうから。


 『劣等感』


 男子というものはプライドが高い。

 女の子は常に男の一歩後ろを歩むのが良い女の条件らしいけど……

 私にはそれができない。

 やるからには常に全力。もたもたするなら置いていく。

 手を抜くことのできない私はそこらの男子よりも『出来てしまう』。

 劣等感に苛まれ、友人もクラスメイトもどんどん私から離れていった。たぶん私に告白してくれた彼もそうなる。そう感じた私は彼の告白の途中に全力ダッシュで逃げ帰った。


 天才肌というのも困りものである。

 今やっている小テストも難なく満点取れてしまうだろう。


「時間だ。やめ。隣の席の人と答案用紙を交換し採点するように」


 隣の席の男子――この子も名前なんだったかしら?

 可愛らしい容姿が特徴的の小柄な男子。必要を感じ得ないので話したこともなかった。

 なんか要領の悪そうな顔しているわね。

 私は彼から答案用紙を受け取り採点に入る。

 ……ふーん。頭はいいみたいね。

 人を見た目で判断してしまった自分の愚かさを反省する。

 それを償う意味でも私は彼に労いの言葉をかけてあげた。


「おめでと。満点だったわ。やるじゃない」


 まさか話しかけられると思っていなかったのだろう。

 彼は私に声を掛けられたことに驚きを示していた。


「あ、ありがと。赤井さんもさすがだね。1問しか間違えてなかったよ」


「……はぃ?」


 彼から帰ってきた答案用紙。

 9/10 と赤ペンで書いてある。


「ちょっと!? どうして満点10点じゃないのよー!?」


 私は彼の肩を揺らしながら問い詰める。

 頭をぐわんぐわん揺らしながら彼は私の間違えた箇所を指さして解説する。


「ぼ、凡ミスだよ。証明式は間違えてなかったけど一ヶ所だけ簡単な掛け算を間違えてた」


 言われ、私は自分の答案用紙をじっと眺める。

 彼の指摘通り、小学生でも間違えないような掛け算で凡ミスしていた。


「ぐぬぬ……私としたことが! あの男子に告白されたことで集中できなかったんだわ」


「モテるんだね。そりゃそうか。容姿端麗、才色兼備。男は放っておかないよね」


「掛け算で間違える女のどこが才色兼備なのよ! 私より1点高い点数取ったからって見下しているわね!?」


「全然そんなつもりないんだけど!?」


「いいえ! 貴方は私を見下しているわ! エスパー検定準2級の私にはわかるの! 貴方が心の中で腹を抱えて笑っていることをね!」


「エスパー検定って何!? 笑ってなんかいないってばー!」


 思えばそれが始まりだったのだ。







「そう、貴方、萌黄くんっていうのね。覚えておいてあげるわ!」


「あ、ありがと。2年半一緒のクラスで未だに苗字すら知られていなかったことに驚愕を隠せないよ」


「大丈夫。一度覚えたら私は決して忘れたりしないから。可愛い名前ね。萌えキャラっぽい顔をしている貴方にピッタリだわ」


「萌えキャラっぽい顔!?」


「萌黄くん。私は負けず嫌いなの。だから次の体育の体力測定で私と勝負よ!」


「いやいやいやいや、さすがに男女の差が出ると思うんだけど!」


「安心なさい。私の運動能力はそこらの男子にも負けないわ。そしてもちろんあなたにもね!」


 ビシィ! と萌黄くんの鼻先に指を突き出す。

 100メートル走、走り幅跳び、ハンドボール投げ。

 私は男子の平均値を上回る記録を持っている。

 今日のコンディションもバッチリよ。誰にも負ける気はしない。

 こういっちゃアレだけど萌黄くんあまり運動できなさそうだしね。

 ここらで差を見せつけて私を見下したことを後悔させてやるわ。







「嘘でしょ!?」


 100メートル走:1秒近く差を話されて敗北。

 走り幅跳び:50cmほど差を付けられ敗北。

 ハンドボール投げ:20メートルほど差を付けられ敗北。


「貴方オリンピック候補生か何かなの!?」


「大げさすぎない!? ていうか赤井さんもすごいよ。女子でその成績は本当すごいと思う」


「うがああああああっ! 見下されたああああああああ!」


「見下してないよ!? 素直に褒めたたえたつもりだけど!?」


 小テストで負け、運動能力でも負けた。

 そして完全にこの私を『下』に見る萌黄くんに激しい苛立ちを覚えた。

 それにしても萌黄くんの運動能力凄すぎない? 運動部のエースでもこの成績は出せないと思うけど。


「萌黄くん。さては貴方名のある何かのスポーツ選手でしょ? 運動鑑定士検定準2級の私はピンときてしまったわ」


「運動鑑定士!? 聞いたことない資格持ってるね!? えと、特に運動で名を挙げた過去はないよ。部活とかにも入ってないし」


「帰宅部に私が負けるはずないでしょ!」


「ごめんなさい!?」


 なんなのこの人。

 多種面で万能過ぎている。

 萌黄くん。貴方一体何者なの?






「萌黄くん! 早食いで勝負よ!」


「それに勝ったとして赤井さんは嬉しいの!?」


「貴方に勝てればもはやなんでもありって感じよ。でも手を抜くことは許さない!」


「早食いに全力すぎる! この人!」


 あの小テストでの敗北事件から私は事あることに萌黄くんに勝負を挑んでいた。

 そして全戦全敗だった。

 屈辱だった。

 敗北ってこんなに悔しいのね。


「ごちそうさま」


「また負けたああああああああ!」







「萌黄くん! 小説対決よ! 『ヨムカク』で☆評価を多く取った方が勝ちね!」


「小説なんて書いたことないよ!?」


「ふふん。勝機はここにあったのだわ。ヨムカク歴2年のイニシアティブを発揮させてやるわ」


「この人、普通に大人げないな!?」


 勉強、スポーツ、早弁で勝てないのなら趣味の領域で勝負すればいい。

 これならば、絶対に勝てる!

 私の才能に嫉妬させてあげるわ!



 ………………

 …………

 ……



「あわわ。投稿して1日で星が5000個行っちゃった」


「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃと!!」


「なんで急にヘドバン始めたの!? そんなに頭をブンブン振り回すと危ないよ!!」

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