第22話 追放幼女、現場検証をする
懸命にバケツリレーを続け、マリーも力を振り絞ってもう一度精霊魔法を使ってくれ、おかげでなんとか火を消し止めることはできた。
「みんな、お疲れ様」
「お嬢様、ですが……」
「そうだね。さすがにもう使えそうにないね」
あたしはすっかり焼け焦げた水車小屋を見る。
「それにしても、どうしてこんなところで火事になったんだろうね? ハロルド、昨日、何か火を使った?」
「いえ。確認しただけですから火なんて……」
「だよねぇ。じゃあ、ハロルドがここを離れたときに何か変わったことは?」
「いえ。気付きませんでした」
「そうだよねぇ」
あたしは半分焼け落ちた水車小屋の様子を確認する。
あれ? 思ったより中は燃え残ってるんだね。
「ねぇ。小屋の中が結構燃え残ってるってことは、火は外から燃え始めたってことかな?」
「えっ? じゃあ、放火?」
「どうなんだろ? もう少し確認してみようか」
続いてあたしは入口とは反対側に回り、様子を確認する。
うーん。こっち側の壁は完全に燃え尽きているね。
それに水車も車輪の部分のうち、水から上に出ている部分が完全に燃え尽きている。ただ、軸は先っぽ以外無事で、台座も建物の中は無事に見える。
……あれ? ちょっと待って。それっておかしくない?
「ねえ、マリー」
「はい、何かお気づきですか?」
「うん。これ、絶対に誰かが火をつけたよね」
「どういうことでしょうか?」
「だって、車輪の水から出てる部分が完全に燃え尽きているのに、なんで軸は燃え残ってるの?」
「それは……水車で火が出たから……でしょうか?」
「でも、もしそうだったらさ。こっちの壁が燃え尽きてるのっておかしくない? 普通は水車から軸を伝って延焼するでしょ? 昨日はほとんど風もなかったんだしさ。それにもし飛び火したとしても、まずは川側の壁と屋根に引火するよね?」
「それは……」
「で、こっち側の壁が燃え尽きてる。しかも、地面に近いところも含めて。ということは、こっち側の地面付近が火元だってことだよね?」
「……」
「だとすると、今度は車輪の部分がこんなに燃え尽きてるのはおかしい。でしょ?」
「は、はい……」
「ってことはだよ? 誰かが地面に何かを燃えやすいものを置いて火をつけて、その火を水車に移したんじゃない?」
「っ!」
「犯人は舐めたことしてくれるね。村のみんなにとって大事な水車に火をつけるなんて!」
「ひ、姫さん、もしかして犯人は……」
「ウィル、決めつけるのはダメだよ。まずは聞き込みをして。昨日の夜、ハロルドが帰ってから誰かを見た人はいないか。それから、ハロルドも。水車の件を話した相手はいる? いたらその人たちが誰に話したのか、全部調べて」
「へい!」
「一応念のために聞くけど、犯人を見た、もしくは知ってるって人はいる?」
しかしみんなは首を横に振った。
「うん。だよねぇ。じゃあ、捜査、よろしくね。それと、門は完全に封鎖するよ。あたしの許可がない限り、町から出るのは禁止。必要がある人は言いに来て」
「へい!」
こうしてあたしたちは水車小屋の火災は放火と断定し、薄々は気付いているものの、犯人捜しを始めるのだった。
◆◇◆
ウィルたちを聞き込み捜査と門の封鎖に行かせたあと、あたしはマリーとハロルドと一緒に現場検証を続け、火元らしきものを発見した。
「ねぇ、これじゃないかな? 火元」
「これは……薪の燃え残りのように見えますね」
「うん。それにここ、まるでたき火をしたみたいに不自然に建物の外で燃えてるし」
「……」
「そもそも、水車小屋に薪なんてあるわけないんだからさ。誰かがどこからか薪を持ってきて、火をつけたってことだと思う」
あたしは燃え跡に木の枝を突っ込み、何か残っていないかを探す。
あれ? 何か硬いものが……?
枝でつついてみると、何やら赤い小さな赤い石が出てきた。
「ん? 何これ? きれいな石だね」
「これは!」
「あれ? マリー、何か知ってるの?」
「これは着火の魔道具です!」
「え? 魔道具!?」
「はい! この村に着火の魔道具はありません! ということは、ボルタたちが持ち込んだに違いありません!」
「うーん、そうだろうとは思うけど、証拠がないからなぁ。とりあえずこれは証拠品として押収しておこうか」
「はい!」
それからしばらく調べ、あたしたちは現場検証を終えるのだった。
◆◇◆
戻ってきたあたしたちを、なんとボルタたちが待ち構えていた。
「お嬢様!」
「ああ、ボルタ。何か用? 水車を買うかどうかは――」
「うちのジェームズが行方不明なのです! どうか探してはいただけませんか!?」
「えっ!? ちょっと待って? どういうこと?」
「ですから、朝起きたらジェームズがいなくなっていたのです!」
「はぁ。そのジェームズさんはどういう人なんですか?」
「はい! あいつは若手でして、一生懸命なのが取り柄のいい男なんです! 昨日も一生懸命に接客をしてくれていました。だから突然どこかに行くなんてことはないはずなんです!」
ボルタは必死に訴えてくる。
「お願いします! あいつは去年娘が生まれたんです! ですから!」
「……分かったよ。全員、許可なく村から出るのは禁止ね。それでちゃんと探そう」
「はい! お願いします!」
ボルタはそう言うと、ホッとしたような表情を浮かべたのだった。
うーん? いきなりいなくなる? もしかして何か知っていたりするのかな?
でも、こんな狭い村ならよそ者は目立つし、きっとすぐに見つかるよね。
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次回、「第23話 追放幼女、捜査をする」の公開は通常どおり、2024/06/30 (日) 18:00 を予定しております。
果たしてオリヴィアたちは事件の真相にたどり着けるのか? お楽しみに!
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