第14話 追放幼女、奮戦する

「縛ったよ!」

「へい!」


 魂を縛られ、動きの止まったゴブリンたちを村の男たちが倒していく。


 もう何十回? ううん、何百回かもしれない。


 延々と同じことを繰り返しているが、未だにゴブリンの数が減る気配はない。


「ギギギ」

「ギャギャッ」

「ゲギャギャ」


 ああ! もう! また来た! どうなってるの!?


 あたしは入ってきたゴブリンたちをもう一度縛った。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ウィル!」

「へい!」

「うおおおお!」


 頑張ってくれているけれど、やはっぱい村のみんなもかなり疲れてそう。


 それに何より……あたし自身が眠い。眠くて眠くてたまらない。


 いくら中身は今年で二十六歳の大人でも、体は八歳の幼い子供なのだ。


 酷使した肉体が睡眠を強く求めてくるけれど……。


 ああ、もう。どうしたらいいの? ゴブリンが全然減らないよ。


 畑から呼び戻したスケルトンたちも戦ってくれているけど、あまりにも多勢に無勢すぎる。


 ああああ! こんなことなら村の守りを先に固めておけばよかった。


「縛ったよ!」

「へ、へい!」


 あたしは次のゴブリンたちを縛り、ウィルたちがそれを倒し始める。


 と、そのときだった。


 突然森の中が明るく光ったかと思うと、サッカーボールほどの大きさの光の玉がこちらに向かってものすごい速さで飛んでくる。


「え?」


 光の玉はウィルたちが倒しているゴブリンたちの背後の地面に着弾し――


 ドォォォォォォォン!


 大爆発を起こした。


「きゃっ!?」

「うおっ!?」

「ぐあああ」

「ゲギィー!?」


 ふわりと体が浮き上がった感覚がしたかと思うと、あたしは気付けば地面に横たわっていた。


「う……何?」


 全身がズキズキと痛むのを我慢し、なんとか顔を上げて周囲の状況を確認する。


 ……どうやら元居た場所から大きく飛ばされたわけではないようだ。


 そして着弾地点の周辺にいたゴブリンたちはミンチになっている。でも、残念だけどやっぱり森のほうからはまだまだゴブリンがやってきている。


 みんなは……!?


「ぐ……」

「な、何が……」


 ウィルたちの声が聞こえるけど、苦しそう。


 でも、良かった。死んではいないみたい。 


 と、突然ゴブリンたちがまるで道を空けるかのように左右に別れ、その間を一匹の少し大柄なゴブリンが歩いてこちらに向かってくる。


 まるで魔法使いのようなローブを身にまとい、いかにもな杖を持っている。


 もしかして……ゴブリンメイジ!?


「ギギッ」


 そのゴブリンは杖を天高く掲げた。すると三メートルほどの高さの場所に小さな光の玉が出現した。その光は少しずつ大きくなっていき、やがて先ほどの光の玉と同じくらいの大きさになる。


 そして――


「ギッ!」


 ゴブリンは高く掲げた杖を振り下ろし、うつ伏せに倒れているウィルのほうをビシッと指し示した。すると光の玉はものすごい速さでウィルのほうへと飛んでいく。


「ウィル! 避けて!」

「ぐっ! クソッ!」


 ウィルは体を動かそうとしたが、その場から動くことができない!


 ドォォォォォォォン!


「ぐああああ!」


 光の玉は大爆発し、それに巻き込まれたウィルの苦しげな声が聞こえてくる。


「ウィルゥゥゥゥ! よくも!」


 あたしはなんとか立ち上がり、ゴブリンメイジの魂を縛ろうと手を突き出した。


「え……?」


 なんで? 縛れない!?


「ギ? ギギギギギ」


 あたしの魔法に気付いたのか、ゴブリンメイジはあたしを見てニチャァと気持ち悪い笑みを浮かべた。


「ギギギ。ギギ、ギギ」


 あいつ、あたしに向かって何か言ってる?


「ギギィ」


 またニチャァって笑った! 気持ち悪い!


 イヤ! イヤ! イヤイヤイヤ!


「ギギギ」


 ゴブリンメイジは再び杖を天高く掲げた。するとまた空中に小さな光の玉が出現し、それは徐々に大きくなっていく。


 ど、どうしよう。あたし、このままここで殺されるの?


 せっかく健康な体に生まれ変わったのに?


 せっかく、せっかく自由に生きていけると思ったのに?



 最悪の想像が頭をよぎったその瞬間、あたしはふとゴブリンメイジの足元にゴブリンの死体が転がっていることに気が付いた。


 あれ? も、もしかして? で、でも……。


 迷っている間にも光の玉はどんどん大きくなっていっている。


 ああ! もう! やるしかない!


 あたしはすぐさま闇の魔力を放出し、ゴブリンメイジの足元に転がっているゴブリンにゾンビ化の魔法を掛けた。


「そのゴブリンメイジを殺して!」


 ゴブリンメイジの背後で立ち上がったゴブリンのゾンビはゴブリンメイジに後ろから襲い掛かった。


「ゲギッ!? ギッ! ギギー!」


 慌てたゴブリンメイジがゾンビを引き離そうとするが、ゴブリンメイジと普通のゴブリンの体格はほとんど差がない。


 ゴブリンのゾンビはゴブリンメイジの首筋に噛みつき、そして……。


 ドォォォォォォォン!


 ゴブリンメイジの頭上にあった光の玉が制御を失って爆発した。


「う……」


 あたしは飛ばされないように膝をつき、なんとか突風から身を守る。


 やがて爆風が収まると、目の前にはぐちゃぐちゃになったゴブリンメイジの死体があった。ゴブリンゾンビもぐちゃぐちゃになっているが、殺しても死なないのがゾンビだ。ぐちゃぐちゃになった肉片と骨の一部が動いていて、ものすごく気持ち悪い。


 そして入り込んできているゴブリンたちも爆発に巻き込まれたようだ。付近からゴブリンは一掃されており、生き残ったゴブリンたちも動揺しているように見える。


「ギッ!?」

「ギギギ!」

「ゲギャー!」


 ゴブリンたちはお互いに顔を見合わせては、あたしに向かって怯えるような視線を向けてくる。

 

 あれ? もしかして……?


 あたしは怯えているゴブリンたちを全員まとめて縛った。こういった状態になると魂は抵抗力がガクッと下がるので、残り少ないあたしの魔力でもなんとかなる。


「スケルトンたち! ゴブリンを倒して!」


 あたしがそう叫ぶと、近くにいたスケルトンたちが動けなくなったゴブリンたちに襲い掛かる。


「ゲギー!」

「ギャー!」

「ギャギャー!」


 その様子を見たゴブリンたちは我先にと村から逃げ出していく。


 よ、良かった。ハッタリだったけど、だまされてくれたみたい。


 あ、あとは村に入り込んだゴブリンを……なん、とか……しないと……。


 あ……で、でも、もう、本当に、これは……。


 意識が遠のいていく。


 ダ、ダメ! ここで倒れるわけには……。


 しかしあたしの視界は暗転し……。


「お嬢様! お嬢様ぁぁぁぁ!」


 薄れていく意識の中で、あたしは遠くで叫ぶマリーの声を聞いたような気がしたのだった。


================

 次回「第15話 追放幼女、目を覚ます」の公開は通常どおり、2024/06/21 (土) 18:00 を予定しております。


 限界を超えて意識を失ったオリヴィア。果たして戦いの結果は? どうぞお楽しみに!

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