第12話 追放幼女、再びゴブリンと戦う

 二つ目の畑が完成し、いい気分でマリーと事務仕事をしていると、血相を変えたウィルが飛び込んできた。


「姫さん! ヤバいっす!」

「騒々しいですよ! それから、きちんと敬称をつけるように!」

「マリーの姐さん、今それどころじゃないんす!」

「どうしたの? ウィル」

「へい! ゴブリンっす!」

「また?」

「そうなんす! しかも、今回は村の近くなんすよ」

「近く? 近くってどのくらい?」

「すぐっす。こっから正門まで同じくらいっす」


 え!? ものすごく近くじゃない!


「どっちの森?」

「南っす」

「え? 南で?」

「へい。つーことは、ゴブリンどもはもうここを見つけてて、襲撃しようとしてる可能性が高いっす」

「どういうこと?」

「ゴブリンどもが複数で来たっつーことは、何かを見つけて動いてるっす」

「あ、そっか。前のときは一匹だったもんね」

「へい。なんで、前みたいにわらわらいたらやべぇんで、俺らはすぐに逃げたんすよ」

「なるほどね。それはまずいね」

「そうなんす。まずいんすよ」

「分かったよ。じゃあ、前みたいに打って出ようか」

「それができればいいんすけど……」

「どういうこと?」

「へい。それが――」


 カンカンカンカン!


 突然外でけたたましい鐘の音が鳴った。


「あれ? この鐘、何?」

「くそっ!」

「え? だから何?」

「あ! すいやせん。この鐘は、敵が来たことを報せる早鐘っす。このタイミングってことは、多分ゴブリンっす」

「えっ!? もう?」

「へい。多分ものすごい数で……」

「分かったよ。あたしも出る。マリー、村人たちには訓練どおりに避難するように伝えて!」

「はい、かしこまりました。お嬢様、どうかお気をつけて」

「うん」


 こうしてあたしはウィルと一緒に、村を襲ったゴブリンたちの迎撃に向かうのだった。


◆◇◆


 村の正門にやってきた。まだ門は破られていないようだが、門の外からはゴブリンの気持ち悪い叫び声と激しい戦闘の音が聞こえてきている。


「みんな!」

「「「姫様!」」」

「うん。けが人は」

「はい。今のところはなんとか死者は出ていません」

「そっか。良かった。状況は?」

「良くないです。多分ですが、今回の群れは百匹近いと思います」

「そんなに!?」

「はい。門を破られるのは時間の問題です」

「そう。分かった。じゃあ、とりあえず一匹でもいいから数を減らそう。前みたいにやるから」


 あたしがそう言うと、みんなの顔に安堵あんどの色が浮かぶ。


「さあ! 行こう!」

「はい!」


 あたしたちは門の外に飛び出した。


 外では十人ほどの男たちが戦っており、さらにその向こうからはゴブリンがわらわらとやってきている。


 はっきり言って、多勢に無勢だ。


 たしかに死者はいないが、男たちはかなりボロボロになっている。このままでは時間の問題だろう。


 あたしは手前から順に魂を縛り、動きを封じる。


「みんな! 今のうちに!」

「おお! 姫様だ!」

「うおおおお! これで勝てる!」


 動きの止まったゴブリンたちを男たちが次々に葬っていく。


「ギギギ!?」

「ギャギャー!」

「ギッ! ギッ!」


 それでもなお、ゴブリンたちは止まらない。数を頼みに、仲間の死体を文字どおり乗り越えて波状攻撃を仕掛けてくる。


 ああ! もう! しつこい! こんだけ殺してるのに!


「ギッ!?」

「ギャギャー」

「ギャー」


 突然ゴブリンたちの波状攻撃が止んだかと思うと、そのままくるりと回れ右をして森の中へと消えていった。


「あ、あれ? どうなってるの?」

「勝てないと思って逃げたんじゃないんすかね……」


 あたしがつぶやくと、ウィルが横から答えてくれた。


「うーん、そうなのかなぁ」

「そうっすよ。ゴブリンはマジで頭がいいんで、勝てない相手からはああやって逃げるんすよ」

「そんなに賢いんだ。やっぱり道具を使うぐらいだしねぇ。ああいうことはよくあるの?」

「へい。俺らが盗賊やってたころにもああいうこと、よくありやした。ああなると、普通はもう二度と襲ってこないっすね」

「そうなんだ」


 あたしはウィル以外のみんなのほうを見る。すると彼らも一様にうなずいて、ウィルの見解に同意した。


 なるほど。これはウィルたちが盗賊をやっていたときにゴブリンと戦った経験から来る話なのだろう。


 ということは、まほイケでの知識しかないあたしよりもきっと正確なのだろう。


「うん。分かったよ」


 ただ、やっぱり手際が良すぎるので、なんとなく不安が残る。


「たださ」

「へい」

「悪いけどゴブリンの死体を運んでくれる?」

「えっ!?」


 ウィルたちは一様に顔をしかめた。


「うん。気持ち悪いのは分かるけど、結構な数を取り逃がしたでしょ?」

「へい」

「だから、こいつらを全部スケルトンにして、守りを固めようと思うんだ。弱いかもしれないけど、みんなの盾くらいにはなるはずでしょ? ゴブリンのスケルトンは頭いいし」

「あー、そうっすね。そうっすね……そうっすね」


 ウィルはなんどもそう言いながら自分を納得させている。


「うん、ごめんね。気持ち悪いのは分かるけど、ここで燃やすわけにもいかないし……」

「うう……そうっすね……」


 それからウィルは一度ぎゅっと目をつぶり、それから自分の頬を両手でピシャリと叩いた。


「へい! わかりやした! お前ら! 姫さんのご命令だ! 運ぶぞ! ゴブすけの材料だ!」

「……へい」

「わかりやした」


 なんとも元気のない返事と共に、ウィルたちはゴブリンの死体を運び始めるのだった。


 うん。やっぱり気持ち悪いよね。ホントにゴメン!


================

 次回、「第13話 追放幼女、夜襲を受ける」の公開は通常どおり、2024/06/20 (木) 18:00 を予定しております。


 無事にゴブリンを撃退したオリヴィアたちに再び試練が訪れる! 果たしてオリヴィアたちの運命やいかに!?

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