タイラーと清盛

九戸政景

タイラーと清盛

「はあ……いい加減いじられるのは嫌だな……」



 金曜日の登校中、俺は学校での事を考えて憂鬱な気持ちだった。いじられる理由、それは俺の名前が原因だ。下の名前は清盛であり、よく歴史の教科書で聞く古風な名前というのもあって授業で出てくる度にからかわれてきたし、まだ仕方ないとも思えた。


 だけど、それよりも姓が問題なのだ。清盛と来れば、平だろうと思われがちだが、俺の姓はその敵である“源”なのである。



「おかげで源氏なのか平家なのかハッキリしろとか裏切り者の清盛とか言われるし、もう散々だよ……」



 だからといって親を恨む気はない。恨んだってしょうがないし、両親的には清く正しい生活を心がけ、さかえた人生になってほしいからという願いを込めている事を知っているからだ。



「とはいえ、どうしたもんだろうな。それすらもネタに出来る程のトーク力もないしなあ」



 少しずつ学校が近づき、憂鬱な気持ちも強くなっていたその時だった。



「HEY! そこのBoy!」

「え?」



 振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。色白で青い目をした人懐こそうな笑みを浮かべるその子は鮮やかな金髪をポニーテールにした快活そうな印象の子で、ウチの学校の制服を押し上げる程に大きな胸と170はありそうな程の長身、細身の体型にキュッとしまった腰回り、と思春期の男子にとってはたまらないであろう姿をしていた。



「え、えっと……」

「Youはこの辺りの子? それならtellしてほしい事があるんだけど」

「い、良いけど……」



 某タレントを彷彿とさせる日本語と英語を織り混ぜた話し方に驚きながらも俺は答える。すると、その子はいきなり俺の手を握ってきた。



「えっ!?」

「Thank You! Meはこの辺りはまったく知らないからinterestingな場所を知りたいわ!」

「えっと……面白そうなところを探してるって事で良いんだよな?」

「YES! さあ、Let's Go!」

「ちょ、ちょっと……!」



 その子の力は思ったよりも強く、俺は学校とは逆の方向に引きずられる。



「い、今から学校があるんだけど……!」

「School? Meもそうだけど、No problem! 何か理由をつけて遅れる事にすれば良いのよ! そんな事よりもAdventureの方が大事だわ!」

「あ、アドベンチャーってそんな大層な物でもないと思うけどな……!」

「それはFeeling次第! そういえば、自己紹介がまだだったわね。My name is CherieシェリーTylerタイラー! What is your name?」

「み、源清盛……」

「キヨモリミナモトね! そういえば、キヨモリっていえば、JAPANで有名な人がいるみたいなのよね。たしかキヨモリタイラノだったかしら?」

「……そうだよ」



 またかと思いながら答える。この子も同じ事を言うかはわからなかったが、何度も言われ続けてきた事だからか言われる前からそうなんだろうなと思うようになってしまっていた。良くないとは思っているけれど、それだけ俺の心に深い傷をつけているのかもしれない。


 言うならさっさと言ってくれという気持ちでタイラーの言葉を待っていると、タイラーは俺の手を軽く引っ張ってから手を離し、そのまま俺を強く抱き締めた。



「むぐっ!?」

「だったら、YouをMeの物にしちゃえば“タイラーのキヨモリ”になるのね? うふふっ、Good vibesだわ!」

「た、タイラー……!」

「あははっ、初日からこんな出会いがあるなんて本当にHappyだわ! この幸せを今からDaddy達にも──」

「い、息ができ、な……」



 豊満な胸の柔らかさに包まれながらも口が軽く塞がれている事による呼吸の阻害によって俺の意識は失われていき、やがて気持ち良さを感じながら俺は気を失った。





「……ん」



 頭が少しボーッとする中で俺は目を開けた。すると見えてきたのは白い平面な物をバックに今にもキスをしそうになっているタイラーの顔だった。



「うわっ!?」



 驚きから体がビクリと跳ね、それに連動して顔も跳ねるとそのままタイラーの唇と俺の唇は軽く重なった。



「んむっ!?」



 続けて驚いていると、タイラーは少し大人の女性らしさを感じさせる色っぽい笑みを浮かべた。



「うふふ、キヨモリのFirst Kiss。Meのと交換しちゃった♪」

「ふぁ、ファーストキスって……!」

「あら、違った?」

「ち、違わないけど……」

「なら、よかった。気分はどう?」

「わ、悪くない、かな……」



 初めましての女の子との保健室でのキスというシチュエーションは思春期の俺にとっては心臓が破裂しそうな程にドキドキするものだったが、タイラーはそういうわけでもないのかニコニコ笑っていた。



「まさか気を失うとは思わなかったから驚いちゃったわ。でも、胸の中で眠るキヨモリはBabyみたいでvery cuteだったし、Meとしては眼福だったわよ?」

「そ、そういう日本語は知ってるんだな。というか、もしかしてタイラーが運んでくれたのか?」

「YES! これでも結構Powerがあるの。キヨモリくらいのWeightなら余裕のよっちゃんね」

「俺の体重って一応高校生の平均より少し重いくらいのはずなんだけど……まあそれは置いとくか。運んでくれてありがとうな、タイラー」

「Your Welcome♪ タイラーのキヨモリなんだからこのくらい当然よ」

「さっきもそれ言ってたけど、タイラーみたいな子ならもっといい奴を捕まえられ──」

「No.これは決定事項よ。それに、Classroomでもうdeclareしてきたしね」

「……え?」



 俺が驚く中、タイラーは俺の頬に手を添えた。



「Youと転校生のMeは今日からClassmateになるんだけど、Youをここに運んでからした自己紹介の時にみんなの前で言ったのよ。もうキヨモリはMeの物で、Meはキヨモリの物だって」

「……は!? な、何をいきなり……!」

「だってキヨモリの事が結構好みなんだもの。それに、二人合わせたらタイラノキヨモリになるんだからこれはもうDestinyよ。という事で、これはMe達はLoverだからよろしくね」

「え、ええ……?」



 困惑する俺を見ながらタイラーはニコニコ笑う。これといって面白い事のなかった俺の毎日はどうやらラブコメのような物になっていくようであり、ため息をつきながらも俺は何だかんだでワクワクしていた。



「まあ良いか。タイラー、これからよろしくな」

「こちらこそ、キヨモリ。さあて、正式にLoverになった事だし、Kissの続きをしましょ」

「わかっ……え!?」

「誰もいないからちょっとAdultな事をしても良いけど、キヨモリはそっちのが良いかしら?」

「いやいや、誰もいないとはいえそれは良くないって!」



 慌てる俺を見ながらタイラーはクスクス笑う。



「No problem.Health roomのteacherにはMeがしばらくついてるって言っておいたからしばらく誰も来ないわよ。だから、存分にMeの胸を揉んだり吸ったりしても良いのよ?」

「す、吸う……!?」

「うふふっ、Jokeよ。今はね。これからHappyなSchool lifeにしましょうね。キヨモリ」



 また顔を近づけながらタイラーは嬉しそうな笑みを浮かべた。

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タイラーと清盛 九戸政景 @2012712

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