第14話 料理人オダジマその5 初めての共同作業。エヴェリーナと買い物してサッポロ一番のアレを作ります。だけどお姫様とニアミス。大丈夫か?

 以下、【エ】はエヴェリーナ、【オ】はオダジマ。


 陽光の穏やかな日曜日の午後、僕とエヴェリーナは、アジアンスーパーに来ていた。おやつのみそラーメンの具材を買いにきたんだ。

 今日のエヴェリーナは、タイトなブルーのスキニーデニムに、上はぴっちりした白Tシャツ。縦長の綺麗なおへそが見えてる。スタイル抜群で、まさにボン、キュ、ボンとはこのことだ。

 

【オ】あ、モヤシがあった。よかった。これがないとみそラーメンが寂しくなっちゃうからなー。あー、でも一ユーロか。日本円で一六〇円もするんだな。

【エ】へー、それって高いってこと?

【オ】うん、そう。日本では割といいやつでも四〇円くらいだったからなあ。四倍もするのか。ああ、万能ネギもあった。これも買っておこう。

【エ】バンノーネギ?

【オ】まあ、香草みたいなもんかな。白いネギよりずっと辛みも少ないし、パクチーほど匂いもしないから、エヴェリーナでも大丈夫だよ。どっちかというと、賑やかしというか、色味の役割が大きいな。これがたっぷり入っていると、なんかラーメンがヘルシーになったような錯覚を起こすしな(笑)。


 そのほか、ごま油と豚ひき肉を買って、準備完了。それと、今朝茹でておいた卵をトッピングしよう。


 お店を出て、二人で歩いてアパートに戻る。


「ふふふ、オダジマとお買い物なんて、夢みたい。幸せだなー」って言いながら、エヴェリーナが腕を組んでくる。おお! 見事に屹立した胸がポインってなって、なんて気持ちいいんでしょう。僕も幸せだなー。


 アパートの台所で、

【オ】さあ、作ろう。エヴェリーナも手伝ってね。

【エ】うん、何したらいい?

【オ】もやしを洗って、ごま油で炒めて。ちょっと塩コショウしてね。お醤油でもいいんだけど、色がついちゃうと美しさが削がれるので、今日はやめとこう。


 エヴェリーナがモヤシを炒めている間、僕はひき肉とニンニクのみじん切りを炒めて、醤油と酒で味付けして、片栗粉でちょっととろみをつける。

 

 そして、お湯を沸かした鍋にサッポロ一番みそラーメンを入れて、触らずに二分半。

 さあここからは、時間との勝負だ! スープを入れて深皿に取り分け、たっぷりのモヤシ炒めを乗っけて、その上に肉そぼろをこれまたたっぷり、さらに刻んだ万能ネギもどっさりかけて、サイドに半分のゆで卵と、こないだ王様に出したシナチクの残りを添えて出来上がり。さあ、食べよう!


 今日は大家さんは気を利かせてくれたのか、午後はお出かけしているそうで、二人で食べることになった。


【エ】くんくん。なるほど。塩ラーメンと比べると、ちょっと癖のある感じがするわね。だけど、真っ白のモヤシにネギの緑が映えて、すごく綺麗ねー。卵の黄色もいい。写真撮っとこう。

【オ】じゃ、早速頂こうか。まずは、肉そぼろとモヤシを一緒に‥‥‥おー、シャキシャキ。美味い。エヴェリーナのモヤシ炒め上手。塩加減も絶妙で、これだけで白ご飯いけるな。

【エ】えー? 嬉しいな。ああ、ほんとだ美味しい、野菜たっぷりでいいわねー。

【オ】それじゃ、ラーメンを、ツルツルっと。おー、うまい。これだこれだ。このスナックみたいな感じ。時々無性に食べたくなるんだ。

【エ】ツルツルー。あ、美味しい! オダジーマ、これ美味しいわよ。こないだの塩ラーメンと全然違って、ガツンと力強い感じ? 麺も塩と違うのかしら? よりスナック感があるみたい。

【オ】そうかもな。スープとの相性考えて麺も変えてるんだろう。塩と甲乙つけがたいけど、日本ではみその方が少し人気あるんじゃないかなあ。みそラーメンは、ガツンとホームランかっ飛ばす四番ファースト王貞治で、塩ラーメンはクルクルと小回りの利く二番セカンド土井正三って感じだ。あれ? じゃ三番サード長嶋茂雄はなんだ? しょうゆ? 

【エ】‥‥‥何言ってるのか全然分かんない(笑)。だけど面白そうなこと言ってるのは分かるわよ、ふふ。あと、私、このスープも大丈夫よ。ちょっと癖があるけど、全然許容範囲内。

【オ】この赤い子袋のスパイスを入れると辛くなるんだ。エヴェリーナが初めてだから、今日は止めといたけど。

【エ】あー、美味しい、フォークが止まんない。あっという間に食べちゃうわね。


 二人で夢中で食べて、もう殆どスープだけになったところで、


【オ】フッフ‥‥‥これで終わりと思うなよ。今日は隠し玉があるんだ。ちょっとこのまま待ってて。

【エ】えー、なんだろう? 楽しみだなー。

 

 僕は部屋に戻って、今朝残しておいた冷ご飯を取り出して、お椀に分け、レンジでチンして熱々にした。そして、さっきの肉そぼろの残りと青ネギを散らして、さあ出来た。


【オ】お待たせー。これに残ったスープたっぷりかけてスプーンで食べてねー。

【エ】おお、それは美味しそう! やろうやろう。

【オ】子袋のスパイスもかけちゃえ。味変だ。パッ、パッ。

【エ】では早速一口‥‥‥む、こ、これは美味しい! すごい、なんかピリッとしてて悪魔的な美味しさ! もう抵抗できない。三口くらいで食べちゃいそう。オダジーマ天才!

【オ】ははは、割とみんなやってるよ。この手の汁かけご飯は、万国共通の美味しさだろうなあ。あー、ほんとに美味しい。サラサラ入るな。美容と健康にはあれだけど。

【エ】ほんとね。もう、これおやつの範疇を大きく超えてるわよ。ああ、お腹いっぱい。エフー。食後はコーヒーだけにしてシナモンロールはやめとこう。夕ご飯に響きそう。

【オ】えー、あれないと口寂しいな。大家さんの手作りのやつ、楽しみにしてたのに。

【エ】あはは、じゃあ、半分こして、二人で食べよう。


 エヴェリーナはそう言って、僕の腕を取って、肩にコテンと頭をもたげてきた。

 また胸がポインってなる。ああ、今日はいい日になったな。


 *****


 そこから時間は少し遡り、場面は変わって、お城から公用車ボルボXC90(北欧なので)で街にお出かけしているサラ王女とお妃様。


【サ】ああ、お母さま、この辺りにオダジーマのアパートがあるのよ。

【妃】ふーん、そうなの。お城から近くていいわね。

【サ】うん‥‥‥? あ、いた! 袋抱えて歩いてる。‥‥‥けど、何あれ? ボン、キュ、ボンの美人が腕組んでくっついてるじゃないのよー!

【妃】あららー。本当だ。最悪のタイミングね、これ。

【サ】オ、オダジーマの浮気者ー! さては、あれがエヴェリーナちゃんなのね。私のオダジーマに気安く触るんじゃないわよ。私のものなのよ。ちょっと停めて! 降りてって引っぺがしてやるわ。

【妃】おやめなさいよ。

【サ】だって、浮気現場おさえたのよ! ほっとけないわよ。

【妃】聞き分けなさい!

【サ】‥‥‥。


【妃】ねえ、本当に浮気なのかしら? よく見てご覧なさい。オダジマも穏やかに微笑んで、幸せそうにしてるんじゃないかしら?

【サ】‥‥‥。


【妃】オダジマにはオダジマの送るべき人生と幸せがあるのよ。もちろん彼は優しいから、あなたが待ってて欲しいって言ったら一〇年待っててくれるかも知れない。だけどそれって、今彼の目の前にある幸せとか、やりたい夢とか、手を伸ばせずに長い時間縛り付けてしまうことになるわよね。待ってる間に逃しちゃうかも知れないわよね。

【サ】う、グス‥‥‥。


【妃】まだ九つのあなたにこんなこと言うなんて思ってもみなかったけど、オダジマのこと本当に好きなら考えなきゃだめよ。「愛情」ってね、その人を縛って自分のものにするのではなくて、その人が自由に動けるように、夢を追いかけられるように、支えて、見守ってあげることなのよ。もちろん、今ここで決める必要はないけれど、オダジマにとって、遠い将来まで待ってあなたと一緒になるのがいいことなのか、よく考えてご覧なさい。


 お妃様はそう言って、そっとサラ王女を胸に抱きしめ、綺麗な髪と背中を撫でてあげた。


【サ】うう‥‥‥えふっ、グスっ‥‥‥わーん! わーーーーーーーーん!


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