第44話 魔王ノア 1/4


名前……どうしようか?


俺は宿屋でベッドに転がりながら名前について悩んでいた。


それぞれの人格があってこれから『日替わり』になると言っても、周りからそれは解らないわけだから、必要だよな。


ソニア、ケイト、リタ……それにクロフォード……


ソケイリク……う~ん組み合わせじゃ名前が作れない気がする。


「悩んでいるようじゃな?」


横のベッドで足をばたつかせながら黒髪のゴスロリを着た美少女が俺の顔を覗き込んできた。


その容姿につい見惚れてしまう。


凄くズルい気がする。


黒髪なのは恐らく魔王様の物なのだろう……問題は顔だ。


よく見ると俺の好きだった幼馴染の三人の面影を綺麗に残したまま美少女にするとこうなる……そういう顔だ。


「ええっ、名前をどうするか? なかなか決まらなくて……」


「そうじゃな……魔族はそんなに名前に拘らぬから、好きに決めて良い! ポチでもたまでもクロでも好きな様にするが良い!」


『日替わり』の件は取り敢えず少し先延ばしになり、3日間程は魔王様がメインで出て来るそうだ。


四人で話しあい、そう決まったそうだ。


恐らく、三人は自由奔放な所があるし、事務や細々した事が嫌いだったから体よく魔王様……いや元魔王様に面倒事を押し付けたのかも知れない。


これが終われば、交代で皆に会えるのだから俺としては文句は無い。


「そうですか?」


う~ん……黒髪だから黒。


どこかで黒の事をノアールというって聞いた事がある。


ノアールって言うのもちょっとな……うん? 


ノアって語呂が良く無いか?


「我は文句は言わぬから好きに決めるが良い!」


「それじゃ……ノアでどうでしょうか?」


「ノアか? 良い名前じゃのう……うんうん、我は気にいった」


ご機嫌そうな笑顔だ。


これ、気にいらない名前だったら絶対に文句言ってきたよな。


「そうですか、気にいって頂けて良かったです」


「うんうん、これからはノアと呼ぶがよいぞ」


うん!? もしかして自分の名前と勘違いしてないか……


「ちょっと待って下さい! 魔王様、その名前は……」


俺は、名前が皆の総称である事を、黒髪の美少女に伝えた。


あっ、目がジト目になった。


「アホか……リヒト良く考えよ……お前がソニア達の人格と会う時は普通に名前で呼ぶだろうが! ソニアやケイトとリタの人格と逢瀬を重ねる時に別の名前を呼ぶのはおかしかろう?」


確かにそうだ。


「言われてみれば、そうですね」


「そうすると必要なのは四人を纏めた総称と我の名前じゃ! 流石に我を何時までも魔王様とかクロフォードと呼ぶのはおかしかろうが! だから必要なのは総称としての名前兼、我の名前じゃ! ノアと言う名前がノアールから来たのなら我のクロフォードの『クロ』から考えてくれたのと違うのか?」


うっ、これは違うとは言えないな。


「違いません」


「そうか、そうじゃな……我が名はノアか、凄く良い名前じゃ、これからも宜しく頼むぞ! リヒト」


「はい……」


ソニア達は兎も角、魔王様とはほぼ初対面……これからどうすれば良いんだ。


「なんじゃリヒト……お主は我の夫じゃ。もっと堂々としておれ」


「ですが、魔王様だったんですよね……それに元は男だった気がするのですが……」


「我は元は両性具有じゃ! 尤もデモーニッシュにとっては父親じゃがな……女としては余り振るまった事は……ないな。 ある意味ピチピチの処女じゃ……嬉しかろう?」


いや……魔王って何歳なんだ?


聞かない方がよいよな……


「あはは、そうですね……ちょっと用事があるので出てきます」


話しに困ったので俺は出掛けようと思ったのだが……


「待て、リヒト何処に行くのじゃ! 我も行くぞ」


「はい」


どうやら魔王からは逃げられないらしい。


◆◆◆


冒険者ギルドに来てみた。


「パンパカパーン! おめでとうございます! リヒト様! リヒト様のランクがS級に上がりました」


冒険者ギルドの受付嬢がいきなりクラッカーを鳴らしてきた。


え~とS級?


「S級……」


「何を惚けておるのじゃ! 勇者討伐に教皇討伐……それでS級にならない訳が無かろうが……人間だって魔王討伐した後は地位や莫大な褒賞が貰えるのじゃろうが!」


確かにその通りだが……それで良いのだろうか?


「ノア様……だけど、それはノア様が瀕死の状態に追い詰めた状態の勇者にとどめを刺しただけで……そんなに凄い事はしてないのですが……」


「まぁ、それはそうじゃが、その前に教皇を殺しておろうが! それに我はリヒトの妻なのじゃ! お主の地位や収入が増えれば我も助かる……謹んで受け取るが良い」


確かにそうか……


「あの……その横の偉そうな小娘、誰ですか?」


「小娘じゃと! 貴様、我を誰だと!」


「ヒィーー……たっ助けてーー」


ヤバいな、流石は元魔王様、凄い殺気だ。


「あ~この子の名前はノア……え~と1/4だけ魔王クロフォード様だから……」


「ああっ……噂のクロフォード様でしたか! スミマセン! 以後態度を改めますから……お許しを」


「我はもうクロフォードじゃない! リヒトの妻のノアじゃ! 間違えるでないわ!」


「は……はい、それで今日は一体どう言ったお話でしょうか?」


この際だからノアの冒険者登録とパーティ登録もしておこうか。


「折角なのでノア様の冒険者登録とパーティ登録をお願い致します」


「ノアじゃ……」


「え~と」


「妻だから、様などつけんで良い……ノアじゃ!」


「それじゃ……ノアの登録をお願い致します」


「解りました……」


1/4だけでもこの威圧。


良くライト達は勝てたな。


「ノノノア様……登録が終わりました……あとリヒト様とのパーティ登録も……早目にパーティの名前をハァハァ決めて下さいね」


そう言って受付嬢は冒険者証をノアに差し出した。


何故、この受付嬢はこんな汗だくになっているんだ。


「なんで我がFランクなんじゃ……」


「し……新人はFランクからです……」


「貴様ぁぁぁーー」


「ヒィ」


「ノア……」


「あっ!? リヒト……そうじゃな! 冗談じゃ」


受付のお姉さん泣きそうになっているし……


「なんだかごめん……ノア行くよ」


「うむ、次は城にいくのじゃ」


早くソニア達の番にならないかな……


「そうですね……」


「ほれ……」


ノアが俺に手を出してきた。


手を繋げ……そういう事か?


魔王城に行くのか。


義理があるから行かない訳にいかないけど、胃が痛い......絶対になにか起きそうだよな。








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