第2話 過去 悪夢
自分の部屋で休んでいるとドアをノックする音が聞こえてきた。
トントントン。
多分、ソニアだ。
「ソニア……会いたか……」
「ごめんね、私、ライトの回復役として必用な存在になったの……だから婚約を破棄して下さい……」
俺の話を遮るようにソニアが別れ話を切り出してきた。
「ソニア、俺なら魔王討伐の旅が終わるまで待つから」
「ごめんなさい、勇者と私は将来結婚する運命にあるの……それに私リヒトよりライトの方が好きだという事に気がついたから……ごめんなさい」
それだけ言うとソニアは立ち去っていった。
頭の中が真っ白になった。
ソニアが何を言っているか理解が出来なかった。
呆然としていると、姉のように俺に接してくれていたケイトが俺の傍に来ていた。
俺は泣きたくて、相談しようと思ったが……
「ケイト……俺、ソニアに」
「振られたんだ!? だけど、ごめんね......僕はもう、ライトの女になったんだ、勇者の彼を剣士として支えるつもりだよ。もう貴方の姉貴分じゃ無いわ、だから相談されても迷惑だよ、いい加減姉ばなれしなさい」
何がなんだか解らない。
姉弟のように仲が良かった。
家族だと思っていた。
絶対に切れない、そう思った絆が……切れてしまった気がする。
そこから暫くして妹分のリタも俺の部屋に訪れてきた。
「リヒト、私はねライトの物になったの、さようなら……」
この時の俺には自分に何が起きたのか解らなかった。
何かの冗談なのか……悪夢なのかそう思っていたんだ。
だが、それからしばらくして、近くの部屋から喘ぎ声が聞こえてきた。
その声は……間違えるわけがない。
ソニア声だ……
ソニアは身持ちが固い。
俺とはキスまでしかしていない。
『リヒトの事は好きだけど、結婚するまで待って』
そう言っていた程だ。
決してこんな声を上げるような女じゃない。
だが、「ハァハァ「という息遣いと「あっあん」という喘ぎ声が間違いなく聞こえてくる。
声が聞こえてきたのはソニアの部屋じゃない。
どこだ……
どうしても気になる。
間違いであって欲しい。
そう思いながら、声を頼りに部屋を探した。
『嘘だろう』
声が聞こえてきたのはライトの部屋からだった。
なにかの間違いであって欲しい。
全部夢であって欲しい……そう思いながら、ゆっくりとドアノブに手を掛ける。
鍵が掛かっていない。
やはり、俺の気のせいだったのか……
逢瀬の最中に鍵もかけない様な人間は居ないだろう。
そのまま、少しだけドアをあけ除くと……
「ああっん、あっライト……」
裸になりライトに跨り腰を振るソニアが居た。
よく見るとライトの横に同じく裸のケイトとリタが横たわっている。
頭の中が真っ白になり、ドアを静かに閉めようとした瞬間ライトと目が合った。
顔を青くし呆然とする俺にライトはニコリと笑いソニアに気がつかれないようにVサインをしてきた。
「うっ」
思わず叫びそうになったが俺は両手で口を押さえ、その場を走り去った。
◆◆◆
「うえわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー――」
意味が解らない言葉を叫びながら俺は街中を走り回っていた。
『うるさい何時だと思っているんだ』
そういう怒声があちこちから聞こえてくる。
だが、それでも俺は叫ばずにいられなかった。
気がつくと目からは涙が零れ落ちてくる。
涙を止めることはできない。
「うえあうわぁぁぁぁぁぁー――ソニアー」
そして叫ぶのもやめられない。
だから、俺はそのまま街を出た。
泣き叫ぶ俺を恐れたのか衛兵も声を掛けてこなかった。
夜の森は危険だ……だが、そんなのお構いなしだ。
そして……俺は草原で転んだ。
もう起き上がる気力もない。
「なんでだよ……意味が解らねーよ……」
泣き叫び疲れた俺は、少しだけ冷静になった。
こんな俺の気持ちと関係なく月は綺麗に俺を照らしてくる。
「ううっううっうわぁぁぁぁぁー――ん」
ただただ俺は意味もなく地面を殴り続ける事しか出来なかった。
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