~小春日和の俺の無心~(『夢時代』より)

天川裕司

~小春日和の俺の無心~(『夢時代』より)

~小春日和の俺の無心~

 俺は軍曹のような人間と一室で話をしていた。どんな話題か憶えちゃいない。唯、嫌に緊張していた両手と体が灯(あか)りをひっそり一つ点(とも)した暗室の内にて妙に羽ばたき色めき、浮いていたのが、今でも妙にはっきりしている。俺達はこっそり人から離れて、何やら秘密の話を真面目にしていた様子でうむうむ頷き、白日の下(もと)天から名声(こえ)等落ち行くような散々白(しら)いだ一日だったが、黒色(くろ)に怯えた防御の姿勢(かまえ)は一層取れずに、所狭しと喘いだようだ。それでいて尚、しっかりしていて丈夫な両手両脚(てあし)を細く保って、俺の言葉は大躯(たいく)に添った。〝大躯〟とは、女で在りつつまるで巨体に紛れた軍曹上がりの人間(あいつ)を指して俺の眼(まなこ)が見た物でも在りつつ、そうかと想えば途端に静々小躯(しょうく)を呈して、微かな灯(あか)りに準じて解けつつ、俺の体へ寄り添う仕草を仔細に真似行き、俺の思惑(こころ)を射止めて来るのだ。窓枠(がらす)に映った反射を見遣れば俺と人間(あいつ)の残写(すがた)が仔細に採れるが、何処(どこ)か不埒な想像(おもい)も在りつつ真昼の日中(ひなか)は人間(ひと)を飛び越え、発声(こえ)が駆け行く改悛(オルガ)の正体(なかみ)は昨日を知らない屍(かばね)であるのに、俺と人間(あいつ)は目標(あて)を探して孤独を嫌った愚態(ぐてい)を表(ひょう)した。現在(いま)がどう言う季節で何日なのか、私達(じぶん)を取り巻く時刻も知らない。唯、俺と人間(あいつ)の間に置かれた丸い卓(たく)した茶机(ちゃづくえ)が一つの灯(あか)りで頻りに輝(ひか)って二人を照らし、体の前部を洗身するほど照輝(てか)らす白色奏でた人工照(じんこうしょう)には何処(どこ)かで知り得た未熟を発して俺を流行(なが)した。又その一室とはヘリコプターでの狭い造りに密封され得た空間(へや)の様子を暗に潜んだ熱気は呈し、その頃から又、俺の神経(からだ)は淋しく成りつつ生きた軌跡を喜びつつもつい躍起に捕われ母性(おんな)を欲して、煙草を吸うまま女を知り得た軍曹(ひと)の眼(まなこ)に己を分け遣りちょうど熟した時期(ころあい)知りつつ明日(あす)の計画(ようす)を話し始めた。本当に本気々々(まじまじ)良く観て感覚(くうき)を探れば、軍曹(あいつ)の表情(かお)には丸身(まるみ)が燃えつつ紅く輝(ひか)って、柔い白肌(すはだ)に塗した化粧(かっき)が乗りつつ男性(おとこ)を遠ざけ、俺の目前(まえ)では女性(おんな)と成り得た。何やら話すが相対(あいたい)するまま微動(うご)かないのに、白い柔肌(はだ)だけ微かに揺らいで、俺の耳には一つ一つの片言(ことば)も吐息(ようす)も怒涛に満ち得た外気の様子に始終捕われ、密室(かべ)を挟んで俺には飛ばない。しかし一つだけ軍曹(そいつ)の生身を覚らす人間味(よわみ)が表れ、口調の端から蓮っ葉被(はすっぱかぶ)りの東北訛りが具に見て取れよくよく観遣ると、どうも彼女は北海道(きた)の生れで、今でもそうした我が身の過去など他(ひと)へ報せず独自の作法で誤魔化す様(よう)だ。随々(ずいずい)見遣ると白い頬から照輝(てか)りが消えつつ熱気が辟易(たじろ)ぎ、素直を通した女性(おんな)の活気が至上を掲げて労苦を報せて、俺の体温(からだ)は始終萌え出す衝動(うごき)を捕えて彼女を捉え、静々独白(はな)した彼女の生気は死線を抜け得た孤高に在った。どうも彼女は根城を跳び越え現在(いま)を知り得て、温(あたた)め直した体(からだ)の温みは俺の知らない戦争(ひげき)に準じた肉塊(かたまり)らしい。

 訳有りの風采を醸し出そうと周辺(あたり)の暗気(くうき)を従え始めて、俺の目前(まえ)にて大きく伸びした姿勢を掲げて軍曹(あいつ)は少女を衒い、又女子を気取ってこそこそ呼吸(いき)して落ち着き、俺へ対した泡(あぶく)の口角(くち)など如何(どう)でも褥に構えて直り始めて、俺の眼(まなこ)は女性(あいつ)の告白(ことば)を仔細に準じて捕え始めた。暗い廊下が虚空に浮んだ一室(へや)であるのに存在したかと、盲想(おもい)に駆られて浮遊して行く俺の感覚(センス)はあそび始めて、女生徒(あいつ)の告白(ことば)を気分の向くまま拝聴して居た。北海道(きたぐに)出身の訳有りの女子(おんな)に成り得た軍曹こと俺の相手は、ひらひら飛び交う会話(ことば)を集めて俺へ対峙し、正しい姿勢(すがた)に居直りながらも窓の見えない暗室(へや)の内では一つ、一つ、独談めいた花を咲かせて俺を包(くる)んで、もう直ぐ途端に自身の悩みの過去(たね)など具に話して楽になろうと、子供の様(よう)でも大人の様(よう)でも、意味に準じた蛻の過去(からだ)に成長付け行く挑戦(おもい)の丈など訳有り風にも話して行くのだ。そうして対した俺の姿勢(からだ)は順々強張り両脚(あし)を揃えて、微動だにせぬ暗気(くうき)の背中へ自身の覇気(やるき)を少々乗せつつ頑固と成り果て、その子の話す告白(ことば)の一つ一つを具に平らげ紙面に携え縦しんば世情を変え行く程度の気力にしようと滔々表情(おもて)を土台と固めて少女を見詰め、する質問などには牙と柔らが体好く置かれた並びに成り出す。暗く茂った両者の丁度(ちょうど)中間程(なかほど)に置かれた丸卓机(まるたくづくえ)をぽんぽん叩いて少々強引、半ば強引、止まらぬ気丈に躍起に成り得た俺の姿勢は如何(どう)でも少女の表情(かお)には未熟(あお)く輝(ひか)って滔々流行(なが)れる俺の姿勢(すがた)に一点二点と、気分を損ねる汚点が発見(み)え出し俺を捕えて、怪訝な表情(たいど)を隠さず見せ行く女性(おんな)の感情(ゆめ)には俺の体温(ねつ)など冷め消え始め、如何(どう)でもこの場を立ち去りたいなど、少女にとっては身重に身軽に駆られ始める言動(うごき)の様子がぽろぽろ落ち行く女性(おんな)の態度に輝(ひか)って在った。

 その女性(おんな)の話題(はなし)に腰掛け程度に居座り事情(なかみ)を聴けば、戦時中、敗戦色(はいせんしょく)が濃くなって来た風流(かぜ)の内にて幾人かの女が何処(どこ)かの坂(通称、「肖り峠」か何か言っていた気がする)に何故かヘリコプターのような滑走路の要らない空の乗り物に同乗したまま遺言染みた独白(ことば)の嘆きを、両親や大切な友人(ひと)へ向かって書いては投げ書いては投げして、更に自身の黒髪(かみ)を遺髪に畳んで白紙へ抱(だ)かせて同乗して居た幾人かの表情(かお)の見えない武装者(ぐんじん)なんかに渡して置いて、その後にヘリコプターから身を投げ自分は坂へ落下し死に果てるのだ、と言う樞めいてはその瞬間(とき)自然に解け入る彼女の話題(はなし)は壮語に聞えて俺を温(あたた)め、俺の小耳は体温(ねつ)を灯して彼女に対した。嘘か誠か、事実を知らない俺の過去ではその子の壮語が今いち輝(ひか)らず消えそうでもあり、話題に於いては今いち効き目が無いほど未熟(こども)に見えたが、そうする俺の予感(おもい)を断ち切る体(てい)でと彼女はすっくと立って俺へ居直り、瞬間、後ろを振り向き空間(せかい)を呈して、俺の孤独に懐柔して来た。涼風(かぜ)がふっと去り行く密室(へや)の内にて彼女の姿勢(からだ)は戦闘機に乗り、同乗して居た武装者(ぐんじん)達を横目に置きつつ尻目に置き遣り、新たな挑戦(ゆめ)へと羽ばたく様子で〝ばっ〟と飛び立ち落下を見せた。実際その子は一度で足りずに二度目の自殺を俺へ報せた。そう言う経過を程好く乗り越え、暗室(へや)の内でも活きて居たから俺の感覚(からだ)は彼女へ向くのに自然を覚えて可笑しさ等無く、彼女の発言(こえ)など程好く響いて反響しながら丸卓(つくえ)へ降り立ち、伸びをするのも独白するにも居直りするにも俺の許可など一目散へと脇へ寄せ遣り自由を構え、軍曹(かのじょ)の口角(くち)には今でも知らない生気が返る。彼女のそうした荒業染みたアクロバットは、まるで俺の盲想(おもい)の内にてし終えて見せた曲芸でもあり魅惑でありつつ、新たな次の話題に準じた二人の結託(からだ)が未来(さき)へ向けられ言動(うご)いたものだと俺も彼女も納得して在り不思議ではなく、彼女は生身を携え俺の感覚(ゆめ)では今か今かと待ち侘びながらに彼女を崇めて、彼女の生気が何処(どこ)かは知れないあの〝肖り峠〟に根付いた儘にて再び母体(ここ)まで還って来るのを俺の本能(おもい)は正直待ち侘び、彼女の白身に仄かに灯った紅い火照りを〝何が何でも見落とすまい〟など俺の思惑(こころ)は誓って行った。

 そうした希望の果てにも、反省しながら要所を束ねて彼女の過去(むかし)を追求し得れば、俺の空想(むくろ)は泡(あわ)にも接して中身が失(な)くなり、返って来るのは証拠ばかりで人間(ひと)に隠れた感情(おもい)は届かず身軽と成り行き、盲想(ばめん)の内でも坂に接した彼女の神経痛(いたみ)は俺の空想(おもい)を遥かに凌いで嘘にも見えて、彼女が自分へ対する姿勢(からだ)の内には俺へ対する愚弄の視点が仄かに在るのだ…、等言う俺の根暗な思想(ぶぶん)は暗室(やみ)に沈まず輝体(きたい)を見せ得た。彼女が地面に接したその時の神経痛(いたみ)は俺にとって、痛烈な神経痛(いたみ)でありつつ俺を妬んで、仰々しいまま俺の回顧は唯生粋成るまま彼女を捕えて、数多の疑問を黙殺しながら抱擁して在り、〝明日の為に〟と労苦を打った。この時二度目の欠伸が俺を襲った。彼女の脳裏は俺を捕えて一から積み上げ、何者かにして暗室(とおく)へ居座り口笛吹きつつ空(くう)を逃がして、俺の還りを狙ったようだ。彼女が空から離れてびゅうっと言うまま落下して行く最中(さなか)の様子は、両脚(あし)は自然の成すまま静かに伸ばされ陽光(あかり)は彼女の羽衣(いふく)を準じて照らして輝かせており、胸に組まれた両手は今でも浮んで異彩を放つ、祈る姿勢で静かに在った。祈る両手は彼女を咲かせて女神を据え置き、俺の鼓膜に美声を響かせ思惑(こころ)に咲いて、明日(あす)の糧へとその実(み)を成らせた。その時彼女を巻いてた周囲の涼風(かぜ)では暗雲とも成る黒い人煙(けむり)が立ち込めていて彼女の体が輝(ひか)る筈無く俺は微睡み、思惑(おもい)に咲き得た小さな発言(ことば)は、彼女の姿勢が不変に動じず誠実成るまま何処(どこ)かで信じた〝信仰〟へと一途に駆け込む気力を呈して独歩(ある)くからだ、と俺の脳裏(からだ)は事毎燃え出し閃いて行き、彼女を擁する思考の軸(ドグマ)が俺にも変らず居座る気色を呈して在った、と逍遥するまま覚らせた故に俺は彼女に付いて居たのだ。

 彼女は始め、落下するまま後光を隠して逍遥して居る俺の盲想(からだ)を無視して在って、自身の発する気色の麓を明るくしたのに、そのまま落ち行く肢体の上では俺へ対する意識の集体(たば)等未熟を愛する女神が居たのか俺を叱った離体(りたい)を飛ばして逡巡して在り思惑(こころ)を吐いて、やがては地面に接する自身を遠くの空から後光が射す間(ま)に俺への視点をくるりと向け遣り反転しながら、羽衣(ころも)を着たまま一糸乱れず祈りの両手も解(ほど)かぬ体(てい)にて、自然を装い俺へと向いた。坂を体(てい)した地面の上では、未だに戦闘している数個の機体が反転しながら遥かを駆け行き、高低問わずの錯覚等にもきちんと出向いて処理(かたづ)け行って俺を包(つつ)んで、女神の表情(かお)には何時(いつ)か見知った群象(むれ)の吐息が所々に溢れて消えた。二通(ふたとお)りの想いが在った。俺には、真綿に包(くる)んだ様子を挙げる夜の気色に彩(と)られた黒色(こくしょく)に活き得る眠りの想像(せかい)と、女神が見せ得た白色(はくしょく)に彩(と)られた潔白成るまま未完の無い儘、或る群象(ぐんしょう)が数多の死線を乗り越え俺の知り行く未知の道程(どうてい)を脚色し行く硝子の脆さを呈した未完の想像(せかい)を構築せられて目前(まえ)へ置かれて、独創(こごと)を挟んで両者は夫々屹立して在り、白色(しろ)が勝っても黒色(くろ)が勝っても自ず負けじと自我を埋めて微動(うご)ける二分(にぶん)の想像(せかい)は両手へ余らせ憤悶するまま怒涛に満ち行くモノクロリズムを夫々両者が好んで採り行き、俺の正直(いしき)に見せていたのだ。俺は成るまま白紙に埋れた気色の何れを自己を介した真綿へ包んで言葉を吐きつつ、誰に見せても実(み)の無いお伽話を空想しながら他者を巻き込む夢想(ゆめ)を妬んで未熟へ放り、過程の見えないアナクロリズムを不敵に怨んで自己への問答(いしき)を頭上に掲げて深遠(しんえん)採りつつ未開に通した遊歩に労い試算に乗じて苦労を採って、俺の視界(まなこ)は女神の身内(うち)にも程好く熟したお伽を知るまま当てを外した硝子(いしき)を見ていた。まるで女神(かのじょ)は俺のそうした幾度に講じた「遊歩」の数など能(のう)の仕手(して)にも明然成るまま屈曲して在る人間(ひと)の定義(じょうぎ)に屹立したまま故習に魅せられ自己を低めて、敢然成るまま思考の主(あるじ)は白色(しろ)の想像(せかい)に開墾したまま寝室(ねむろ)に安(やす)んだ覚醒(めざめ)の主神(あるじ)を起して行きつつ主(あるじ)は俺へと還り、体動(からだ)の向くまま貴重に採られた主神(あるじ)の姿勢(すがた)を寝床で見て居た主(おれ)への挑戦(ちから)に成立して寄せ、朝か昼か日暮れか泥(まずめ)か知らない間に孤踏(ことう)に埋れた輪舞曲(ロンド)の果てには一糸纏わぬ奇麗が咲き得た。

 徒然なるまま二人の情緒は多面を呈して熟して咲き得て、俺の視界(まなこ)へ一通したまま寝室(ねむろ)を忘れた試算の狂歌が遊んで在りつつ、何時(いつ)まで経っても橙色した高価は暮れ行き俺の思惑(いしき)は自然に解け得た。やがて再び夜が来たかの体(てい)にて周辺(あたり)は黒色(くろ)に包まれ真っ暗と成り、周辺(あたり)を見廻す俺の肩には一匹紛れた蝶が跳び付き視線を盗み、俺の体動(からだ)は次第次第に朝が来るのをねっとり構えて純粋(すなお)を採るまま真向きに捉えた至順(しじゅん)に在った。熱して灯した赤色(あか)の群象(むれ)には奇怪に興じた一連(ドラマ)を知りつつ未開の果てには〝しどろ〟が在って、髑髏の記章(たぐい)は夢想(ゆめ)に溺愛(おぼ)れた至業(ノルマ)を採りつつ開拓して在る既知とは暫く無縁を知りつつ、覚悟して在る思考の立場は逡巡するまま起想(きそう)に紛れる堂の内へと放られて在る。ヘリコプターの内壁等には操舵に構えた操縦士(おとこ)の姿勢(すがた)が映らぬ間(ま)に間(ま)に人影(かげ)は徹して女神を牛耳り微動に動かず、数多の過去さえ残って無いのを俺の視界(まなこ)は遠方(とおく)を仰いで熱気を灯して虚空を見上げた視線(まなこ)に採りつつ徘徊して在り、空虚(いしき)の遠退く退屈(じかん)の経過を具に捕えて準じていながら意気込み霞んだ自営を知り得た。機体の内には数分経っても未熟が徹した灯(あか)りが点(とも)り内転したまま人影(かず)を照らして、俺の居場所はそこには無いのをまるで死地に化し行く蛻の大地で黒々したまま気色を産み行く思想に準じて知る所と成り、灯(あかり)に点され情緒多面に体温(ぬくみ)を呈する内壁(うち)では決して、落ちない冷酷(よわみ)を知り得ているのだ。山岳の標高にも似た機体の高度は夜体(やみ)の内にも点在する程大躯(だいく)を延ばして夢想に拡がり、僅かな弱光(ひかり)を仔細に捕えて発光するまま俺の視野には青く微温(ぬる)んだ美化を期しつつ妙体(みょうたい)想わせ、静かに緩んだ〝白色後光〟は妬む間も無く黒色(くろ)に準じる悪夢を知り得た。

 俺の躰は何時(いつ)しか戻って寝間着へ着替え、ヘリの内でも微かに軟(やわ)いだ宝庫を想わす一室(へや)へ戻って彼女と対峙し、数匹程度の獣の群象(むれ)など空間(へや)に連れ添い主観(いしき)を介してmarmot(ぎせい)として在り、何時(いつ)しか深夜(よる)まで散々喚いた議論(はなし)の後(あと)では徒然疲れて皆は寝て居た。眠る間際の展開(ばめん)の内では重なる躰を次々捕えて向うへ追い遣り、俺と獣は格闘しながら布団の奪取に奮闘していて結局夫々振られた体(てい)にて静かに鳴り出し、寝息が立つのは調和に合った。しかしそうした雑然(けはい)の内でも女神(おんな)の姿勢(すがた)は避(よ)けて在りつつ確立して在り、所々で彼女の体熱(ぬくみ)を咲かせど当の主(あるじ)は肢体(すがた)を晦まし壁に隠れて点在して在り、俺の触覚(センス)は如何(どう)ともし得ずの矛盾を採りつつ彼女の行方をそれでも間(ま)に間(ま)に執拗(しつこ)く追ったが、結局取材を終えては〝偶然〟報せて俺と彼女は別の岐路へと就き始めていた。冷気(くうき)が淀んで体熱(ぬくみ)を舞わせて、俺の寝床はそれでも間(ま)に間(ま)に暖気(ぬくみ)を知り行き安堵を従え、彼女の火照りは虚空へ翔(と)びつつ俺の肢体(からだ)へ還(もど)った様(よう)だ。彼女の行方は知れず間(ま)に間(ま)に取分け労する諸事さえ見付からないので俺の連動(からだ)は一旦纏めて内壁を知り、何処とも言えない密室(へや)の内にて体動(からだ)を座らす主(あるじ)を知った。している内にふっと微かな吐息(けはい)が聴えて俺の枕は徒然浮んで肢体(したい)と成りつつ、俺の視界(まなこ)はふわふわ飛び交い暗気(やみ)に転がり熟体(からだ)を欲し、諸動(うごき)の向くまま目標(あて)を知る儘、誘導されつつ一つの輝体(きたい)を夢見た。小窓を介して吹き入る涼風(かぜ)から目醒(めざ)ます温度を微かに受けつつ俺の意識(からだ)は宙へ挙がって、尚も口付けして来る彼女の妖気が身近に在りつつ無双と成るのを俺の思惑(こころ)は夢想(ゆめ)の内にて美醜に興じ、現(うつつ)に泥濘(ぬかる)む一つの曲芸(げい)だと認識採りつつ明日(あす)の行方を具に追った。知らず間(ま)に間(ま)に彼女の輝体は肢体(したい)へ化(か)わり、付け入る隙さえ仄かに呈して俺の覚醒(いしき)は準じて採りつつ、〝白色御殿〟を目前(まえ)にした儘〝眠り姫〟を呈した彼女の身元に術の無いまま静かに平伏し、彼女と一緒に密室(へや)の内にて遊んで在った。数匹転がる無体の獣は肢体(したい)を欲して覚醒し始め、小窓の陰から虚空へ目指して皆共々吸われる態(てい)にて吐息(けはい)を投げ入れ俺と彼女を一つとしたまま準じて在って、彼女はそのまま少女の体(てい)して俺と居るのを一つの覚悟に溜飲下げつつ、処女の畝(うねり)を未熟に欲して段々固まる覚悟に対した。二人を包(くる)んだ密室(へや)の内では、暗気(やみ)が徹した早熟(はやさ)に身を乗せ俺と彼女は接近しながら間隔(あいだ)を設け、白紙に描(か)き行く二人の寝相を具に進ませ美化に転じて潤い保(も)たせて処女と童貞(おとこ)の物語(はなし)とするのに経過は変らず真面と成り行き、俺は彼女を、彼女は俺を、真向きに捕えて初夜を迎えた夫婦の如くに小さな幸福(あかり)を囲んで在った。二人が手にした掛布団(ふとん)は三枚だけ在り、内に一枚やや小振りの毛布が備え付けられ温(あたた)かだったが、小振りの毛布はその子の気儘で俺から離れて奪われて仕舞い、残った二枚で二人は身を寄せ、互いに互いを覚醒するまで気取って寝て居た。背下(した)に敷かれた白色(しろ)い布団は彼女と俺とで分け合い取りつつ、少々彼女の躰が大きいのもあり俺の背下(した)には床を感じて、腹上(うえ)に被(かぶ)った白色(しろ)い布団はこれは殆ど俺が講じた腕力(ちから)に従い気儘成るまま俺に覆われ、吐息がただ寝息に変化するまで微動を返して二人は静々準じて行こうと純心(こころ)の向くまま夢想(ゆめ)へ這入った。眠る間際、間際に、彼女の寝息が静かに和らぎ忘郷(ぼうきょう)へ纏わる俺の過去(いしき)を素早く採り行き具に見立てた安堵を講じて俺の夢想(まなこ)へ落して来たが、俺の躰は深縁成るまま彼女の肢体(からだ)に絆(くさり)を繋いでずんずん解け入る〝夢想(ゆめ)の御殿〟へ根付く間も無く彼女の微熱を仰いで居た為、俺の微熱も気配(かぜ)の間(ま)に間(ま)に煽動(いしき)の向くまま塒を越えつつ彼女(からだ)を期したが、彼女の姿勢(すがた)は憂いを削ぎつつ俺から外れて一つの理想(ゆめ)へと闊歩した為俺の鼓動は好(よしみ)を忘れて自然に解け行き、躰を返した視界(あかり)の果(さき)には小さく輝(ひか)った幻想(おんな)が在った。そうする内にも彼女の姿勢(すがた)は男性(おとこ)を採りつつ体温(ぬくみ)を従え、明日(あす)へ独歩(ある)いた譚の中から持質(じしつ)に即した具体を選んで融解して在り、融解先には静かに衒った魅惑の境地が思春を掲げて逡巡して在り少女の個体を上手く掬って寝溜(ねだ)めとして行き、少女(かのじょ)は何時(いつ)しか盲想(おもい)に知り得た強靭成る儘、倒れず丈夫な独歩(しせい)を後光の差す内(なか)吟味(あじわ)い尽した。俺の方でも一身(ひとみ)が火照った摂理を知りつつ本能(ちから)の向くまま行進力(ちから)を徹した思春に乗じて分身(おのれ)を知り行き、架空を講じて少女の躰は裏返しのまま宙(ちゅう)へ跳び付き、俺の視線(まなこ)にゆっくり火照った少女の未熟を底儚(そこはか)知れずの浅夢(あさゆめ)なれども詩吟に準じた追従(しせい)を採りつつ耄碌して果て、彼女の返りを夢見(ゆめみ)に準じて待機するのが到底尽きない遊興(あそび)と成り得た。俺の芯には躰が火照らす思春(おもい)を紡いで涼風(かぜ)を知りつつ挑戦して行き、大躯(だいく)を拡げた暗気(やみ)の内でも尽きる事無く輝体(きたい)を残した少女の肢体(からだ)に一層挙げた脚力(ちから)の源(もと)には覚醒(せいぎ)も生れ、俺の衝動(ちから)は動(どう)へ転じて彼女へ向かい、彼女に眠った少女の装飾(かざり)を剥がして行ったが、努めて努めて剥がして行っても少女の正味を知る事など無く、彼女の寝息に消されて行って、彼女の防御(まもり)は陥落せず内二人を包(くる)んだ暖気に在った。一連(こと)が落着し始め、滔々朝陽が芽生える気色を見出し、彼女の躰を逃がして退屈(じかん)へ転がる俺には、少女の思春(おもい)は見る見る消え失せ終始を通して無い物と成り、俺の初心は彼女を掲げて眠りに就いた。二人はそのまま互いに背いて背後に奏した気配を知りつつ、無色に並んだ温帯を知り、疲れて眠った両の視(まなこ)は二人の夢想(ゆめ)に全く解けない内壁(かたち)を練るのに矛盾の無いまま成功していた。

 一方、思考を練るまま思索に耽った俺の躰は堂々巡りを少女と俺との刹那の空路を悠々自適に胸を焦がして徘徊してあり、如何(どう)でも此処まで辿り着くには矛盾を逸した自意識(ちから)と自尊(ちから)と実力(ちから)が並行したまま平らに居座る許容が要った。それを知るのに俺の常識(しこう)は機を逸さず儘にて思考に準じる強靭(つよ)さを持ち行き彼女を離れ、怒涛を知り行く田舎(けしき)の内にて呑気に居座る自尊を奪(と)るのに執着して行き、常識(こころ)が見るのは夕日(くれない)だろうと、思索(こころ)の準備は既にして居た。今がその時なのだ、と準じて自然に相対(あいたい)して行き独創(こごと)の連呼は益々以て烈しく成り着き、経過(じかん)の満ち行く刹那に素性(からだ)を捩って幽体するのが一番なのさ、と無効に喫した心の影を懐(うち)に呑み込み、明日(あす)を知るまで覇気を愛した。如何(どう)でも少ない残り時間を得手不得手に注意しながら空を仰いで、〝誰か覗かないか〟と神秘を知り行き頬杖突いても一向見えない兆しの内には我が身を愛する嗣業も来ないで藻屑と成り行き、他人(ひと)の不倖は不倖なれども白紙が呈する白色(しろ)に戻ると、未完を呈さぬ余震の如くに俺を揺さぶり予見を終えさせ、そうした所へ俺の兄貴は悠々成るまま両脚(あし)を遊ばせ、俺へ近付き、田舎の情景(けしき)を具に伝えて蛻と成り着き自然に失せて、俺は徒然田舎へ行くのを良しとして居た。俺の田舎は愛媛に在りつつヘリが映った安地(ここ)からでは望遠(ながめ)も利かずに隠れてあって、白々俺の肢体(からだ)は自棄(やけ)を呈する努力を重ねて登山して行き、暗地(あんち)を離れた役場へ着いた。その役場の隅には役に立たない一課が置かれて暗黙して在り、誰も付かない列に並んだ幼児の群象(むれ)など走り回って目印(サイン)を講じて俺を呼び込み、俺の両脚(からだ)は自然に衝動(うご)いて白色(しろ)く成り行き何にも動じず、視界(まなこ)に準じて一課へ付いた。目前(まえ)に敷かれた一課の内では職人仕立ての爺様が居て、女体は忙(せわ)しく空(くう)を独走(はし)って左右に寄り行き、俺の企画(おもい)は容易く這入って清閑(しずか)を呈して企図へと就いた。〝厚底ブーツを作って見よう〟と何処(どこ)かで知り得た広告(ちらし)の文句を具に捉えて値段を講じ、制作するまま作業に費やす自費など想わず夢想が先行き既成を掲げ、面倒事など俺は就かずに他人(ひと)へ遣ろうと〝丸投げ〟したまま当初の企図(おもい)は直ぐに消え去り他人(たにん)が這入り、俺の目前(さき)ではがたがたことこと、機械を奏して靴造りをする職人気質が昼を徹して火照り出すのを間近に捉えた。〝職人気質〟は老人であり、女体は彼の後ろを右往左往と寒気を装い忙(せわ)しく在りつつ、昼の暖(だん)など物ともしないで老人(かれ)の動きを尻目に捉え、別の仕事に徹して居ながら俺の表情(かお)など具に見ない。見えているのは純白(しろ)く輝(ひか)った鉄板に在り、鉄板(いた)の上には〝ネーム〟が置かれて、出来た品々纏めて捕えて一つ一つに丈夫に付け行き、仕事を冠する女中(おんな)を見せつつ俺の視線(まなこ)は夢中に在った。自然を愛した彼らを目前(まえ)にし俺の算段(しかけ)は順々解け行き、経過(じかん)を呈した白い時計は「一課」と記(き)されたカードの背景(うしろ)で頭上に浮き行き柱に掛り、俺の頭上(うえ)では小鳩が飛ぶのを音声(おと)に従え幻覚成るまま視界を遮り、真昼(ひる)の温度を益々上げつつ孤独で在るのを漸く知り得た。俺の発声(こえ)には脚力(ちから)の無いまま美声が伴い一課の彼等(かれら)を漸く捕えて試算に付け行き、厚底ブーツは案外早くに横手に仕上がる。吝嗇したまま俺の財布は開口せずうち靴を受け取り、付けで貰った厚底ブーツは広く光って恰好装い、誰に見せても底上げするまま独歩(ある)く姿勢(すがた)を報(おし)えず漏らさず自営を貪る内壁(かべ)を作って相対(あいたい)して行き、世間の視界を物ともせずまま俺の躰を乗せて運行(はこ)んだ。俺の躰は涼風知りつつ気色(かて)を貪り、白色(しろ)く輝(ひか)った陽光の下、傘を差しても効果を定めず抜きん出ており、俺の背丈は見る見る合間に十センチ程度(ほど)伸びて落ち着く。〝誰にも知り得ぬ…〟、ぽんと呟き貞操知るまま厚底履いては道中独歩(ある)いて夜空を見知り、朝日を眺めて昼へと着けば、少々傷んだ靴底等には誰にも知れ得る勲章(ねんき)が灯って折り合い等付き、俺の肢体(からだ)は衝動(くうき)を読みつつ影を嫌った。

 田舎へ赴き、既知の気色に見惚れて居たのは俺の分身(からだ)が田畑を越え行き商店街(まち)へと居着いた昼下がりであり、あれから此処まで随分経過を要して目立って来たな、と少々傾げて恥を忍んだが、父の家族は遠くへ居座り俺を待ち受け、車へ乗せ得た皆の動静(うごき)は俺を見るうち途端に散り行き要所を拵え場面を呈し、俺の到来(きちゃく)を具に待ち受けながらに表情(かお)を紅(あか)らめ、〝ティッシュ配り〟の兄さん・姉さん(かれら)にお辞儀をしたまま俺の肢体(からだ)は涼風(かぜ)に乗せられ自適に低徊したまま財布の中身を確認して行き、父の仮宅(かたく)へ赴いて居た。精魂燃やした心の灯篭(あかり)を瞬時に点した俺の視界(まなこ)は瞬時に見遣った家屋の配色(いろ)など具に捉えて確認始めて安堵を図り、している内に、何時(いつ)もの如くに多勢が集まり俺を囲んで居座る余地さえ失くした俺の思索(こころ)は両脚(あし)を伸ばした体(てい)にて多勢(ひと)を跨いで厚底(くつ)を脱ぎ去り居間へ上がって、上肢を低くしたまま寝床を探して多勢(ひと)の内へと埋没して行く。

 その内皆で外界(そと)へ出ようとざわざわざわつき騒いであって俺の心身(からだ)は衝動(くうき)を読み取り読書(ほん)を捨て行き玄関まで行き、皆がそろそろ外界(そと)へ出た後(あと)〝我も我も〟と少々慌てて出ようとした後(のち)、厚底(くつ)が無いのにはたと気を留め身辺(あたり)を見廻し時計を眺めて、溜まった発声(こえ)など自体へ止まらず外気に漏れ行き、身辺(まわり)に点じた従兄弟へ知れるが、従兄弟は従兄弟で俺と同じく困惑(こま)った表情(かお)して捜索して在り、何に困るのか尋ねた所、従兄弟の方でも何時(いつ)しか拵え在った厚底(くつ)が失(な)くなり俺と一緒に見付けようとも探し出そうとも躍起を呈して童(わらわ)で在る、との一報確かにくっきり表れていて、俺は表情(かお)を顰めて困惑してたがその内段々様相晴れ行き、俺と同じに確かに以前に作った経過が伝わり始めて俺の思索(こころ)は居間に居座り、従兄弟の背中を信頼して居た。柱に掛った旧い表情(かお)したぼんぼん時計は、俺と従兄弟の様子を刻んで解体して行き初動に遅れた俺の過去(きおく)に確かに仄(ほの)めく〝一場面(ひかり)〟を伝えて不動で在って、秒針(はり)が無いのに如何(どう)して経過を訓(おし)えて行くのだ、等と不問に在りつつそれでも〝厚底靴(じまえ)〟を捜した俺の姿勢(すがた)は従兄弟にとっても安堵を報せた。

 外界(そと)へ出よう、としたのは理由が在って、丁度去年の初秋(いま)頃仮宅(かたく)を少し離れた田畑の横手(よこ)にて、巡行呈したパレードがあるからであり、「山鉾巡行」のように派手ではないが此処の界隈では又それに代わった魅惑を呈して派手を着飾り信頼を寄せ、秋葉の衝動(くうき)を仄(ほ)んのり伝える橋渡(だし)の衝動(うごき)に準じて在りつつ未開を呈して、陽動蠢く〝未開の森〟まで群衆(ひと)を攫った軌跡(かこ)を訓(おし)えた。この頃この界隈へ住む猟師(りょうし)達でも秋葉の気色を拝もう等と、鉄砲担いで竿を担いで、網に採り行く事象(むれ)を観ようと無尽蔵成るまま青空(そら)を仰いで過去を拝して逆行(もど)って生(ゆ)くのだ。錚々たる人群(むれ)の行くまま衝動(かっき)の洩れ行く界隈ながらに、従兄弟の衝動(きはく)も相応成るまま前進して行く―。

 従兄弟は早速俺を他所目に時計を見遣って、自分の厚底(もの)を射止めた様子で俺へ見せると、それは先程まで、此処へ来るまで、俺の両脚(からだ)を確かに支えた厚底(くつ)でありつつ眩く成って、従兄弟(むれ)が全進(ゆ)くのにふらふら釣られて俺の配慮は脆(よわ)く輝(ひか)って活性して行き、従兄弟(おとこ)に渡した青い靴とは俺の物だが貸してやる、など奮起に気取って振舞い終えたがどうもしっくり来ないで衝動(くうき)は気儘に流行(なが)れ、釈然見ぬまま透明色した外気(くうき)の内へと投身し遣った。他の従兄弟(もの)達が一緒に連れ添い俺の目前(まえ)を独歩して行く姿勢(すがた)を見知ると、俺はどうも様子が可笑しく成り得て、思ってもない心労等にも進んで自活し阿り出すのを、俺は遠い以前(まえ)から知り終えて居て別段奇妙に採り得ぬ試算等さえ有して在ったが、行動する儘そうした未熟に自答して行き、自生(じせい)の想念等にも行き着く最中(さなか)に〝こうした問答等には己の自活は決って自活ではなく、自制に象(と)られた自然(じねん)に在るのだ…〟等々、文句を連ねて起想(おも)うのだから、心行くまま納得するには縁遠(きょり)を認(したた)め心身(からだ)が奮(ふる)え、我慢しながらそれでも決った〝定位置〟等に従兄弟(むれ)に押されて吸い付き行くのだ。故にこの瞬間(とき)、俺の脳裏(こころ)は従兄弟(むれ)を離れた遠地に在りつつ肢体(からだ)は成るまま界隈(ここ)で横たえ、厚底(だいじ)を貸すのは使命と成り得て姿勢(すがた)を形成(つく)り、俺の心身(からだ)は容易く這いつつ玄関を出た。初秋(あき)に迫った徒心(あだごころ)に在る。

 滔々流れる初秋の憂いに四苦八苦するまま白雲の頭上(うえ)まで自身(おのれ)を苛め得た〝初秋小巻(しょしゅうこまき)〟の成す所を幾分培い自身に埋めても、幾度か訊(たず)ねる内には他人の仕種へ独創(こごと)を連呼して行き、行くは折り重なった孤独の浄化を終ぞ計れぬ煩悶(なやみ)に遭うのだが、唐突に抜き出た他人(ひと)の所業に自分の領分(うち)を垣間見えられつつ、小言と孤独とを連呼され行き白日(いちにち)の驟雨に身の行く連鎖(うごき)を知り得ば、忽ち故習に見知った寂寥(こどく)の孟夏が自身へ降り立ち自信を失くした老爺が再び表情(かお)を覗かす旅愁(うれい)を知る為〝こりゃ堪らん〟と、俺の身上(からだ)は豪語したまま従兄弟の再来達へ不憫を遣(な)げつつ闊歩するのだ。白日とは又、何も写さぬ心象(こころ)の内味(うちみ)を事毎連呼し、自身(おのれ)の目下を奇麗さっぱり浄化(さら)って行きつつ孤独に降り得た俺の葦(ドグマ)を窘めても来て、一端(いっぱし)に咲き得る白日夢(いちにち)とも成り得る事から俺の頭脳(からだ)はしょ気返りながらも又孤独へ向かって独歩を決め込み、友人(とも)を欲して絵図へと仕上がり、明日(あす)への糧へと、自身(おのれ)を謙虚(ひく)く振舞い俺へ労い明日(あす)の行方を訓(おし)えて来る為、俺の用途は奇宿(きしゅく)に寄り添う迎火(あだび)と成るのだ。迎火(あだび)と化(か)わった俺の姿は他へ寄り添う独身(かたち)を呈(も)たずに意識の内にて頭髪(あたま)の先から爪(あし)の先まで一身染め上げられ得た景色と成り行き気色に在らず、他(ひと)の孤独はそれでも尚且つ俺の領分(むしろ)を狭めて縊(あしら)う。俺には他(ひと)が奇麗に見得つつ気色(いのち)を灯して、明日(あす)へと寄り添う一新され得た天外魔境(てんがいまきょう)の主(あるじ)と映(み)えた。

 従兄弟に在った次男坊が俺の背後へちょこちょこと、ぽつんと置かれて壁へ寄り添い、玄関口から出ようとして居た。俺は近付き、〝俺の靴が見当たらないけど、お前、俺の靴何処(どこ)かで見んかったかねや?〟と尋ねたのだが、陽光に照らされ白光を返して佇む白服(シャツ)姿の次男坊は〝知らんぞ、見とらん、〟と言った具合に俺を排して丈夫に成り出し、行進(まつり)を観る為奮(ふる)えて先立とうとして居た。この〝次男坊〟とは別段次男でも俺へ懐いた坊でもなくて、唯、俺より若輩でもあり、立場をひ弱と捉えた俺の思惑(いしき)が成させた呼称(よびな)であって、又別段、俺より立場が非力である事の確証など何処(どこ)にも無かった。唯、そうしたくてそう成しただけの意であり、少々ノスタルジーに構えた俺の煩悶(いしき)等にも影響(ちから)を引いた。それで尚且つ、俺より若輩(した)はこの〝次男坊(おとこ)〟の外(ほか)にも幾らでも在る。次第に歳月(つき)が要(い)って壮体(からだ)に向いた思惑(いしき)が俺を哀しめ始め、若体(じゃくたい)に歪んだ思惑(いしき)を見た為衝動(うごき)に乗じて先走ったまでだ。俺の独創(こごと)は悶着していた。次男坊は薄い微笑を以て俺に相対(あいたい)した後、煌びやかな白日の下(もと)へと跳び出して行き、丁度家屋の陰に隠れていた俺の躰は従兄弟を知らずに呆(ぼ)んやりして在り経過(うごき)に解け行き、俺の思惑(いしき)は一案(あかり)を灯した。結局そうして俺の厚底(くつ)は見付からずに俺の両脚(からだ)は打ち添えられ得た草履(サンダル)に身を任せる形成(かたち)に落ち着き、皆と一緒に行進(パレード)へと向かう一列(れつ)に加わり始めた。しかし〝この父方の田舎であるからこそ…!〟と息巻き、厚底履いて他(た)を寄せ付け得ぬ白刃の豪(ごう)を見せ遣る歪(まが)った独創(こごと)を脳裏へ落して身固めしていた俺の姿勢はそう易々周辺(あたり)の臭味(けはい)に敗けたくない、等息を返して問答する頃、丁度階下に這入り落ち着き、白い浴衣をひらりはらりと陽光へ晒した叔母が現れ、行進(パレード)へ赴く試算を講じて別の叔母や子供と談合(はな)して居たのに当の俺には露知らずであり、経過(けいか)を踏まえて自身を見遣れば俺は束の間懸けて家屋の二階へと身を遣り奔走して居り、二階に這入れる玄関が在るのを記憶を煎じて引き出し憶えて厚底靴を探したらしく、昼間を観ながら右往左往して行く自活を知り得た。白い叔母から「行くよー」との呼声(こえ)が掛って俺の活性(からだ)は尚焦り始めて問答、野太(のた)打ち、皆が行進(パレード)を観る界隈(ふもと)へ行くのに俺の肢体(からだ)はこの仮宅から結局出れずに無心へ着いた。



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~小春日和の俺の無心~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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