おっぱいがいっぱいコースでお願いします

惣山沙樹

おっぱいがいっぱいコースでお願いします

 肉欲を抑えられる人が羨ましい。僕には無理だ。肉欲? どういう意味だって? 考えてごらん二つあるだろう、僕の場合はどっちもだよ。

 そんな肉欲が同時に叶えられる店がある。完全会員制で一ヶ月前から予約をしないと入れない。僕はとある筋から情報を仕入れて会員になり、初めて訪れた。


「いらっしゃいませぇ〜!」


 迎えてくれたのはたわわに実ったお胸をぷるんぷるんと見せつけるビキニに腰エプロン姿の女性だった。腰エプロンには「あいり」という名札があった。

 席に通された。あいりに尋ねられた。


「コースはお決まりですかぁ〜?」

「おっぱいがいっぱいコースでお願いします!」


 僕は高らかに宣言した。


「かしこまりましたぁ〜!」


 あいりは一旦席を離れてから戻ってきて、ドンと七輪を置いた。

 おっぱいがいっぱいコース――それは、この店で頼める最高位のコースだ。塩タンから始まりロースやカルビやホルモンが堪能でき、酒は別注文である。

 他にもコースがある。はじめておっぱいコース、シンプルおっぱいコース、まんぞくおっぱいコース。僕はあえてはじめてを頼まなかったのだ。

 なぜなら、おっぱいはあればあるほどイイ、から。


「失礼いたしまぁ〜す!」


 あいりの他に、みか、えりなというおっぱいが座ってきた。皆、それぞれの大きさと形をしている。しかしお触りは厳禁である。目で愛でて、肉を食らう。それがこの店のやり方である。


「お飲み物はどうされますかぁ〜?」


 どれかのおっぱいに聞かれた。


「ウーロン茶で!」


 酔うわけにはいかない。僕はシラフでおっぱいを目に焼き付けたい。

 ああ、おっぱい、おっぱい、おっぱい。三種類のおっぱい。谷間にトングを差し込みたい。箸で乳首をつまみたい。そんな衝動を必死に抑える。


「お待たせいたしましたぁ〜」


 僕のウーロン茶と塩タンがきた。焼くのはおっぱいだ。二の腕に挟まれてきゅうきゅう、苦しそう。破裂しないでね。


「はい、焼けましたよ、あ〜ん」


 おっぱいに塩タンを食べさせてもらった。おっぱいの質も良ければ肉の質もいい。やはりこの店を選んで良かった。

 それから次々と肉がきて、焼いてもらっては食べ、焼いてもらっては食べ。

 作業をしていないおっぱいは、互いのおっぱいを触り合っている。ちょっとしたサービスだ。指が沈む様子を見て、僕のウインナーはむくむく大きくなった。


「デザートはいかがですかぁ〜? 杏仁豆腐とマンゴープリンがございますぅ〜!」


 せっかく来たのだ。僕は欲張る。


「どっちもください!」

「かしこまりましたぁ〜!」


 ぷるるん、ぷるるん、るんるんるん。白いものと黄色いものが揺れる。僕はそれをじっくりと舌で味わう。甘い。とてつもなく甘い。


「では、これにておっぱいがいっぱいコースは終了となりますぅ〜」


 三組のおっぱいが去ってしまった。残ったのは空の容器と未だにくすぶる炭の火だけだ。


「お会計九万五千三百円になりますぅ〜」

「カードで」


 僕の一ヶ月分の家賃とほぼ同額が吹っ飛んだ。


「それでは、またのお越しをお待ちしております〜」


 最後に見送ってくれたのはおそらくあいりだろう。あのおっぱいが一番綺麗だった。

 はぁ……終わってしまった。僕のおっぱいタイム。また頼みたい。おっぱいがいっぱいコース。明日からも就活頑張ろう。

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おっぱいがいっぱいコースでお願いします 惣山沙樹 @saki-souyama

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