第16話 現れるメインキャラ達
<シアン視点>
「ワタシの師匠になってくれませんか!」
金色がかった白いセミロングを揺らしながら、ティルがそう言ってくる。
同時に、俺はハッと思い出すことがあった。
(これ、主人公とティルが出会うイベントじゃねーか!)
ティルは田舎出身の少女で、試験枠の一人。
そして、もう一人の試験枠が──主人公だ。
主人公はここでティルと出会い、ルートが解放される。
助けてもらったティルは、同じ試験枠として主人公に勇気をもらう。
それから憧れを持ち、徐々に距離を縮め、意気投合し……となっていくのが、『ティルルート』である。
そのはずが、冷静さを失って俺が助けてしまった。
でも、仕方ないよなあ。
レニエが人を助ける良い子に育ったんだもん。
俺はあくまでレニエを助けただけに過ぎない。
と、そんな事情はいざ知らず、ティルは続けてたずねてくる。
「あの、ダメでしょうか?」
「うーん……」
でも待てよ。
ティルが俺の弟子となれば、敵対する可能性はぐっと減る。
すなわち、レニエと敵対する可能性が減るということだ。
お、これはいいんじゃないか。
「よし分かった。じゃあ今日から──」
「ちょっと待ちなさい!」
「え?」
だけど、了承しようとしたところで、隣から口を挟まれた。
レニエの声だ。
なぜかティルに対して目を細めている。
「レ、レニエ?」
「アンタはちょっと黙ってて」
何か言いたいことがあるらしい。
レニエは腕を組んだまま、ティルへ話しかけた。
「たまたま助けた形になったけど、こいつの弟子になって良いとまでは言ってないわ」
「え、でも……」
「こいつはこう見えて忙しいのよ」
レニエに丸め込まれそうになるティル。
だが、ただでは引き下がらなかった。
「どうしてあなたの許可がいるんでしょうか!」
「うっ」
「あなたは、お師匠のなんなんですか?」
「……っ! そ、それは、えと……!」
レニエの顔がボンッと沸騰し、真っ赤っかになる。
いや妹だろ。
普通に答えてよかったんじゃないか。
それとも何か他に考えてたのかな。
真っ赤の顔も愛しくて
「何もないなら、ご本人に許可をもらえれば良いと思うんです!」
「も、もう知らないっ!」
そうして、結局レニエがそっぽを向いた。
レニエは俺以外との口喧嘩が強くない。
原作と違ってすぐに顔を赤くするからな。
久しぶりにそんな一面が垣間見えて嬉しい。
「では改めて、よろしくお願いします! 師匠!」
「う、うん……良いんだよね、レニエ?」
「べ、別に好きにしたらっ!」
レニエがつーんとした理由は分からない。
でも、これも破滅フラグを折るためなんだ。
分かってくれとは言わないが、なんとか了承してくれて助かった。
「じゃあ、よろしくなティル」
「はい、師匠!」
「ふーんだ」
こうして、メインヒロインのティルが弟子になった。
★
「全員、席についてるかー」
入学式を終えて教室で待機していると、男の先生が入ってくる。
原作で見たことある先生は、早速自己紹介を始めた。
「俺が担任の~」
けど、先生はほとんど物語に関わってこない。
ぶっちゃけ聞き流していてもいい。
この貴重な時間はレニエを見つめる時間にさせてもらう。
「キモ」
「へへ」
でも、すぐに気づかれた。
なんてやり取りをしていると、先生が教室を見渡す。
「席は自由なので好きに座っていい──って、その辺はやけに近いな」
「……あはは」
先生が目を留めたのは、俺の周りだ。
教室全体の席は、かなり余裕を持って設けられている。
その中で、好きな席に選ぶのような感じだ。
前世で言う大学みたいな形だな。
入学早々ということもあって、ほとんどは一席空けたりしている。
でも、俺のところだけぎゅうぎゅう詰めだ。
「アンタ、兄から離れてもらえる?」
「嫌です!」
俺の両隣には、レニエとティルが座っている。
椅子もくっつけてきて、かなり近い。
あとは、後ろから覗き込むようにエレノラだ。
「両隣とられた……」
何やらブツブツ言いながら、ジト目を向けてくる。
なんでこうなったかは、俺が聞きたい。
ていうか、ティルってこんな子だっけ。
原作では周りを警戒する期間が長かったからか、序盤はもっとお堅いイメージだったけど。
「師匠の行動は、
すでにルートに入った時みたいな表情してる。
なんで。
加えて、離れた場所から男が睨んで来る。
「チッ!」
さっき、玄関で会った奴だ。
ゴレムという名前らしい。
「ふぅ」
でも、あいつだけは許しておけない。
目力でもう一度釘を刺しておく。
(次レニエの悪口言ったら覚悟しとけよ。お前を※※※して、そのまま※※※で※※※やるからな)
「ひぃっ……!」
すると、ゴレムはさっと前を向く。
よし、これでいいだろう。
そんなこんなしてる内に、先生が話を再開させた。
「ま、まあいいか。注意事項はここまでにして、早速授業に移るぞ」
「……!」
それを聞いて、ふと思い出す。
最初の授業ってたしか……。
「まずは、みんなの力試しだ」
やっぱり!
ただ、思い出したのはそれだけじゃない。
この後が重要なんだ。
「形式は一対一の模擬戦。ほとんどが初対面だろうから、俺がくじを引いて相手を決める。ただし──」
「「「?」」」
「やりたい相手がいる場合は、ここで挙手してもらって構わない」
そう、このイベントだ。
そして、予定調和のように一つ手が挙がる。
「はい!」
元気よく挙げられた手に、先生が指名する。
「やる気があっていいな、アルス」
「……ッ!」
名前を聞いて、俺はバッと振り返った。
手を挙げていたのは、一人の少年。
見た目は、地味な黒髪。
外見で目立つ所はなく、持ち物は平民らしさがある。
ただ、目に灯る闘志は本物だ。
間違いない。
彼は、原作主人公──アルスだ!
「それで、アルスは誰とやりたいんだ?」
「僕は強くなりたいんです。だから──」
アルスの目線が、チラリとこちらを向いた。
「シアン・フォード君とやらせてください!」
その瞬間、周りは一気にざわついた
「え、誰だって?」
「あのレニエ・フォードの兄だよ」
「うっそ、まじで」
「でも、兄はただの男爵家じゃない?」
「ていうか話も聞いたことないんだけど」
「朝、玄関で一件あったとか何とか……」
あまり聞こえないが、多分良いことは言われてなさそうだ。
けど、かく言う俺も少し動揺していた。
ここでアルスが手を挙げるのは同じ。
でも、セリフは「一番強い人とやらせてください!」のはずだ。
じゃあどうして──と思考を巡らせ、とある仮説が浮かぶ。
もしかして、玄関前の一件を見られていた?
原作では、アルスがティルを
ならば、同じく群衆にいるのが自然だ。
その上で、俺とレニエの方が早く前に出たということか。
「どうする、シアン・フォード。嫌なら断ってもいいぞ。それで成績を下げたりはしない」
「……」
先生にたずねられ、俺は少し考える。
主人公アルス。
悪役とは正反対の存在と言える。
メインヒロインのティルと並んで、いや一番の要注意人物だ。
だったら──
「いいよ、やろう」
「ほんと!」
「でも、そういうことなら……」
ここで二度と近寄れないぐらい、ボコせばいいんだ!
「本気でいくぞ」
「……!」
こうして、入学早々、俺と原作主人公アルスの模擬戦が決定した──。
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