ちゅ〜どく 〜優麗の正体見たり〜

@Mrkyu

第1話 全てはここから始まった…

始まりは中学3年の夏休みだった。


「なぁ!門吹山に肝試し行かないか⁈」

「…え?」

その時の友達に誘われた、

肝試しからだった。


「え?じゃなくってぇ!肝試しだよ!」

「何でそんなことしなきゃいけないんだよ…」

「ホラ、もう少しで受験だろ?

思い出づくりにさぁ〜」

「僕はいいよ…」


ニマァといやらしい笑みを浮かべた。

「怖いんだなぁ〜」

「そんな事ないよ!」

「どぉ〜だかねぇ〜」

「本当だもん‼︎」


「………」

そのままニタニタとこちらに視線を送る。

「……行ってやろうじゃねぇか‼︎」

「あざーす‼︎」



門吹山…

古来からあらゆる物が出ると噂の山だ。

小山のような怪物、

人を喰う蠍のお化け、

鼻がデカい謎の珍獣…


そして、何より恐ろしいのは

本物の幽霊が出るという事だ。


本当は怖くてたまらないが、

言ってしまったからにはしかなく、

男友達4人の肝試しに参加したのである。


悲しいかな、男4人で夜の山道を進んでいく。

「いやぁん、暗くてコワァイ」

「全く怖がりだなぁ」

「だって、だってぇ」

「ひっつくなよぉ〜」


イチャイチャして気を紛らわそうとしたが、

女の子がいない事を再認識して、

めちゃくちゃ虚しい。


そうこうしているとスタート地点のトンネル前に立っていた。


今回の肝試しはトンネルの抜け、

しばらく川沿いの道を進んで、

神社を参拝して戻ってくるという

単純なものだ。


「…で誰が行く?」

言われてみれば決めてなかった。


「ジャンケンしかないかなぁ…」

「じゃあ、最初は…」

「グー」「「「パー」」」

「……え゛‼︎」


「おたっしゃでぇ〜‼︎」

「着いたら電話してねぇ〜‼︎」

「お土産はいいからねぇ〜‼︎」

何でグーなんか出したんだ、僕のバカ‼︎


懐中電灯をしっかり握って進んでいく。

あの時勢いで行くなんて言わなきゃ良かった…


ゴソゴソ‼︎

草むらから音がした。

ガサガサガサガサ‼︎


何かいる!こっ…怖!


俯き加減に早足で進む。

サッサと此処から離れねば…


タッタッタッタッ…

ゴツ!


何かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい」


視線をあげると、

目の前には薄汚れた甲冑を身につけ、

所々に矢が刺さり、頭頂部を

剃り上げられた長髪の男が立っている。


どう見ても落武者の亡霊

としか言いようがなかったその男は

怒りに震える表情で腰の柄に手をかけた…


「ひぃやぁぁぁ‼︎‼︎」

あまりの恐ろしさに叫び声を上げる。

完全にパニックになった僕は

山道のガードレールを乗り越え、

物凄い勢いで坂を駆け降りた。


後から考えるとゾッとするが、

そのまま下を流れる川の方まで

逃げていってしまった。


「あぁぁぁぁぁ、うわぁ‼︎‼︎………」

川の流れに足を踏み入れた瞬間、

足を取られた。

マズイ、思ったより深い…


泳げない上に慌てていたせいで

水をガブ飲みしてしまった。

途轍もなく息苦しく、気が遠くなってきた。

視界が途切れる一瞬、本気で死を覚悟した。



…………

………

……


なんか…口元に柔らかいものが……

……‼︎


自分が何をされているのかわからなかったが、唇が離れてしばらくしてから

はっきりとわかった。

女の人が僕に人工呼吸をしてくれていたのだ…


顔が真っ赤にして動揺する僕に

その人は唇を離した。


ゆっくりと立ち上がり、

下流の方へと歩きだすの

を上体を起こして見守った。


すると彼女は振り返り、

優しい笑顔をソッとくれたのである。


まだ頭がボーっとしていたがそれだけは

しっかりと記憶に刻まれている。


妖精のようにフワリと下流へ

歩き出す姿にすっかり心奪われてしまった。

残された唇の感覚と相まって

甘い夢を見ているように感じられた。

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