2 二度目の国外追放





 青天の霹靂とは正にこの事か。


 どうしてこんな事に?

 いくら考えてもその答えは出ない。


 私は薬を作っていた、それだけだったのに。


「どうしてこうなった?」


 ぽつりと愚痴を溢してしまうのも、今この瞬間だけはどうか許して欲しい。


 二度目の国外追放とはある意味奇跡。

 一度ならず二度目の国外追放なんて普通に生きてりゃそんなこと、起りはしないはずなのに。


 それは私に起きた現実という名の不条理。

 この世界には魔力という不思議な力があって、魔法なんてモノも存在する。

 私自身は一度もそれを見たことがないし、ましてや使ったことなど一度もないけれど。


 そしてお隣の国の人々は幼い子どもでも、その魔法とやらを普通に使えたりするらしい。


 だけど大変残念な事に、私の住むこの国イクスには魔力を持った人間は基本的に存在しない。

 というか、このイクスという国は魔力をその身に持たない人間達が寄せ集まって出来た国だ。


 そして本日不幸にも、二度目の国外追放を言い渡されてしまった少々不幸な私は。

 元はその隣国アルスの、魔力を持つ人間達だけが集まった国の公爵令嬢というやんごとなき身分だったらしい。


 私の産まれた国アルスは魔力至上主義国家で、魔力量や魔法の技量でその人間の価値を計る。

 

 だが大変残念な事に、私にはその肝心な魔力が生まれつき全く無かった。

 魔力を持たない人間に存在価値なし生きる資格無しの烙印を押す国アルスで、私は魔力無し。

 

 ということで私の実の両親はそれはもう絶望し、この世の終わりかのように嘆いたらしい。


 せめて魔力鑑定さえ行っていなければ。


 この子魔法使わないな?

 と、内心は思っていたとしても。

 

 それを隠して幼少期だけでも手元で育てるらしいが、私は赤子の頃に魔力の鑑定をされてしまった。


 まさか魔力がそこらへんの貴族達よりずっと多いはずの、公爵家のご令嬢が魔力無しだなんて普通は誰も思わない。

 

 だから私の実の両親は大々的にパーティーまで開き、魔力の鑑定式を執り行ってしまった。

 それはきっと我が子可愛さだったり、泊をつける為だったんだろう。

 

 なのに肝心の私には魔力が無かった。


 そして公式的に鑑定してしまったから、それを隠すことも手元で育てることももう出来ない。

 だから産みのお母様である公爵夫人は、その場で人目も憚らず泣き崩れてしまったらしい。


 

 まあ流石に?

 魔力無しを殺したりまではしないらしいが、例外なく隣国イクスに国外追放処分するとかハッキリ言って糞みたいな法律である。



 でもそれが私の産まれた国アルスの法律で、まだ産まれて数ヶ月だった私も例外なくイクスに国外追放された。

 

 そして私が幼くして追放された隣国イクスは、アルスとは真逆で魔力を持たない者達の国だ。


 元々はアルスもイクスも同じ一つの国だったけれど、考え方の相違か色々と内乱があって二つの国にある時別れた。


 そして私はすくすくと成長しイクスで錬金術師となり、皆が認める錬金術師の中でも最高位の称号を与えられるような特別な存在となった。



 それから数年後。

 私は世界を恐慌に陥らせた死病の特効薬を開発したとして、一躍世界的有名人になってしまった。


 だから後はひっそりと過ごそう。

 ……そう思っていたのに。


 それなのに。

 薬を錬成していたら私の身体には無かったはずの魔力が、突然溢れだした。


 それはもう隠し通せないくらいに。

  

 そしてこの国イクスにも、魔力を規制し魔法を排除するこれまた糞みたいな法律が存在する。


 なので残念ながら。 

 私は人生で二度目の国外追放らしい。


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