前世敵だった今世婚約者に執着されています。(実は前世からでしただなんて知りませんわ!)
楠木千佳
01:シャンネリーゼと元勇者
顔立ちが恐ろしくそっくりだったのだ。いったいなんの因果だと。
そしてそれはまさしくとんでもない因果による邂逅だったのだけれど、それをシャンネリーゼが知るのはもっと先の話。
とにもかくにもその顔立ちがかつて敵対していた勇者と恐ろしくそっくりなレイリオという名の少年は、シャンネリーゼと視線が合うとにこりと笑った。ぞくりと背筋が震えたのは笑い方すらもそっくりだったからだ。任された戦場にしつこいくらい現れては作戦をことごとく阻止してくれやがったあの上っ面だけで本心が読めない薄気味悪い笑みを終始浮かべていた勇者に。
それから、とさらなる勇者の記憶を掘り返そうとしていたシャンネリーゼだったが、レイリオの次の一言ですべてが吹き飛んだ。
「しんえんのまじょ」
「そのこっぱずかしいよびなはやめろとなんどいわせるんですの!?」
今世では縁がない、二度と聞くはずのなかった「深淵の魔女」という呼称についつい反応してしまったのは前世でも事あるごとにそう返していたからだろう。
「シャンネリーゼ?」
「あっ、えっと……、そのぅ」
「ぼくがリーゼとよんでいいですかとしつこくきいてしまったからなんです。おどろかせてもうしわけありません」
シャンネリーゼの声に驚いた父親たちになんと言って誤魔化すか、詰まってしまった彼女をフォローしたのはレイリオだ。
先ほどの笑みなど見る影もなく、拒絶されてしょんぼりと肩を落とす様子に大人たちはおやおやと微笑ましい視線を向ける。
「シャンネリーゼもきっと恥ずかしかっただけですから、どうか許してやってはいただけませんか? な、シャンネリーゼ?」
「はっ、はい、そうなんですの! きゅうだったからおどろいてしまったのですわ!」
「おやおや、シャンネリーゼ嬢は恥ずかしがり屋さんなんだね」
ほら、向こうで遊んでおいでと背中を押される。
年相応に子供であれば手を繋いで駆け出していたかもしれないが、シャンネリーゼの精神年齢はとっくに大人で、おまけに相手は見た目だけでなく中身もおそらく元敵であった勇者本人。
大人たちの前で上手に被っていたレイリオの猫はシャンネリーゼ相手には遊びに出かけてしまうらしい。向けられた笑みの奥に幼子らしからぬ仄暗さが垣間見えて、シャンネリーゼは自分の身体をギュッと抱き締めた。
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