第11話

 それにいち早く気がついたのは、鼻をピクつかせたシェントルマだった。


 彼はさっきの陽気な態度から一変して険しい表情になり、その場で立ち止まった。それに合わせて、他の3人も警戒心を高める。


「そこの川に注意です」


 シェントルマは、林道の脇を流れている細い川を注意した。川は左右にあり、4人は視野を広げて、身構える。


 そしてシェントルマの予想通り、そいつらは川からものすごい勢いで飛び出してきた。


「ゲロォォ!」


 左右の川の中から、数匹のカエル型のモンスター・ゲゲガエルが跳びだしてくる。口から異音を発しながら、先頭にいたシェントルマ、トーマガイに襲い掛かる。


「【アイシクルスラッシュ】」


 シェントルマは、すぐに腰に収めた剣を抜く。刀身が長い片刃の剣で、薄い水色をした冷ややかな印象を受ける刀身だった。

 その剣は魔力により、徐々に冷気を帯び始める。

 そしてその剣を使って、3匹のゲゲガエルを斬りつける。効力が消える前に、流れるように3匹同時にスキルをヒットさせていく。


「っゲ……」


 カエルが痛みに反応し終える前に、カエルたちの体は一瞬で凍ってしまった。3つのカエル型の氷像が出来上がると、それらは地面へと落ちて行く。この際氷にひびが入ることはなく、凄まじい冷気で凍結させられたことが見て取れる。


 続いてはねんごろのトーマガイだ。

 彼の戦いはいたってシンプル。

 筋骨隆々のその身を使って、殴る、蹴る、ぶつかる、のが彼の数十年前から変わらない戦闘スタイルである。


「【ストロングナックル】!」


 トーマガイが装備しているガントレットに魔力が集中される。このスキルはただ対象を殴るだけの効果しかない。けれどその分、余計な効果がないので、威力や破壊力が純粋に強化される。


 まず、トーマガイの鉄拳が、跳んでくる1匹のゲゲガエルのぶよぶよとした頬に直撃する。カエルたちの川は分厚く、斬るにしても殴るにしても、それを突破して中にダメージを当てるのは一苦労だ。

 しかし、トーマガイの卓越した拳撃は、一瞬でゲゲガエルを気絶させて白目を剥かせる。

 次にトーマガイは、その白目を剥いたゲゲガエルを拳に乗せながら、そのままの勢いで、2匹目、3匹目を殴っていく。

 串に刺された団子のように並んだ3匹のカエルは、仲良く気絶して、遠くへと殴り飛ばされていく。そして、近くにあった樹木にぶつかると、嫌な音をたてながらつぶれていった。


「へぇ~、やるじゃん2人とも。反射神経いいねぇ~」


 ゼマは2人の迅速かつ強力な動きを見て、素直に感心していた。特に彼女はトーマガイの動きに注目していた。彼はもうすぐ還暦を迎える。風貌も年齢に合わせていい歳の取り方をしているが、動きに関しては20歳前後のシェントルマよりも素早く洗練されていた。

 歳をとれば体も言うことを効かなくなりがちだが、冒険者活動が長ければ長いほど、それだけモンスターを倒し、経験値を得ているということである。それは=レベルアップを繰り返しているということでもある。


「これぐらいはやらないとな、若い者についていけないからな。……ふぅ、しかしこれは骨が折れそうだぞ」


 彼はさっきの戦闘で使用した右肩を回してゴキゴキと音を鳴らす。トーマガイは察知していた、川の中にまだまだ敵が潜んでいることを。


 緩やかに流れる川の中から、今度は大量にゲゲガエルが跳んでくる。が、今回は冒険者たちに襲い掛かってきたわけではなかった。彼らが歩く整備された林道を防ぐように、彼らの前に立ちふさがった。

 林道の端から端までゲゲガエルが並ぶと、今度はその上に他のカエルたちが乗っかっていく。トランプでタワーを作るかのように、綺麗な三角形で上へと並んでいく。


「きも。妙に連携が取れていることが腹がたつ」


 ゼマは異様なほど見事な塔を作ったゲゲガエルを見て、舌打ちをした。全員無表情で頬を膨らませたりしながらこちらを見ていることが、余計にイラつかせる。


 ゲゲガエルの壁により通せんぼを喰らったわけだが、それはそこまで問題ではなかった。彼らの目的はこのゲゲガエルの狩猟なので先に進む必要はないし、先に行きたければ皮を飛び越えて橋の中を突っ切ればいいだけである。


 ゲゲガエルたちが自分たちを使って壁を作った理由は、これが戦闘フォーメーションだからである。


『ゲゲッゲゲッゲッゲゲゲ』


 大量のゲゲガエルたちは、同時に喉を鳴らして奇怪な音色を奏でる。そして一斉に口を開くと、そこからスキルを発動する。


【ウォーターブレス】詳細

 効果……口から水を発射する。威力は肺活量によって変動する。


 その場にいる全てのゲゲガエルの口から、魔力で生成された水が放出される。1つずつの量は大したことはないが、全てが合わされば、4人を飲み込むような波となる。


「っうわ、来たな」


 ゼマは顔を顰めながら、後ろへと逃げようとした。シェントルマ、トーマガイも同様だった。


 しかし、ララクだけは、真っ向からこの水系統のスキル攻撃に迎え撃とうとしていた。


「【ダメージサンダー】!」


 ララクは右手を振り上げると、そこからバチバチと音を鳴らす電流が流れ始める。それはカエルたちを全てのみ込むほどの大きさへと膨れ上がり、ララクが手を振り下げると同時に、前方へと進んでいく。


 広範囲の【ダメージサンダー】は、集合攻撃となった【ウォーターブレス】に直撃する。すると、凄まじい音とともに放電し始め、【ウォーターブレス】を一瞬で蒸発させてしまう。

 これだけでスキルの効果は終了することはなかった。

 そのまま、立ちふさがるカエルの壁に向かって、稲妻のように光り輝く電気の束がヒットする。


『『ゲゲゲゲゲゲッゲ』』


 けたたましい音をたてながら、ゲゲガエルたちは叫びをあげる。柔らかい皮を乗り越えて雷は肉体へと入り込む。そして内側から、カエルたちを熱していく。

 一瞬で丸焦げになり、生命維持が出来なくなったカエルたちは、バタバタと倒れていく。林道は、焦げた死体で覆いつくされていった。


「っあ、これだと焦げすぎて食べれませんかね。あー、勿体ないことしちゃったな」


 完全にオーバーキル状態の死骸を見て、ララクはすぐに反省した。クエスト内容的には木っ端微塵でも問題ないのだが、この後行われる祝杯の大事な食材をダメにしてしまったことになる。


「ほんとだよ。次からは気をつけなよ」


 ゼマはさほど起こった様子はみせず、こうなることを予期していたかのようだった。


 しかし、他の2人は違った。彼らは一瞬にしてカエル軍団を再起不能にしてしまったララクの力が信じられない様子だった。

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