第10話

 クエスト「カエル掃討作戦」が開始されると、彼らは3つのチームに分かれた。


 チームA クインクウィ、ナゲキス、アシトン


 チームB ララク、ゼマ、トーマガイ、シェントルマ


 チームCは光焔万丈の、ゲッキ、シヲヌ、リマンロがそのまま担当している。


 ララクは、ゼマと2人で大丈夫だと言ったのだが、周りはまだララクの力を信用しきっていないようで、チームメンバーが均等になるように分かれたのだ。


 そして、そのチームBの4人は、村の北西にある池を目指して、林道を歩いていた。


 林道は静寂に包まれ、高い木々が道を覆い、太陽の光が緑の葉っぱを透かして差し込んでいた。足元には落ち葉のひんやりとした感触があり、風がそよそよと吹き抜けていく。

 道は曲がりくねり、時折、小川がそのそばを流れていた。林の奥からは野生の鳥たちのさえずりが聞こえ、自然の中で時間がゆったりと流れているようだった。


 静かな時の中を歩み進んでいると、チームBに振り分けられたシェントルマが話し始める。彼は、ハンドレッドのメンバー ゼマに興味津々だった。


「ゼマさん、でしたよね。見たところ、戦士? ですか?」


 青髪をした犬人・氷刃のシェントルマは、へそを出して動きやすそうな格好をしているゼマの役職を勝手にそう予想していた。


「ん? まぁそうだけど、本職はヒーラーかな。このパーティーも、ヒーラー募集で加入したし」


 ゼマは自分が戦闘系の役職に見られていることを嫌がるどころか少しうれしそうにしていた。


「ヒーラーですか! それは貴重ですね。あの、趣味とかって、ありますか?」


 ぐいぐい質問しだすシェントルマ。さすがにゼマは、その態度に違和感を覚え始める。


「なにあんた、私のことそんな知りたいの??」


「ゼマさん、シェントルマさんは婚活中なんです、常に。だからこれが平常運転です」


 普通なら同じパーティーメンバーのねんごろのトーマガイがフォローするところだが、今回はシェントルマの事を知っているララクが補足した。


「すいません、つい癖で。次いつ会えるか分からないので、出会いは大事にしたいんです」


 犬耳をまっすぐ伸ばして頬を緩ませるシェントルマ。その好意的な態度は、人懐っこい愛玩犬のようだった。


「へ~、婚活ね。でも悪いけど、今は恋愛より冒険なんだよね。けどまぁ、私の旦那候補に入れといてあげてもいいよ」


 ゼマは特に、今までその候補とやらを考えたことはなかったが、シェントルマの好意を無下にしないためにそう言ったのだ。


「ほんとですか!? いや~、嬉しいなぁ。今日は良い日だっ!」


 シェントルマは、両腕を大きく広げて、自然の空気を吸い込んでいく。清々しい顔をしている。

 彼の嫁条件は色々とあるが、理想は一緒に冒険をしてくれる人なのである。だから、戦闘も出来て回復も出来るゼマは適任と言える。

 冒険者は長旅をすることも多いので、伴侶と過ごせる時間が短くなりやすい。なので、同じ冒険者同士で結婚してパーティーを組むのも珍しい話ではない。


「っあ、思い出しました。えーと、【ポケットゲート】」


 ララクは、シェントルマの婚活話を聞いて、彼と交わした昔の約束を思い出した。それを果たすために、彼はスキルを発動する。



【ポケットゲート】詳細

 効果……異空間を作り出し、そこに物を収容可能。


 彼がスキルを発動すると、近くに紫黒の渦のようなものが出現する。ララクはそこへ腕を突っ込んで、中から目当ての物を取り出す。その後、【ポケットゲート】は消えていった。


 急に現れたそれに、シェントルマとトーマガイは驚いていた。

【ポケットゲート】は便利なスキルだが、比較的珍しい部類のスキルだからである。


「いいスキルを獲得したんだな」


 ねんごろのトーマガイが、利便性の高いスキルを持っていることを褒めだした。トーマガイは褒め癖があるのだ。


「えぇ、おかげさまで。

 っあ、これ。今まで出会った人の中で、料理が出来て、戦闘力も申し分ない人たちです」


 彼が取り出したのは、数人の女性の名前が書かれたメモ用紙だった。全員冒険者なようで、2つ名と拠点場所が書かれていた。

 個人情報漏洩に気を遣ったのか、詳細な情報はそこまで書かれていない。


「っえ、ほんと? うわ~、ありがとう! 

 でも、なんでこれを? 今、書いたの?」


 咄嗟に喜んで受け取ったが、何故彼がこのようなことをしたのか、シェントルマは理解できていなかった。


「前約束したじゃないですか。良い人がいたら、紹介してくれ、って。なので、条件に当てはまる人がいたらメモしておいたんです」


 それはララクが風心雷心を追放されたときに、さらっとシェントルマと交わした約束だった。彼はそれをしっかりと遂行していたのだ。


「はは、律儀な男だ。素晴らしいと思うぞ、ララク」


 褒めちぎるトーマガイ。彼の褒め言葉は、常人の挨拶程度なので、真に受けすぎるのは注意である。


「あー、なんか思い出したかもっ! 

 っお、首都で活動している人もいるじゃん。

 ん? この土蹴りのリマンロ、って確か~」


 メモに書かれていたその名前を、彼はついさっき聞いたような気がした。


「ボクもびっくりしました。まさか、リマンロさんたちもやってくるなんて」


 土蹴りのリマンロとは、ゲッキ率いる光焔万丈のメンバーの1人である。彼女は自己紹介の時に、料理が得意だと自分から言っていた。


「あー、あの人かっ! へ~、あとで話してみるよっ!」


 シェントルマはしっかりとリマンロの自己紹介を聞いてはいたのだが、なにせリーダーであるゲッキの高いテンションで印象が薄れてしまっていた。


「……ふ~ん」


 シェントルマとララクのやり取りを見て、ゼマは口をぷっくりとさせて、機嫌を損ねた顔をしていた。

 自分に対してだけ向けられた行為だと思ったので、ララクの言う通りシェントルマの態度が平常運転だったことが面白くないようだ。


 今回のクエストとは全く関係のないやりとりをしていると、目的の奴らがあちらから顔を出していた。

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