百合箱
ななみん。
愛華
成績はまあまあ普通。だけど人一倍頑張ってる。
運動は得意で陸上部のエース。だけど練習するのは苦手。
好きな食べ物はカレーライス。だけど人参は全部残す。
好きな数字は特になし。だけど八ばっかり選びがち。
語り出せばきりがない。
クラスで一番遠くの席。だけど一番の親友。
私は愛華のことが好きだ。
「おはよう
朝、いつもの待ち合わせ場所に到着した愛華は元気よく手を振っている。
艶のある、生まれつきだという赤茶色の長い髪が寒風に揺れる。
身長は私より少し低くて、それが可愛らしさを増幅しているのだと最近気が付いた。
透き通る茶色の瞳は使い捨てのコンタクトレンズに覆われている。
ハードレンズが怖いから、というのがいかにも愛華らしくて好きだ。
今日も可愛いな。
日が経つにつれて、抱きしめたくなる衝動を抑えきれなくなっている。
その笑顔を何度独り占めしたいと思っただろう。
私は用意しておいたものをポケットから取り出した。
「おはよ。カイロあるんだけど使う?」
「いいの? 樹理ありがとー、大好き!」
受け取った愛華と視線が合ったまま微笑みあう。
でも、その大好きは親友としてだよね。
なんで、私達は同性同士なんだろう。
どうして、女の子同士は奇異の目で見られるんだろう。
男女とか関係なく人を好きになる気持ちなんて変わるはずがないのに。
おかしくない?
それともおかしいのは、私だけ?
「ほらほら樹理、わたしの手あったかいでしょー?」
無邪気に私の手を掴む愛華の姿を見ながら、今日もそんなことばかり考えていた。
授業終わりの昼休みの時間。
いつだって私は愛華の側にいる。
愛華は愛華で友達が多いはずなのに、根暗でぼっちな私の側にいつもいる。
もしかして、これってさ。
これってもしかして?
なんて変に期待をして、鼓動とともに飛び出してしまいそうになる言葉を今日も飲みこんだ。
下校時はこれまでと打って変わって無言の時間。
お互いにイヤホンをして好きな曲を聴きながら帰るのが決まり。
そうしているうちにいよいよ愛華の家に着いてしまう。
ああ、今日もこのまま愛華と別れてしまうんだ。
それを思えば思うほどドキドキする。
汗ばんだ手のひらを握り締める。
その場で立ち止まり、ごくりと唾を飲み込むと大きく息を吸った。
「私は友達以上に、一人の女の子として愛華のことが誰よりも好きっ!」
ワイヤレスイヤホンをしている愛華の後ろ姿に告げる。
ついに言葉にしてしまったけど、どうせ聞こえてなんかない。
それでも、今日は年に一度のクリスマスだから思いっきり言ってやった。
振り返らないことなんてわかってるのに馬鹿みたい。
これで断ち切れるほどの想いならどれほどよかっただろう。
今だけは泣くな。
こらえていたはずなのに、唇がわなわなと震えて目頭が熱くなっていく。
「ねえ……それって本当?」
なのに突然、愛華が振り返り私を見た。
「は、え、ど、どうしてっ……!?」
「えーっと、充電今日ずっと切れててさぁ」
「もしかして全部聞こえてた……?」
「うん、まあ……」
愛華は気まずそうにしていて、私の視線は思わず地面に向かう。
それからは沈黙の時間が過ぎていった。
ああ、もうだめだ。
これですべて終わってしまうんだろう。
噂話はあっという間に広がって、学校にももういられなくなるかもしれない。
ひたすらにぐるぐると考えていると愛華が突然抱きついてきた。
「え、なになに?」
「よかった。わたしだけじゃなかったんだ!」
「それってどういう……?」
「ほーんと鈍いなあ樹理はぁ! わたし達、相思相愛ってことだよ?」
呆気に取られていると私の頬に柔らかいものが優しく触れた。
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