スター

かながた

第1話 刑事の独白

 刑事というのは、因果な商売。手がける事件に楽しいものはない。

 警察に奉職して、かれこれ四十年は経つ。そもそも警察に入ろうと思ったのも、何も高尚な考えがあってではない。ただ単に、父がそうであり、兄がそうであったから、成り行きで入ったまでで、刑事になったことも成り行きであり、定年退職の三月まであと僅かと迫った曇天の年の瀬に、自宅の書斎のソファで一人、こうして過ごしていることもまた成り行きである。


 思い起こせば、様々な事件を担当し、様々な事態にも遭遇した。当然ながら、面白い記憶というものではない。ただ、そこに関わる犯人の中には、人として魅力を感じた者もいた。もちろん、犯した罪は憎むものではあるが。

同時に、いつまでも不可解な犯人もいる。

特にあの少女は。事件当時、十一歳で捕まえたあの少女は。


飲みかけのコーヒーカップから、ふと書棚に目をやる。ここには多くの事件が並んでいる。捜査で使用した捜査ノートが、びっしりと並べられている。この一つ一つに事件があり、被害者がおり、犯人がいた。

「確かあれは」

おもむろに立ち上がり、書棚からあの事件の捜査ノートを取り出す。あの少女の事件のだ。

「この事件は、そうそう、十一歳の少女が六歳の弟を殺した事件だったな」

捜査ノートを開くと、干からびた空気と埃を顔に浴びる。

「そんなに古い事件ではないのだが」

捜査ノートを読み始める。強く滲んだインクに、当時の感情が思い起こされる。


 捜査ノートを読み始める。気付けば、窓の外には雪がちらつき始めている。

 記憶が、雲のように湧き上がってくる。あの暗く灰色な取調室の中で、少女が語った独白の記憶が。

感情が降り積もってくる。それを聞いた時の、不可解な感情が。溶けることのない、重く降り積もるこの感情が。

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