第3話 蹂躙

「何者だ、貴様は!!」

「いつからそこにいた!!」

「魔族か!!」


 フィーネス姫が率いる騎士隊は、音もなく現れた青年に警戒し、両手に構えた鋼鉄の槍をしっかりと握りしめて構えるが、彼は動じることなく歩み寄り始めた。


「一人を除いた全員は揃っているな……様の予言通りだよ」


 ボソリと何かを呟きながら、彼は一同が佇む位置から数メートルのところで立ち止まり、あることを懇願する。


「単刀直入に言います。アマルティア王国軍と勇者の皆さんは、今すぐ武器を捨てて投降してください」

『!?』


 謎の青年が突然、王国軍と勇者班に降伏を持ちかけてきた。たった一人で降伏を持ちかけてきた青年に、ほとんどの人間は訳が分からず唖然とする。


「な、何を言って……」

「すみませんが、今は時間がありません。理由ワケは後で説明しますので」


 フィーネス姫は意味が分からずに問いかけようとするが、青年は一点張りで投降を勧めていると、


「いきなり何、わけのわからないこと抜かしてんだよ?」

「誰がテメーみたいな怪しい奴の指図なんか受けるかよ」


 青年の持ちかけを拒否するかのように、自信満々で現れたのは、大柄な体躯をした勇者班の男子・『亀田鉄夫』と、両手に手甲を装備したオールバックの男子・『川島充』だった。


 亀田は全身を超硬物質に変化させるスキル『超硬質化コーティング・アダマンタイト』を持ち、川島は一度に三度の衝撃を与えるスキル『三衝連撃トリプレット・ショック』という、戦闘に特化したスキルを有している。


 この二人は元々、高田修一というクラスメイトの手下だったが、彼がとある罪で幽閉されてからは立場を失い、大人しくしていた。だが、謎の青年に白状させるという名目で、今までの溜まった鬱憤を晴らそうとしているのかもしれないと、大智は思った。


「姫様、この怪しい奴を倒しても宜しいですか?」

「サクッと倒して、村人と魔族達が何処に居るか力ずくで吐かせますよ~」

「………解りました。なるべく死なない程度に痛めつけて下さい」

「「了解~♡」」


 姫の許可が許された亀田と川島の二人は、満面の笑みで青年に向かって歩いて目の前に立つと、恐喝するかのように謎の青年を威嚇し始める。


「おいテメー、魔族と村人を何処に隠したか教えろ」

「さもないと痛い目に合わせ……」

『ボゴッ!!』

「グエッ!?」

「ブホッ!?」


 問いただそうとした途端、青年の右腕と左腕が亀田と川島のみぞおちに鈍い音が出る程の威力で同時に炸裂する。二人はスキルを発動する間もなく意識を消失し、地面に倒れ伏した。


 修一・大智に次ぐかなりの実力を有した二人が、一撃でやられてしまうのはいくら何でもおかしいと大智は疑問を抱く。


「悪いけど本当に時間が無いんだ……降伏する気が無いなら、仕方がない」


 青年はそう言うと両目を閉じて数秒後………異変が起きた。


………カッ!!

『!?』


 青年の目が開眼したと同時に、体から青色の眩い光が発生する。余りにも強い光で大智達は咄嗟に腕で目を覆って光を遮る。やがて光が治まり、大智はゆっくり目を開けると……………



























 青年が自分達と同じ人間の姿ではなく、青の体色・白く光る両目・頭に二本の触覚らしき角を持った、特撮ヒーローものの風貌の怪人に変貌していた。



「………な、そ…その姿は!?」

ボゴッ!

「ガハッ!?」


 フィーネス姫が彼の変身した姿を問おうとした途端、青年は音を発さず接近し、左腕で彼女の腹部に衝撃を与えて意識を失わせた。


「ひ、姫様!?」

「貴様!! よくも姫様を!!」

『キッ!』

『!?』


 騎士隊は意識を失ったフィーネス姫を助けようと剣・槍などの武器を構えたその刹那、青年から謎の波動が発せられ、それを喰らった騎士隊は亀田と川島と同様に意識を失い、地面に倒れ伏した。


『シュンッ!』

「えっ?」

『ドスッ!』

「グァッハ!?」


 今度は勇者班の一人『金田一雄』の目の前に一瞬で近づき、右腕で彼の胴体を貫いた。


『グシャッ!』

「ア……アウ……」


 金田から右腕を引き抜くと、そこには七色に輝く光玉が握られており、彼はその光玉を右手に渾身の力を込めて握り潰した。その同時に、金田は低い声で唸った後、地面に倒れ伏した。


『バッ!』

「「「っ!? うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

「「「っ!? きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」


 怪人態の青年は途轍もない速度で残りの勇者班を一人ずつ襲い始める。


「や、野郎…グヘッ!!」 

「く、来る…ナガッ!!」

「全員逃…ゲッ!!」

「い、嫌!! 来ない…でっ!!」

「き、貴様…グハッ!!」


 勇者班は必死に武器や魔法などで抵抗するが、彼には全く手も足も出せず、彼等は次々と体から光玉を抜き取られていった。


(な、何これ…この展開は一体!?)

「おい!! 何ぼーっと突っ立っている大智!! 早く俺達を強化させ…」

『ドスッ!』

「がっ!!」


 一体何が起きているのか訳が分からない恐怖に大智は立ち竦み、一人の勇者班が大智に自分達を強化するよう呼び掛けようとするが、その前に光玉を抜き取られた。


 仲間が怪人形態の青年により、次々と蹂躙されていくのを何も出来ずに眺めている内、気付いた時には仲間全員が地面に倒れ伏しており、残ったのは大智だけだった。


「………」

「あ、あ…」

全ての種を統率する者パーフェクト・グランドマスター、発動』

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「っ!!」


 青年は残った大智に徐々に接近してくると知った大智は、自身のスキルで能力値ステータスを最大レベルまで強化し、青年の胴体に攻撃力最大値のパンチを炸裂させた。




 だが…………




「………」

「……う、嘘…だろ?」


 大智の放った、周囲の建築物と木々が崩れる程の衝撃波と鼓膜が破れる程の轟音が響く威力のパンチを真正面に受けても、怪人形態の青年は何事も無かったかのように仁王立ちしていた。


『ドスッ!』

「がっ!!」


 自身の攻撃が効かない事に呆気に取られている隙に、光玉を抜き取られ、握り潰された。


「ち、畜生……」


 大智は仲間達を守れなかった自分に嘆きながら、地面に倒れ伏した。


 この日、アマルティア王国軍の姫騎士隊と二年A組の勇者班は、魔族軍の残党討伐する筈が、謎の男の手により、殲滅された。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






「………」


 静寂と化した集落で、青年は元の姿に戻り、意識を失った大智達2年A組の勇者班・フィーネス姫・騎士隊を行動出来ないよう、一人ずつ手足をロープで黙々と縛りつけていた。


『無事に任務を達成したようね』


 すると、女性らしき声を耳にした方向に振り向くと、画面に青髪と黄色の瞳の美女が映った小型機器がフワフワと宙に浮遊していた。


 その機器は、地球で人々が最も使用されている端末機器デバイス『スマートフォン』に酷似していた。


『つい先ほど応援を呼んだわ、到着するまで少し休んだら?』

「……有難う御座います」

 

 青年は全員の手足を縛り終えると、宙に浮かぶ端末デバイスの美女に感謝の言葉を送り、あることを質問する。


「コレで、【広樹大智】さんという方は、救われたのですか?」


『ええ、あなたがに介入したおかげで、がクラスメイト達やアマルティア王国に復讐する理由キッカケが無くなったわ……』


「そうですか、良かった……」


 青年は端末デバイスの女性からの返答を聞いて安堵していると……


『ビー! ビー! ビー!』

「!!」


端末デバイスが突然、危険信号らしきアラームを鳴り響く。


『レーダーに数十体の高速接近反応……不味いわ、【】が異変に気付いて、多数の■・■・■を引き連れて急接近して来てるわ!! 直ぐに此処から離れないと!!』


 端末デバイスの女性は青年に此処から離れるよう指示するが、彼は意識を失った者達を見て、こう言い放った。


「……この人達を置いていく訳にはいきません。応援が到着する迄、俺が【】を食い止めに行きます」

『!? 無茶だわっ!! あなたはこのところ戦い続きじゃない!! これ以上やったらあなたの肉体が持たないわ!!』

「俺じゃないと【】に勝つことは不可能です。応援の方々が加勢してくれても、数人が犠牲になる可能性があります。酷いことを言いますが、足手まといです」

「…………解ったわ、応援がきたら撤退するよう連絡するから、くれぐれも無茶しないようにね」

「解りました」


 青年の説得により、端末デバイスの女性は何も言い返せずに渋々了承してくれた。

すると青年は再びあの形態に変身し、 【】を迎撃しに向かっていった。


『これ以上は無理をしないでほしい。だって貴方は……私たちにとって、最後の希望だから』


端末デバイスの女性は彼が自身の視覚から消えるまで、何時までも眺め続けた。






































 これは、『広樹大智』がある理由キッカケで魔族軍と協力し、クラスメイトとアマルティア王国に復讐し、世界を救う物語…………ではない。


 これは、、彼の叛逆の物語である。




【プログラマン 第0章 クラス転移編 完】

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