最凶災厄の悪役令嬢の下僕になった私、現実とラノベが融合した世界で無双する。
セクシー・サキュバス
1
「ふーん、『ヒルダ』ねぇ……ふむふむ」
放課後の教室。
私、中部十花(ちゅうぶとうか)は悪友に自著をよんでもらっていた。
「十花って、この『ヒルダ』ってキャラがすきなんだねぇ」
「ど、どういうことだし?」
動揺しながらも、悪友・暑湖露(あつこつゆ)にきいてみる。
露は思案するように、あごをさわったあと。
「うーん、なんていうか」と自著を指さす。
「ヒルダの恋人役ってなんだか、十花っぽいじゃん」
ギクッ――自分の顔が青くそまるのをかんじる。
「それに、女子にデレてるところなんか、そのまんま十花じゃん」
ギクッ、ギクッ――図星すぎて、心臓がバクバク音をたてる。
やばい、すべて見ぬかれている……。
たしかにヒルダの恋人役のモデルは私だし、私は女子をまえにするとデレてしまう。
「あらら、図星?」
露は勝ちほこったように、ニヤけた。
それを見ていると、羞恥心と憤怒が頭にのぼってきて……。
「用事をおもいだしたしッ!」
私はにげるように、教室からとびだした。
いま鏡を見れば、まっ赤になった自分の顔をおがめるかもしれない。
◇
私は世にいうライトノベル作家だった。
去年から○○文庫で『最凶災厄の悪役令嬢の恋人になった件』――略して『災恋』を連載している。
乙女ゲームに転生した女子高生が、最強最悪ならぬ最凶災厄の悪役令嬢『ヒルデガルド・ロートケップヒェン』――通称『ヒルダ』と恋愛する異世界百合ものである。
ヒルダには私の夢と希望(欲望)がこれでもかってぐらい、つめこまれている。
――クールでドSな性格。
――一八〇センチの長身に、おおきな胸。
――そして、ときどき見せるデレ顔。
くぅーッ、最高だしッ! そんな美女と異世界で恋愛してみてぇーッ!
ヒルダは、そんな私の煩悩を体現したキャラクターだった。
◇
摩天楼がたちならぶオフィス街をとおる。ビルについている大型ビジョンには化粧品の宣伝がながれていた。
「あーもう、明日から絶対いじられるし……」
私は横断歩道をあるきながら、愚痴をこぼす。
露の阿呆面が頭をよぎった。
あの野郎。うわべ面は男性アイドルみたいなクールビズなのに、内面はバカみたいなお調子者。
「あいつによわみをにぎられたのは、失策だったし……」
横断歩道をわたりおえたところで、ブチッとおおきな音がきこえた。
見れば、大型ビジョンの画面がまっ黒になっていたのだ。
なんだ……故障か?
つぎの瞬間――画面がきりかわった。
『諸君――』
私は自分の目をうたがった。
なにせ、そこにうつっていたのが……。
『我が名は魔王エゼルウルフ・ハイドラである』
――私の作品の敵役エゼルウルフ・ハイドラだったからだ。
魔族をひきいている王で、世界征服をねらっている……という設定のキャラクター。
口ひげとふとい眉毛が特徴的な初老の男。軍服のような衣装のうえからマントをはおっている。
画面にうつっている彼は、私の想像や本についた挿絵とまったくおなじ姿だった。
『ながきにわたる雪辱をたえしのび、ようやく時がみちた』
魔王はマントをなびかせて、どうどうと宣言をする。
『ふたたび大戦をはじめようぞッ!』
周囲の人間がざわめきはじめる。
「なんだ、あのおっさん?」
「なんかのイベント?」
いや、こんなイベントやるなんて一言もきいていない。
もしかして、担当さんから私へのサプライズ?
できれば事前に連絡がほしかったな。
「グォォォ!!」
へっ――空をあおぐと、鳥の形をした影がとんでいるのが目にはいった。その数は、百羽以上。
あれはッ……ドラゴンッ!?
赤い鱗と巨大な羽をもつドラゴンたちが地上におりたち、あばれはじめた。
「グォオオオ!!」
まわりの建物を破壊し、口からはく炎で人間をもやす。
「うわぁぁああッ!」
人々は悲鳴をあげて、にげはじめる。
「ちょ、なんだし、これ?」
イベント……夢……幻覚……?
そのどれにしたって、リアリティがつよすぎる。
すくなくとも、担当さんからのサプライズでないことはたしかだ。
「というか、私もにげなきゃ……」
そう、踵をかえしたときだった。
グォォォッ!!
ドラゴンの一匹が私にむかってとんできたのだ。
うっ……!
スピードがはやく、もう目と鼻の先だ。
死を覚悟して、目をつむる。
――しかし、いつまでたっても衝撃はこなかった。
おそるおそる目をあけると、そこには、まっぷたつになったドラゴンと……。
「乙女たるもの、なに弱気になっているので?」
……金色の長髪をたらす女がたっていた。
たかい身長に、体にまとう軍服をもした赤いドレス。
つり目の瞳は、炯々と真紅にひかりかがやいている。
この人は……「ヒルダ?」
「あら、あたくしをよびすてにするなんて……」
ヒルダがあやしく笑顔をうかべ、こちらへふりかえる。
「おしおきが必要ですわね」
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