最凶災厄の悪役令嬢の下僕になった私、現実とラノベが融合した世界で無双する。

セクシー・サキュバス

1

「ふーん、『ヒルダ』ねぇ……ふむふむ」


 放課後の教室。

 私、中部十花(ちゅうぶとうか)は悪友に自著をよんでもらっていた。


「十花って、この『ヒルダ』ってキャラがすきなんだねぇ」

「ど、どういうことだし?」


 動揺しながらも、悪友・暑湖露(あつこつゆ)にきいてみる。

 露は思案するように、あごをさわったあと。


「うーん、なんていうか」と自著を指さす。

「ヒルダの恋人役ってなんだか、十花っぽいじゃん」


 ギクッ――自分の顔が青くそまるのをかんじる。


「それに、女子にデレてるところなんか、そのまんま十花じゃん」


 ギクッ、ギクッ――図星すぎて、心臓がバクバク音をたてる。


 やばい、すべて見ぬかれている……。


 たしかにヒルダの恋人役のモデルは私だし、私は女子をまえにするとデレてしまう。


「あらら、図星?」


 露は勝ちほこったように、ニヤけた。

 それを見ていると、羞恥心と憤怒が頭にのぼってきて……。


「用事をおもいだしたしッ!」


 私はにげるように、教室からとびだした。

 いま鏡を見れば、まっ赤になった自分の顔をおがめるかもしれない。



 私は世にいうライトノベル作家だった。

 去年から○○文庫で『最凶災厄の悪役令嬢の恋人になった件』――略して『災恋』を連載している。


 乙女ゲームに転生した女子高生が、最強最悪ならぬ最凶災厄の悪役令嬢『ヒルデガルド・ロートケップヒェン』――通称『ヒルダ』と恋愛する異世界百合ものである。


 ヒルダには私の夢と希望(欲望)がこれでもかってぐらい、つめこまれている。


 ――クールでドSな性格。

 ――一八〇センチの長身に、おおきな胸。

 ――そして、ときどき見せるデレ顔。


 くぅーッ、最高だしッ! そんな美女と異世界で恋愛してみてぇーッ!

 ヒルダは、そんな私の煩悩を体現したキャラクターだった。



 摩天楼がたちならぶオフィス街をとおる。ビルについている大型ビジョンには化粧品の宣伝がながれていた。


「あーもう、明日から絶対いじられるし……」

 私は横断歩道をあるきながら、愚痴をこぼす。


 露の阿呆面が頭をよぎった。


 あの野郎。うわべ面は男性アイドルみたいなクールビズなのに、内面はバカみたいなお調子者。


「あいつによわみをにぎられたのは、失策だったし……」


 横断歩道をわたりおえたところで、ブチッとおおきな音がきこえた。


 見れば、大型ビジョンの画面がまっ黒になっていたのだ。


 なんだ……故障か?


 つぎの瞬間――画面がきりかわった。


『諸君――』


 私は自分の目をうたがった。

 なにせ、そこにうつっていたのが……。


『我が名は魔王エゼルウルフ・ハイドラである』

 ――私の作品の敵役エゼルウルフ・ハイドラだったからだ。


 魔族をひきいている王で、世界征服をねらっている……という設定のキャラクター。


 口ひげとふとい眉毛が特徴的な初老の男。軍服のような衣装のうえからマントをはおっている。

 画面にうつっている彼は、私の想像や本についた挿絵とまったくおなじ姿だった。


『ながきにわたる雪辱をたえしのび、ようやく時がみちた』


 魔王はマントをなびかせて、どうどうと宣言をする。


『ふたたび大戦をはじめようぞッ!』

 周囲の人間がざわめきはじめる。

「なんだ、あのおっさん?」

「なんかのイベント?」

 いや、こんなイベントやるなんて一言もきいていない。


 もしかして、担当さんから私へのサプライズ?

 できれば事前に連絡がほしかったな。


「グォォォ!!」


 へっ――空をあおぐと、鳥の形をした影がとんでいるのが目にはいった。その数は、百羽以上。


 あれはッ……ドラゴンッ!?

 赤い鱗と巨大な羽をもつドラゴンたちが地上におりたち、あばれはじめた。


「グォオオオ!!」

 まわりの建物を破壊し、口からはく炎で人間をもやす。


「うわぁぁああッ!」

 人々は悲鳴をあげて、にげはじめる。

「ちょ、なんだし、これ?」

 イベント……夢……幻覚……?


 そのどれにしたって、リアリティがつよすぎる。

 すくなくとも、担当さんからのサプライズでないことはたしかだ。


「というか、私もにげなきゃ……」

 そう、踵をかえしたときだった。


 グォォォッ!!


 ドラゴンの一匹が私にむかってとんできたのだ。


 うっ……!


 スピードがはやく、もう目と鼻の先だ。


 死を覚悟して、目をつむる。


 ――しかし、いつまでたっても衝撃はこなかった。


 おそるおそる目をあけると、そこには、まっぷたつになったドラゴンと……。


「乙女たるもの、なに弱気になっているので?」


 ……金色の長髪をたらす女がたっていた。

 たかい身長に、体にまとう軍服をもした赤いドレス。

 つり目の瞳は、炯々と真紅にひかりかがやいている。


 この人は……「ヒルダ?」


「あら、あたくしをよびすてにするなんて……」

 ヒルダがあやしく笑顔をうかべ、こちらへふりかえる。


「おしおきが必要ですわね」

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