フェルミオンの天蓋 Ⅱ-3〈Aeon〉
周雷文吾
第0話 プロローグ
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これで、もう……いったい何度目になるのだろう。
和彦さんの過去変えようという……天原つかささんを救おうという試みは。
いや……違う。
私はなにを言っているんだろう。
これはまだ二回目に過ぎないのに。
けれど、私はすでに知ってしまっている。
これが失敗してしまって、次も失敗してしまって、何度も何度も失敗を繰り返して……和彦さんの考えがどんどん歪んでいってしまうということを。
結果、狂気とも言える考えにとりつかれた和彦さんは……。
……。
……。
……。
私は……こんなことをしていていいんだろうか。
和彦さんの望みを叶えるため、なんて言いながら、その実それがうまく行かないことを知っていて……なんて白々しいこと。なんて……残酷な仕打ちをしているのか。
これでは、和彦さんが堕ちていってしまうのを手助けしているようなものではないか。
……だけど、だからって私になにができるだろう?
私ではもう、和彦さんの意志を変えることなんてできない。
私が「無理です」と言っても「あきらめないといけないんです」と言っても、和彦さんはつかささんを救おうとし続けるだろう。
私がなにを言ったところで、もう和彦さんに届きはしない。むしろ、余計に頑なになってさらにひどい道を進んでいってしまうだけだ。
けれど私がいなければ、和彦さんの味方は誰もいなくなってしまう。
逆に言えば、和彦さんの味方でいられるのはもう私しかいない。
……せめて、つかささんがまだ生きていてくれたら。
生きている彼女とであれば、私はつかささんと戦うことができる。もしかしたら、それはよくあるラブコメみたいな感じになるのかもしれない。けれど、少なくとも私はつかささんとは和彦さんを巡って対等な戦いができたはずだ。
けれど、彼女はもういなくなってしまった。
天原つかさは、轟銀の“炎の剣”で命を落としたのだから。
結果として、和彦さんの中でつかささんの存在は神聖化されてしまい、どうあっても私には敵わない存在になってしまった。
けれど、それでも。
決して届かない想いだと、届かない恋だとわかっていても、私は和彦さんを愛することをやめられない。
スキンシップをとろうとする度、和彦さんから伝わる拒否感に心を削られているような気がする。けれど、それでも。
私なんかよりも、和彦さん自身のために。
ほんの少しでも、辛うじてでも、それで和彦さんを繋ぎ止めていられるのなら。
そのためなら、私は喜んでこの命を捧げよう。
喜んでこの身を差し出そう。
……。
……。
……。
……もしかしたら、和彦さんよりも私のほうがよっぽど狂っているのかもしれない。
でも、それでも構わない。
それが、不器用でも一途な、私の愛の形なのだから。
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