社会不適合者のハナコさん

蒼く葵

第1話 社会不適合者(ゴミ)

「うわ、エロ…………」


俺は自室のベッドで横になりながら『巨乳グラドル大集合』

と表紙に描かれたグラビア写真集を見てそう声を漏らす。


今、俺の目に映るのは自身の武器である胸を全面に押し出し、

浮袋の山頂にあるその秘宝が見えそうなところまで責めるグラビアアイドルの姿。

写真と一緒に添えられる見出しにはまだデビューしたばかりの新人だと書かれている。

それなのに、こんな責めた内容をするということは売れる為に必死なのだろう。


「間違いない、コイツは3年売れなかったら脱ぐな。チェックしとこう」


俺はしっかりそのグラドルの女体を堪能させて貰った後、

名前を確認してから頭の中のチェックリストに入れ、次のページに進む。


「ほう、これもなかなか…………」



ただいまの時刻は14時21分。

勿論、今日は祝日なんかじゃなく、普通に平日だ。

世の日本人達は幼稚園いったり、学校いったり、働いたりしてる時間。


「…………………………………………。」


あっ、すまない。自己紹介が遅れた。

俺の名前は柏尾正樹かしおまさき

ピチピチ17歳のバリバリ現役ニートだ。


少し前(1年前)までは普通に高校生をしていたが、

ちょっとした出来心でトイレの花子さんをしてみたくなり、

花子さんに扮して女子トイレで待機したはいいものの、

普通に教師にバレてあえなく撃沈。そのまま問答無用で退学の運びとなった。


俺に樹のようにまっすぐ育ってほしいと『正樹』なんて名前をつけた母親は泣き叫び、

普段から俺を叱り続けてきた父親は呆れて何も言わなくなった。

多分、もう少し経ったらお前はうちの子じゃないとか言われてこの家追い出される。

ってか、そんな話をしてるのをこの前聞いてしまった。


「はぁ…………」


俺、この家追い出されたらどうしよっかな。

働くにも身元不明、経歴不明の奴なんて誰も雇ってくれないだろうし。

いっそヤクザにでもなるか?

いやいや、ここは逆に世界を救うスーパーヒーローってのも、


「…………いや、ないな」


わかってる。人生そんな甘くない。

おそらく俺は家を追い出された後、行く宛もなく、どこかで野垂れ死ぬんだろう。


親という唯一の糸すらも断ち切ったニートに待ってる人生なんてそんなもんだ。


「はぁーあ。社会不適合者はつらいな!」


将来を考えていたらそっちの気もすっかり失せて、俺はグラビア写真集を投げ捨てる。

そして、自分の将来から目を逸らすように遅く、早い眠りにつくのだった。



◇◆◇◆



眠りにつく正樹の上に謎の球体がぷかぷかと浮かぶ。

それに対して、正樹が起きる様子はない。


『…………彼が柏尾正樹くんか。なるほど、面白いじゃないか」


『TDS番号875番。コードネームは《ハナコ》に決まりました』


『うむ。それじゃあ、早速…………、』


『はい、回収に移ります』



◇◆◇◆



「………………………………………。」


目を覚ますとそこに映るのは見知らぬ天井。

検死台のような冷たい金属の上に寝かされ、手足は動けないように固定されている。

服は取り上げられ、身につけているものはパンツだけ。


「…………………………………………。」



どうしてこうなった?



俺は少し前の出来事を振り返るように記憶を辿る。

まず、俺は深夜に目を覚まし、それからコンビニに向かった。

そこで朝ごはん兼夜ご飯を買い、その帰り道。


突然、奴らが目の前に現れた。

誰かは分からない。黒いフードを被った奴らだ。

そして、そいつらはいきなり俺に襲いかかってきて…………、


で、今に至る。


…………やっぱりこれあれだよな?

誘拐ってやつだよな?


俺は首を動かして周りを見渡してみる。

四方は白い壁に囲まれ、一つ扉がある以外は何もない。


誘拐……のはずだけど、なんかその割には妙に実験的というか、

なに俺、今から解剖でもされんの?

せめて麻酔くらいしてくれないとヤなんだけど。


そんなことを考えていると、突然、

その一つだけある扉から俺を襲った黒いフードの人が現れる。

今度は仲間などを連れている様子はなく、1人だけだ。


「おはようございます、ハナコさん」


ハ、ハナコさん?


「えっと、俺の名前、柏尾正樹なんですけど。どなたかと間違われてませんか?」


「いえ、間違っていません。あなたの名前は今日からハナコさんです」


「………………………………………。」


おい、やべぇぞ、コイツ。

人の名前を否定して自分で新しい名前つけちゃったよ。


「そうですね、まずは何から説明しましょうか」


「いや、説明とかいいんで、家に帰してくれません?」


どうせみんなと違って明るい未来なんて待ってないので、

俺は自殺覚悟で目の前にいる誘拐犯にそう言ってみる。


「…………家に?家に帰って何をするんですか?」


「えっ?いや、それは…………、」


何を……するんだろう。

俺は突然の誘拐犯の質問に言葉を詰まらせる。


「またゲームして、MyTube見て、グラビアアイドルの写真集見て、寝るだけですか?」


「っ!!」


まるで今までの俺を見てきたかのようにそう告げる誘拐犯。

それに続けてその誘拐犯は更に言葉を続ける。


「あなたも薄々感じてると思いますが、あなたは近いうちに家を追い出されます。

そしたら、あなたはきっと路頭に迷うことでしょう。

家族も友達も誰も助けてくれず、1人でずーっと苦しい時を過ごすことになる」


「……………………………………………。」


その姿は俺がずっと予感してた将来の自分。

落ちた雑誌を拾い読み、ゴミ箱から残飯を漁り、公園で一日を過ごし、

そして、やがては誰にも気づかれずひっそりと死んでいく。


それが俺の人生。


「…………そんな人生、嫌ですよね?」


「っ!!!」


俺の思考を読むかのようにそう告げる誘拐犯。

そして、その言葉に続けて誘拐犯はこんな提案をしてきた。



「ならば、いっそ私達の元で働いてみませんか?」



…………え?


「い、今、なんて…………、」


「ここで働いてみませんかと言いました」


は?ここで?


「お、俺に誘拐犯になれってことですか?」


「いいえ。あなたにはこの国を守るヒーローになって頂きます」


「ヒーロー?俺が?」


「はい。まぁ、ヒーローというと少し大袈裟ですがこの国を守るというのは変わりありません。

…………ハナコさん、あなたはお化けを信じますか?」


「は?」


黒いフードの人からされる突然の質問に俺の思考は停止する。

いや、そうでなくとも、さっきから続く雲を掴むような話。

俺の頭は話についていけず、ショート寸前だ。


「あなたがどう思ってるかは知りませんが、お化けというものは実在します。

奴らはとても凶悪な力を持っており、その力で日々、人々に害を与えている」


内容だけ聞けば揶揄われてるようにしか思えないが、

フードの人は嘘をついているとは思えない熱量で喋っている。


「そして、それを阻止すべく、日夜活動しているのが私達、『REBORN』です」


り、REBORN……?

いや、なにそれ。どういう意味?


「『REBORN』は秘密裏に政府が運営するお化け……いえ、『幽霊ゴースト』対策組織。

人々が何事もなく安全に一日を過ごせるよう、影からこの国を支える。それが私達の仕事です」


うん、意味が分からん。

いや、まぁ、言ってる意味は理解できるんだけど、

幽霊とか政府運営の秘密組織とか現実離れしすぎてて話が頭に入ってこない。


けど、とりあえず、これだけは聞かないといけない。


「…………な、何で俺なんですか?」


そう、全ての疑問はここから始まる。

何故、俺なのか?


学校退学して、ニートになって、もうすぐホームレスになる俺が何故、声を掛けられたのか。

もしこの話が本当なら話を聞く限り、この仕事はとても重要な仕事だ。

おそらく世界を変え兼ねないほどの。


なのに、何故。


「それはあなたが社会不適合者のゴミだからです」


「え…………?」


これまた突然の暴言に俺の頭は再度、フリーズする。

ゴ、ゴミ?


「この世界には一定数、社会不適合者と言われるゴミがいます。

犯罪を犯すゴミ、親の脛を齧るゴミ、そして、あなたみたいな路頭に迷うゴミ。

これらは全て社会の適応に失敗したゴミ達です」


「………………………………………。」


おい、流石に泣くぞ。

あと、ニート&ホームレスと犯罪者を一緒にしちゃダメだろ。

まぁ、確かに社会に適応出来なかったって意味じゃ一緒かもしれんけどさ。


「ですが、私達はこれを見方の問題だと考えています」


「…………見方の問題?」


「えぇ。確かにあなたは現代社会から見てみれば紛れもなくゴミです。

社会への貢献など蚊ほどもありません。

まだそこら辺に生えてる樹の方が光合成するだけ役に立ちます」


「…………………………………………………。」


お、俺だって光合成すればトイレの花子さん出来ちゃうし。


「でも、それは決してあなたが無能だと、何も出来ないと、そう証明しているわけじゃない」


「っ、」


「…………人には生きてる限り、無限の可能性がある。

例え、世間に馴染めなくても、やってはいけないことをしちゃう人でも、

もしかしたら、その人は世界を変える力を持っているかもしれない」


フードの人はそう言いながら俺の手足を固定していた枷を外して、

何やら白い部屋の壁に設置されていたボタンのようなものを押す。


すると、その瞬間、白い壁が透明になり、壁で隠されていた光景が露わになった。


手足が自由になり、身体を起こした俺の目に映ったのは、

文字通り、死に物狂いで身体を動かす人間達。


ジム?いや、そんな雰囲気じゃない。

まるでそれは地獄から這い上がるような。


「私達はその可能性を捨てず、社会不適合者を集めて、違う角度からチャンスを与える。

柏尾正樹……いえ、ハナコさん、2度目のチャンスを掴んでみませんか?」


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↓は飛ばしても大丈夫ですが、なるべく読んでもらえると嬉しいです。


まずは読んで頂いてありがとうございます。

この作品は自分のイメージ的に今後、(というか、今書いてるところまでは)

アクションが多めで必殺技とかは基本あんまりない感じになるので、

本当は漫画で描きたかったのですが、自分の絵が下手すぎた為、

いつか誰かが絵にしてくれること願って書かせて貰いたいと思います。

この作品はラノベというより、漫画をイメージして書かせてもらうので、

ところどころ、描写の不自然さや言葉が足りなかったりしたりするかもしれませんが、

そこは寛大な心で許して頂ければ幸いです。


また、次の話から本文後の後書きスペースに本文に入りきらなかった細かな説明やプチ情報も

書いていくつもりなので良ければそこも読んで見てください。よろしくお願いします。


あと、出来ればフォローと高評価の方もよろしくお願いします。

(ただゆっくり投稿していくので、待つのが苦手という方はあとでも大丈夫です。

でも、絶対に面白い作品にするので、ある程度話が溜まったらまた見に来てくれると嬉しいです>ᴗ<)

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