ドライビング

ソウカシンジ

ドライビング

 宿泊終わりの朝帰りドライブ。ホテルを出たのが午前五時。現在、午前五時三十分。ここ茨城から東京まではそこまで時間はかからないだろうが、「俺達」は余裕を持ってビジネスホテルを後にした。

 助手席にふてぶてしく座って居るのは、俺の幼馴染みの坂下。ショートヘアにきつね色のパーマ。耳たぶには特大のリングピアスが揺れている。徒歩での移動中に風が吹いた時は、鬱陶しそうに頬からピアスを引き剥がすので、俺は外せばいいのにと心の中で呟いている。

 朝焼けの冷めた空気が窓越しに感じられる車内。俺達の空間は時に微かに、時に大きく揺れながら沈黙が保たれている。

 そして、その沈黙を破るのはいつも坂下で、いつも乗車から二十分頃だ。

「ズーッ、ズズズ。」

音が気になり横目で見ると、先ほどサービスエリアで買ってやったオレンジジュースが、氷の入ったプラスティックコップへと姿を変えていた。その音は坂下の吸引により生じたものだったらしい。

 「…いつまで吸ってるんだ、もう中身ないだろ。」

俺は、暗に音を止めろと伝える。

「まだ香りが残ってるの。」

阪下は、ストローを咥えた口を尖らせながらそう答えた。

「…そうか。そういえば、今日悪かったな。サービスエリア一ヶ所で直帰になっちゃって。もう何ヵ所か周りたかったけど、仕事が入っちゃったんだ。」

「『チョッキ』って何?」

「…真っ直ぐ帰ること。」

「ああ、うん。大丈夫、気にしてない。」

 この日の会話はこれだけだった。坂下を実家に送った時は、直ぐに踵を返してスタスタと家へ入っていった。いつも何かしら言うのだが、拗ねたのだろうか。

坂下のご両親は相変わらずの作り笑顔と困り眉で彼女が家に入るのを見届けた後で、俺に申し訳なさそうにお礼を言ってくれた。いつものように。

 さて、飲み会の準備だ。今日は疲れたからたくさん飲むことにしよう。といっても、まだ十二時間あるのか。

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ドライビング ソウカシンジ @soukashinji

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