クラスで一番人気の彼女が裏ではポンコツで可愛い

Yuu

短編

第02話

ピッピッピーーーー


審判の笛の音で俺たちの中学校の部活が終わった。


結果は決してよくはないものだった


涙を流している人、安堵している人、後悔が顔ににじんでいる人、感情は様々だ。


3年生が引退してからキャプテンを任されていた自分の終わった感情は後悔でもなく「安堵」だったと思う。


正直キャプテンをやっていることがきつくなっていたところもあったからこそ終わって一安心したのかもしれない。でもこれはキャプテンとしてはきっと政界ではないんだろうと思っていた。


キャプテンとして責任を果たそうと努力したけど、結果はチームの雰囲気を悪くしてしまって気持ちを同じ方向に向かせることができなかった。


引退した後はサッカー部のメンバーとは話すことは最低限で、俺は人と距離を置くようになっていた。


幸い受験という名目があったらこそ勉強に打ち込んでいるようにしておけば人と関わるのも最低限でよかった。


松岡家では夏休みに毎年お祖母ちゃんの家に何拍かすることが恒例行事になっていた。




「瑞樹、今年もお祖母ちゃんの家にいくけどいくよね?」




父さんは少し気を使いながら誘ってくれた。


最期の試合が終わった夜に父さんと母さんは一言だけ「お疲れ様」といってくれた。


部活で俺が悩んでいるのはおそらく気づいてはいたが深くは聞いてこずに見守ってくれていた。


思春期の中学生の扱いは難しいとテレビでいっていたけど、母さんと父さんにとっては俺も扱いづらい子供の一人なのかもしれない。


でも、だからといって家族を拒絶する理由はないし気遣いには甘えていた




「いくよ」




「わかった」




お祖母ちゃんの言えば田舎の方にあってコンビニまでは車で15分ぐらいかかって、一番近い自動販売機までは歩いて10分ぐらいかかるところにあるど田舎だった。


お店も車も少ないけど自然だけはたくさんで、お祖母ちゃんの家にいるだけで身体がマイナスイオンで綺麗になっているような感じがするぐらい。




「じぁぁ母さんと真紀とお祖母ちゃんは買い物行ってくるけど、瑞樹はどうする?」




「俺は留守番しておくよ」




「そう?なにか欲しいものはある?」




「いつもの駄菓子があれば」




「あんた好きね。わかったぁ。じゃぁ俊哉君いってくるね」




「はいはぁい」




母さんたちが買い物にいって、家ですることもなく時間を持て余していた




「瑞樹、少し散歩しないか?」




「いいよ」




そういって父さんが俺を外に連れ出してくれた




「ここは昔から変わっていないだ」




「変わるところがないぐらい田舎だからね」




「そうだな。変わったといえば昔はもっと牛飼いさんがいて、牛の鳴き声がもっと聞こえていたな」




「それは俺も覚えているかも。父さんと じいちゃんに牛飼いさんの牛を見に行ったことがある」




「よく覚えているな。あの時は牛見れるだけで喜んでくれていたからな」




「今でも牛見たら喜ぶかもしれないよ」




「ははは。真紀とか臭いとかいいそう」




「確かに」




俺たちはなんてない話をしながら歩いていると




「どこにいくの?」




「もうすぐつくよ。ほら見えてきた」




「おおおお」




父さんが連れてきてくれたところはまだ来たことがなくて山に少し入り込んだところに流れている小さな川だった。




「めちゃくちゃ水綺麗」




「だろ。でも蚊がいるのが少し欠点かなって感じ。虫よけスプレーと蚊取り線香持ってきたから近くにいよろ」




流石父さん、こうゆう準備に関してはよすぎるぐらいだ


川の近くにある大きな石に腰かけた




「なんか落ち着くね」




「だろ。中学の部活動はどうだった?」




父さんから予想外の質問がきた


でも薄々こういった話をするときがくるだろうとは思っていたから驚きは少なかったと思う




「う~ん。上手にやれなかったと思う」




「どうしてそう思う?」




「キャプテンとしてチームをまとめることができなかったし、自分のプレイも中途半端で終わってしまったし、もっとうまくやれたんじゃないかなって後悔の方が大きいかな」




「僕は瑞樹は頑張ってたとは思うよ。慣れないキャプテンをよく最後までやり抜いたなって」




「まぁ頑張りはしたけど最後ギクシャクして終わったのは事実だから」




「でも、きっと誰がしても100%上手くいく結果はないと僕は思う。もしこれが大人であっても100点を出すことはできないと思うんだ」




「大人がしても?」




「うん。もし100点のリーダーがいるならその組織は上手く回るんだろうね。でも世の中みてみたら会社を辞める人は多いし、父さんだって何人も後輩が辞めたのをみてきた。父さんも後輩にとってはいい先輩としてたくさん考えて試行錯誤繰り返してきたけど上手くいかないことばっかりだよ」




「そうなんだ」




「きっと瑞樹にとって中学でキャプテンをした経験は今後に役に立つと僕は思うよ。高校生になってサッカーを続けるか続けないかは自由だし、やらない選択もいいと思う。結局を過去を現在にどういかしていくかが大事になってくるんだ」




「どう活かす・・・」




「まだ終わったばかりだけど、瑞樹がキャプテンをしてきたのも今では過去になっているでしょ。過去はどう足掻いても変えることはできない。でも未来はわからないでしょ」




「うん」




「まだまだ人生は長い。父さんは瑞樹がやりたいことを全力で応援するよ」




多分、父さんも母さんも俺に何があったかを詳しく聞いてくることはないだろう。


昔からそうだった。真紀と喧嘩しても特に深く追求することはなく今みたいに「次はしちゃだめだよ」と何度もいわれてきたのも思い出した。




「真奈ちゃんたちも帰ってくるから僕たちも帰ろうか」




「そうだね」




そういって前を歩く父さんの背中をみていると




「父さん、いつもありがとう」




自然と感謝の言葉が口からこぼれていた


父さんは少し驚いた様子を見せたがはにかみながら




「いいんだよ。父さんも真奈ちゃんも瑞樹と真紀より少し多く生きて先を歩いているんだからもっと頼っていいんだよ。僕たちはいつだって何があっても二人の味方なんだから」




「うん。ありがとう」




部活が終わって俺は自分の中で終わった気になっていたけど、きっと一歩も前には進めていなかったんだと思う。それを父さんも母さんもわかっていて、父さんが俺の背中を押したかったのかもしれない。


大人の考えていることは正直わからないけど、そんな気がする。


家に戻ると母さんたちは帰ってきていた




「おかえり。どこにいっていたの?」




「ちょっと瑞樹と散歩に」




「そう!今日はお祖母ちゃんがグラム1000円のお肉を買ってくれたから焼き肉するわよ」




「瑞樹よかったな」




「うん」




「お兄ちゃん、駄菓子あったよ」




「ありがとう」




後悔がないといえば嘘になる。


かといってサッカー部に入らなければよかったとは思わないし、キャプテンをしなければよかったとは思えない部分もある。


それでも高校生ではサッカーはしないと思う。


自分の中でやり切ったような感じなんだと思う。


まぁそれは高校生になってみないとわからないし、誰かに出会って考えが変わることもあるかもしれない。


それは今の俺にはわからない。




「瑞樹は彼女はできていないのかい?」




祖母ちゃんが聞いてくる。


74歳にして毎年この質問はしてくる。


見た目も中身も若い松岡家の祖母ちゃん。


そしてそれをニコニコと微笑みながら見守っている爺ちゃん。


爺ちゃんが怒ったところをみたことがない。




「お兄ちゃんに彼女ができるわけないでしょ」




「瑞樹はかっこいいから彼女できるだろ」




「お兄ちゃんがかっこいい?」




「昔の爺ちゃんそっくりだ」




「父さん、昔の爺ちゃんってどうだったの?」




「あまり知らないが、おばちゃんに聞いた話ではかなりモテてたらしいぞ」




「そうなの?ならお兄ちゃんも高校生ではモテるかもね」




「うるさい。この肉もらい」




「ああああ。それ私が焼いていたのに」




「真紀には爺ちゃんのやるから怒るな」




「ありがとう。あっ!!これがモテる秘訣か。女子の肉を横取りするような男は高校でもモテません」




「はいはい」




恋愛に興味がないわけではないけど今まで部活が中心でそんなことを考える暇がなかった。


高校生になったら恋愛とかいしているんだろうか。


先のことは誰にもわからないからいいやと考えるのをやめてグラム1000円の肉をたくさん食べた。




「彼女ができたら連れておいで」




「わかったわかった」




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