第二話 変異生物
あれから数時間が経過した。
地形把握はほとんど終わり、今はどの方向を探索しようか考えている。
『う〜ん、まだ深いところに行ける程の自信はないな。少し危険だが、しばらくは浅い所を泳いでいよう』
俺は、少し上に泳ぎ浅い場所に向かう。
❖
「わぁ! 海だぁ〜〜」
一人の少女が、目をキラキラさせ砂浜を走りまわる。
「あんまり深い所にはいかないようにね〜」
「は〜い」
一人の女性が少女にそう警告する。
「隊長良かったんですか? いくら浅いと言っても変異生物がいる可能性はあるんですよ?」
「大丈夫だ、ここは昨日のうちに全ての変異生物を殺しておいた。それに、俺もお前もちゃんと見てる。いざという時に即座に対応出来るよう、水系異能を持つお前も連れてきた」
「そうですか」
世界災害により、突然変異した世界中の生物……変異生物。本来は持つ事のなかった特殊能力を手に入れ、世界災害前は温厚だった生物は、変異によって気性が荒くなった。
世界災害から、八年。世界の科学者や研究者が開発した、変異生物に生成される変異核と呼ばれる新たな臓器を用いた変異武器と実験の結果によってもたらされた、人類を変異させ特殊能力を目覚めさせる変異薬のおかげで変異生物に対抗出来るようになった。
しかし、世界災害と変異生物が人類にもたらした被害は大きく元の世界を復興することは出来なくなり、残った文明で新たな文明を創る事となってしまった。
「隊長、変異生物はいつ消し切るんですか」
「それは無理だ、今の段階では。特異生物や古代変異生物は、普通の変異生物とは比べ物にならない奴らだ。まだ手が届かない。我々人類は、まだ強者に蹂躙される力の無い弱者だ。昔のように、上に立つ事はできなくなった。これは、きっと星の罰なんだよ。俺達は、星を蝕み過ぎた。だから、今になって報いがやってきた」
「だから、この現状を受け入れろと? 馬鹿げてます! 私は、そうは思いません」
家族の仇は、私が必ず取る。こんな現状受け入れたりするもんか。
「復讐か、ま、好きにしろ。自分の人生だ、命をどう散らすかは自分で決めろ」
「あなたに言われなくても」
軍服を着た顔に大きな切り傷がある男と赤髪の女性はそんな雑談を交わす。
『周りの変異反応はどうだ』
『異常ありません。一つとして確認できません』
『そうか、レーダーに反応があればすぐ報告しろよ』
『了解です、隊長』
昨日この辺りの変異生物は一匹残らず片付けた、また別のがやってくる事はあると思うが、それでもここはかなり穏やかなほうだ。
基本的には、な。何が起こるか分からないから、警戒はしとくべき……。
『緊急連絡! 隊長レーダーに反応がありました。変異生物!』
『数や階級は!』
『数、一匹。階級は、初級上位。しかし、この反応は、新たな特異生物です!』
『なにっ! 特異生物だと、なんでそんなバケモンがこの穏やかな海に……!』
『落ち着いてください、隊長。特異生物ではありますが、初級上位です。隊長の敵じゃありません』
『それもそうか、すまん取り乱した。こいつのコードは?』
『No.23。コードネーム
『小さな怪物か、悪くない』
「アリシア、ロゼを連れてこい! 少しでも怪我なんかさせたら、元帥に殺されるぞ」
「はい!」
「俺は、もしもの時に備える!」
「ロゼちゃ〜ん! もう帰るから戻って来てぇ!」
「え〜、まだ遊びた〜い」
「気持ちは分かるけど、これから大雨が降るんだって! 後で海洋研究所につれて行ってあげるから、今は戻ってきて!」
「ホント?! わかった、すぐ戻ってくる!」
少女は、遊んでいた岩礁から移動する。
しかし……。
『隊長! 大変です、レーダーに上級中位反応が! 数は一匹ですが、素早く巨大です! オニイトマキエイの変異生物です!』
『なんだと、上級中位は俺一人じゃ難しいぞ』
『すでに、残りの奴らに支援要請を送りました。ただ、もう少し時間がかかります。見た所あれは、巨大変異個体みたいです、何か他に異能を持っていなければただ大きいだけです』
『こっちに来てからが勝負だ、それまでは様子見しとけ』
「隊長! 隊長!」
「なんだ!」
「ロゼちゃんが! 先ほど変異生物がはねた時に起きた巨大な波にさらわれて、海に落ちてしまいました!」
「な、なにやってんだこの馬鹿野郎! ちゃんと連れ戻せって言ったろうが!」
「いたっ! ど、どうしましょう隊長」
隊長は、アリシアの頭に拳骨を食らわした。
「とりあえず、お前はそこで通信を待て! 俺は、ロゼを助けてくる!」
「無茶ですよ、上級中位なんて一人で勝てる相手じゃありません!」
「うるせぇ、勝てなくてもやるんだよ! おまえは、身体温められる物準備しとけ!」
そう言って隊長は、ロゼのいる海に向かった。
❖
ビビッ。
『俺の危機感知が反応してる。またかよ、せっかく住処を決めようと思ったのに』
今は少し疲れてるから、今回は素直に逃げる。それに、危機感知が言ってる。絶対勝てないって。
今回は、本能に従って逃げよう。
俺は、急いでその場を後にしようとした。
その時、水面を暴れる振動を感じ取った。
『なんだ、危険は感じないむしろ誰かに助けを求めてる?』
そんな事を考えながら、俺は振動の元に近づいていく。
❖
「ふぁ、はれか、ひゃふへて……!」
ロゼは、突然の強い波に抗えずどんどんと沖に流れていく。
強い波によってまともに泳ぐ事ができず、溺れてしまっていた。
そんな時、ロゼに一つの大きな魚影が近づく。
「っ! サメ! 誰か! 助けて!」
人間の子供、溺れて苦しんでいる。助けるべきか?
「もう身体が動かない、水が……」
ロゼは、パニクって体力を大きく消費してしまい身体を動かす体力がなくなってしまった。
動かせなくなった身体は、まるで鉄のように重くなり急速に沈んでいく。
『悩んでる暇はない、助けよう。俺だってあの人に助けて貰った。その優しさを他の人にも分けてあげよう』
俺は、背中に少女を乗せると身体をなるべく沈め無いよう水面を泳いで近くの砂浜まで向かった。
温かい……この背中は誰の背中だろう。
「あ、ロゼちゃん! と、大きな魚?」
大人の人間、ここまでで大丈夫そうだ。
俺は、背中に乗っている少女を軽く投げるとゆっくりと海中に戻っていった。
優しいは分ける、けど人間は危険なやつらだから過度な干渉はしない。
❖
「うぉおおぉらぁぁ! 加速炸裂弾――
隊長の特異能力・
「ギュオオォーー!!」
そんな断末魔と共に、身体に大きな穴を開けられオニイトマキエイは力尽きる。
「はぁはぁ、なんとか一人で倒しきった。運良く変異核に攻撃が直撃したみたいだな」
「隊長〜! ロゼちゃん無事保護出来ました!」
「そうか! よくやった! 今そっちに戻る」
隊長は、二人のいる砂浜に戻った。
「大丈夫か、ロゼ」
「人口呼吸し、息を吹き返しました。今は上着で身体を包み温めています。外傷は、足にある少しの擦り傷のみです」
「大きな怪我がなくて安心した。部屋に連れて帰り適切な手当をしてもらえ。それにしても、よく流されて無事だったな」
「あの、隊長その事なんですが……」
「私、私ね! 大きなお魚さんに助けてもらったの!」
「どうやら、先程通信にあった特異生物に助けてもらったそうなんです」
「はぁ? 特異生物が人を助けた? あいつら人を喰いはしても、人を助けるなんて一度も聞いたことがない。アリシア、一連の流れを詳しく聞いておけ。俺は周囲の再確認と巨大オニイトマキエイの死体を持ってくる」
「了解しました! さ、ロゼちゃん暖かい部屋に行こう」
赤髪の女性と金髪の少女は砂浜を後にした。
『エルク、さっきの特異生物はまだ近くにいるか?』
『はい、まだレーダーの範囲内にいます。今は……あ! 隊長! 変異生物の回収急いで下さい! 特異生物が食べようと近づいています』
『何!? 急いで回収しなければ』
「オニイトマキエイに注目しすぎた、あいつも変異生物だ食われたら、強化される!」
変異生物は、他変異生物の核を喰らうと異能力までは手に入れられないが、大幅に力が増幅する習性があった。
変異武器製作と変異薬の製薬には核とその変異生物の身体が必要不可欠。
つまり、死体を食われるわけにはいかないのだ。
❖
さっきの危機感知の正体はこれだったか、随分とデカいな。こんなサイズもそうだが、こんなやつ見たことない。まだ俺の知らない生物が、周りにはたくさんいるんだなぁ。
俺は、人間の子供を砂浜に届けたあとでかい生き物の死骸を見つけ、観察とおこぼれをもらいに来た。
戦ってたら間違いなく死んでた、よかった逃げてて。
でも、そんなやつを倒せる人間がいるなんて怖すぎる。人間の恨みは極力買わないようにしよう。
けど、放置してるしこれは貰ってもいいよね?
『いただきま〜す!』
俺は、巨大な生物の死骸を喰らった。
【異能力・
進体変異!? またあの意識がなくなるやつか! ここから離れないと! 動け、俺の身体!
俺は、ヒレを力いっぱい動かし深場に移動した。
❖
『隊長! レーダーから小さな怪物の反応が消えました。深場に潜ったようです』
『そうか、一応身体は残っている。半分以上食われて変異核も喰われたがな。一瞬でこんなに食うとはあいつのコードネームを、
『了解しました。No.23。コードネーム小さな怪物から新たにコードネーム
「大喰い、面白い奴だ。また出会ってみたいものだ」
『
そう通信を残し、隊長ことネイアスは砂浜を後にした。
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