第240話
ライムの様子を見てから、彼女の所に帰ろうと思った。
あの娘ならいける。断れる。あの娘が清廉な目で、キッパリパッキリ否定してくれるはずだ。
常識的かつ論理的に、彼らを黙らせてくれるだろう。あの、真っ直ぐ向ってくる目に、正面から対応できるのは彼女だけだ。
少しはたじろいで欲しい。女神に嗜められ、間違っているのは自分達じゃないかと、不安になれば良い。
「トキオ様」
彼女たちを探している途中で声をかけられてしまった。
それはどこかで見た顔の人たちだった。
「息子を取り返してくださり、本当にありがとうございました」
ガーの両親だ。あまり接触しないようにしてたんだ。礼を言われたくてやったわけじゃないし、照れくさいから。
ガーの父ちゃんは武骨だ。体毛も濃く、顔も何となく犬っぽい。
仲良く暮らしてるかな。失われた何年かを取りかえせているのかな。
「息子があなたと共に行きたがってる。連れて行って貰えないか」
両親も大賛成。噂は本当だった。帰って来たばっかりだろ。どうかしてるぞ。
「いや…危ないし、責任とれないですよ」
「大丈夫だ、死んでも構わん」
なんて恐ろしい事をいう人ですか!
「いや、俺はね、小さい人間なんだよ。万一、あんな小さい子に死なれたら折れるよ」
「わかった。じゃあ息子は死なない。だから連れて行ってくれ」
無茶苦茶な人だ。お母さんなんとか言ってください。俺はお母さんに目を向ける。
お母さんは猫系だ。ガーと同じ目をしている。きっと優しい事を言ってくれるだろう。
「お願いですから連れて行ってあげてください。きっと死んだりしませんから」
なんだよこれ?
おかしいだろ。獣人怖いよ。
俺はマジで逃げたよ。
単純だって、わかってて突き進むんじゃないよ。進ませるんじゃないよ。
恐ろしい民族だよ。もしかすると途中で死んじまっても、本当に後悔しないのかもしれない。
彼らが、ガーに見ているのは少年漫画の主人公のそれだよ。
だから皆、応援してしまうんだろう。
昔の俺が、憧れた事のある奴だ。
なってみたいと望んだキャラだ。
心が真っ直ぐに作られていて、悩みがない。迷わない。
あきらめない。隠れない。逃げない。決して間違わず、後悔しない。
いや、間違ったって突き進み、突き破っていくんだ。
間違っていたくせに、失敗したくせに、予定通りだったみたいな顔でニカッと笑うんだよ。
周りの人間が折れるんだ。
そのやり方を、正しかったと認めてしまうんだ。
小心者からすると恐ろしいモンスターだよ。
同じ血が通っているとは思えない化け物だよ。
よく考えたら全然なりたくないよ!
獣人が単純なのはよくわかったが、俺にはこんなの受け入れられない。全然納得いかないね。そんなわけない。まだ十歳なんだ。夢はころころ変わるものだ。
子供にそんな期待して、プレッシャーになるだろうが。かわいそうだろ。俺なら後で、何で止めてくれなかったんだって文句言うぞ。
スルーだ。深く考えずスルーしよう。
猫耳ワイルド女子の事でも思い出そう。
まだ門番してるのかな。日に焼けた肌が良いんだよね。
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