第181話
マジ驚いた。普通に刺せてしまった。
マルーンは未だに笑顔を残した顔で、自分の胸の穴を見ている。
余裕の笑みが徐々に消えて、粘つく唾に糸を引かせた口が開いて行く。信じられない。何をした?そんな驚いたような顔を俺に向け、そして小さな悲鳴をあげ、倒れてしまった。
誰もが息を飲み、静まり返る室内。イラーザの破壊音は続いている。床が揺れる。もう少しでこの館は崩れるだろう。
唾を飲んで俺は待ったが、彼は起き上がらなかった。
死んだ。
殺しちまった。
「きゃーーーーーーー!」
「うわーーー!」
「ひーー!」
「旦那様ー!」
俺は超速中だ。主人を心配し、取り囲もうとしてる従者たちを吹き飛ばし、小デブの胸に手を当てた。
『治癒』
効いた。光が胸に集まっていく。小デブの顔に生気が戻った。死んでいたら戻らなかった。
びっくりした。
俺の治癒力にも驚いたけど。いきなり死ぬとか。あの無敵だったタイカとあまりに違いすぎる。間違いなく、彼は憑依を解かれた一般の男だ。いや貴族か。
「ヒョヒョ、これで俺は命の恩人だ。覚えておけ、ヒョヒョヒョ!他にも死んでみたい奴はいるか?体験させてやろう?」
もうやけくそで押し通した。
主人を抱きかかえ、距離を取る従者。ルイゼを立たせて引っ張るメイド達、脱力して座り込むもの達。
俺は、彼らを追い立てるように魔法を放った。ダメだ、逃げなければ引き裂かれる。そんな感情を作った。
ガシャーン!バン!ドカーン!
「ほらそこの奴らも連れて行けー!ヒョヒョ、全員出て行け!三分後にこの館を吹っ飛ばーす」
大慌ての靴音たちが遠ざかって行く。
俺は室内に残った二人に向き直る。
ライムは進んできたがファナは動かなかった。
「お姉さん…は」
ファナはゆっくり首を振った。
俺はここでファナの顔を初めてしっかり見た。頬を打たれた赤みが残っているが、間違いなく見覚えのある顔だった。
パナメー。ミドウで会ったあちこち出っ張ったお姉さんだ。
だが年齢が違かった。そして胸がそんなにない。
どうして…。
あの、誰もが目を奪われてしまう立派な突き出しはどこへ?お日様の下で、影を色濃く作っていたあのオーバーハングは?
あの凶暴な存在感を失った姿は、パッと見別人だが、俺は彼女の顔もまじまじと見ている。よく覚えていた。
触れた時に何かを感じたんだ。触れてみれば……。
ふと気づいた。ライムが俺の視線を探っている。
ファナと称した女、なぜか少女になってしまった彼女も、俺の視線を避け、体を横に向けて腕で胸を隠している。
おまえら…俺が胸を見ていると。堂々と視姦していると?
…違うんだ。見ていたけど、そうではない。
仮面を被っていても、男の視線ってわかるんですね。
勉強になった。
他にいう事があっただろうが、イラーザと合わせた時間は迫っている。
「おい、おまえもこの建物からすぐ出ろよ」
「何故ですかね?」
「頂くからだよ」
「頂く?」
「お姉さん…ねえ、私たちと一緒に!」
ライムの、意表を突いた誘いの返答を、俺は一時待ったのだが彼女は首を振った。
「…元気でね」
「お姉さん…」
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