第154話
*ギルドヨウシ支部
石造りの無骨な建物、冒険者ギルドヨウシ支部、その二階に支部長室はある。
ドアの前に立つ少女がいる。
ノックはしたが、返答を待つことなくイラーザはドアを開ける。
「こにちはー」
そして、少し驚いた。
入り口に正面を向けた机には、ギルド長ギーガンの見慣れた顔がなかったのだ。
痩身で体は小さめ、落ち窪んだ目だけが光る怪しげな男が座っていた。
張りがあり健康的な、ギーガンとはまるで違う不健康そうな中年男だった。
「あれ、いつものおじさんはどうしたんですか?」
彼女は言葉を発してから気配に気づく。ドア横の壁際には、警吏の装いの見慣れない男が一人ずつ両側に立っていた。
イラーザは眉を顰める。
おじさんじゃない、無礼だぞ小娘が!いつもならそう怒鳴ってくる秘書的なじーさんも居ません。嫌な感じです。
「私は警吏の警備部長のケベックという。
どうも、ギルドに任せていては、いつまでたっても要領を得ないのでな。
ここからはおまえの事は警吏が取り調べる」
ケベックの、少し垂れ気味の目が光る。光って見えるのは目の周りの色素沈着のせいだろう。彼の落ち窪んだ目の周りは、大分色が濃くなっている。何日も寝ていない人間のようだ。
「…取り調べですか?」
「冒険者イラーザ、もう一度聞きたい。どうやっておまえは、害意を向けて来た屈強な五人もの冒険者をはね返せた?」
自分の問いに、答えを返さないケベックに苛立ちながらもイラーザは用意されていた席に座る。気に食わないが、警吏に逆らってもよいことはない。貴族の次に苦手にしていた。
「言ったじゃないですか、朝日と共に現れた勇者が助けてくれました」
「そいつが判らない。一体何者なんだ?」
「やめませんか、こんな不毛な会話。知らないものは知らないんです。何度聞いても無駄です。一切変わりません。
親切な勇者が助けてくれた。彼は街の前まで私たちを送ると、名も告げず、恰好よく立ち去った。これのどこが問題なんですか?
拍手喝采する所ですよ」
「虚言だろう。そんな夢見たいな話じゃなくても、おまえらだけで冒険者らを倒せる可能性があるよな?」
「…なんの話ですか、意味わかりません?」
「襲ったのが、おまえらだったって事だ。夕食に毒を盛った。違うか?」
「おまえらって…まさか私とライムの事ですか?」
「おまえの、獣人の村に行くというクエストは嘘だろう。おまえらの証言通り、人を売りに行ったんだろ?売買対象は優秀な冒険者五人。
…実は、お前らが謀反人だったってことだ」
バン!
椅子の肘掛けを叩き、イラーザは立ち上がった。
「これ以上、話す必要ありませんね」
カッコよく踵を返して出て行く。イラーザはそんなイメージだった。
だが彼女は、鞘入りの剣で足を払われ、横向きに腰から床に叩きつけられてしまった。不意を突かれ、強かに体を打ったイラーザは声も出せず犯人を見上げる。
ヘチマのような顔の形をした男が薄ら笑いを浮かべている。
同時に机上のケベックが笑いを含んだ声で言った。
「暴力を奮って逃亡を企てようとしたな、逮捕しろ!」
「なにを言って…」
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