第116話


*岩山


「あなたたちは、私の身体が見たいんですか?少女恋野郎ですか?」


「オメー、十八なんだろ。大人じゃねーか。それによ、肉ばっかじゃなくてよ、たまには野菜も食わねえとな!」


「見たい見たいー!お父さん見たいよー!出会ったときから夢中だよ!」


 イラーザは、ふらつきながらもなんとか立ち上がった。



「自分で…脱ぎます。いいですか、お父さん?」


「いい!いいよ!イラーザちゃん!お父さんって言ってくれて嬉しい!

 優しくする!優しくするよ!いじめるなよおまえら―!」


 ポールは手を叩いて喜んでいた。



 男達は場所移動する。各々座っていた物を持ってイラーザの横に座った。焚火越しでは特等席とは言えないからだろう。


 イラーザは心の中で舌打ちする。



 男たちは段取りに走る。座席を用意し、ワインをカップに満たし、拍手喝采でショーが始まる。


「ヒャッホー!一枚ずつゆっくり脱げよ!」


 イラーザは肩にまとっていたマントを地面に落とした。ズサッと布の音がする。


「うおー、イラーザちゃーん、潔い!惚れちゃうよー!」


 小さな装備を付けるベルトを抜き。胸元のボタンを三つ外し、チュニックも落とした。


 下着姿に男たちは目の色を変える。


 彼女は全体的に造りが小さいのだ。それで子供の体系に見えるがそれなり凹凸があった。ウエストも細い。


「うほう!」

「あれ…割と」

「うわーーイラーザちゃん、奇麗なお腹だねー!」

 

 イラーザは手を頭に持っていき、髪のリボンに手をかける。


「おお、そこでリボンかよ!じらすねえ!」

「へえ、やっぱり十八歳だよ。大人なんだよね!」


 

「おいおい、コラー!なにを先に始めてんだよ。その姉ちゃんは必ず俺によこせって言っといただろ!」


 少し遠いところから声が聞こえる。壁沿いに黒い人影が二つ現れていた。彼らが焚火に近づくにつれ、姿がはっきりして来る。


「おお、ダルク!」

「トーマ、早かったな」


 その姿は、イラーザが森の中であった山賊たちだった。


 禿げあがった額に、大きな傷跡がある大きな男と、狡猾そうな小男。今回はどちらも顔の下半分を隠してはいなかった。

 二人共、イラーザの想像したような顔だった。


「俺はよー、こいつに噛みつかれたんだぜ!」

 ダルクは腕の傷を見せる。


 ポーションは高価だ。気軽には使えない。毛むくじゃらの太い腕に、乾いた瘡蓋が長く続いていた。


 ダルクは眉を吊り上げ、イラーザを白目の大きい目で睨めあげる。


「ぐふふ、この傷を見る度によ、思い出す予定なんだぜ!

 おまえをよ!おまえを、俺がどうしてやったかのか!

 おまえが、どんな最後だったかをなぁ‼︎」


 

 イラーザはこの二人が現れた事には、余り驚かなかった。

 ハイハイ、こいつがダルクさんですね。そしてその相棒が、トーマと。


 だが、イラーザの手は止まった。

 男が五人。全員がそれなりの使い手。もうどうにもならない。


 もう無理だった。


 今暴れても、彼らの手足は奪えない。上手く行って指くらいだろう。たった一つの可能性を、無駄には出来なかった。


 イラーザは、自分の命を、気概を、そこまでチープにしたくはなかった。


 きっとチャンスはあるはず。今じゃない。

 どうせ私は闇の者、人には元々期待してなかった。命は取られない。このくらいはきっと耐えられる…はず。



 その時、イラーザはトキオの姿を夜空に思い浮かべた。


『トキオさん…』

 

 西の空が、突然燃え上がった。太陽と見まごうばかりの巨大な炎だった。


 魔法だとすれば、放った者が相当な術者であることに間違いない。

 

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