第114話

*岩山


  呪文の構築を無詠唱で行う。そう難しいことではない。この世界の魔法は、誰かを呼び出して行使しているわけではないのだ。


 詠唱時と、同じイメージを自分の中で作れれば良い。



 イラーザは彼らの様子を見ながら、呪文の前節を心の中で唱える。

『虐げられた…憤りを見せよ、闇の眷属!全てを灰塵に帰せ』


「ファイアーアーク!」


 イラーザは、立ち上がりざまに呪文の決めを叫んだ。



 同時に魔法を二つ放つ、二重詠唱には失敗していた。それは彼女にも途中からわかっていた。だが、一つはきちんと構築できていた。

 

 だが、何かが、改編されたマナを掻き消してしまった。放出された魔力だけが消えて行く。イラーザは呆然とする。


「あれ?」


 全くの理解不能だった。彼女にこんな失敗は今までなかった。

 一体何が……。



 突然に立ち上がり、呪文を叫んだイラーザに、男三人はあまり反応しなかった。

 不思議な事だった。


 即座に同様に立ち上がり、臨戦態勢に入らねばならないはずなのに、彼らは各々のマグカップを手にしたまま座っていた。


 イラーザはそれに気づかなかった。 

 えっ、どういう事……魔法が立ち消えた方に気が向いていた。


 彼女は原因を究明したかったが、そんな暇はない。これしか戦うすべはない。ふらつく身体を支え、もう一度魔法を構成する。


 幸い、敵に動きは見えない。今度は全て声に出してみた。


「虐げられた…憤りを見せよ、闇の眷属!全てを灰塵に帰せ!

 ファイアーアーク!」


 

 イラーザは感じた。確かに構築したはずの魔法が掻き消えてしまうのを。

「ええ?」


「ウフ!アーハッハッハ!来たねーー!来た来たー‼︎」


「ウヒヒッ!ギャーハッハッハ!これこれ!その顔だよ!メシウマーーーー‼︎」


「わっはっはっはっはっはっは!イラーザちゃん、最高ーー!最高だよーーー‼︎」


 三人とも大爆笑だった。


 ポールは座っていた薪から落ちて膝をつき、アクスは立ち上がってイラーザを指さし、ジムは地面に倒れて、腹を抱えて笑っている。



 焚き火の前の三人は隙だらけだった。笑い転げている者までいる。


「なっ…」


 異常な状況だった。イラーザは高速で考えを巡らせる。


 わかっていた。彼らは私の魔法が発動しない事を知っている。

 それは…彼らが仕掛けたから。



 イラーザはハッとして手首を見る。


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