縁切り姫の婚約
白土夏海/角川文庫 キャラクター文芸
*
死ぬんだ、と思った。
降り積もった雪の上に、赤い
辺りは荒れ果てていた。木々はなぎ倒され、
大好きな祖母も死んだ。殺された。一瞬だった。しゃぼん玉が
(私のせいで……)
罪悪感で涙が
それでも、もっと痛くていいと思った。自分だけがまだこうして生きているのが、申し訳なくて、情けなくて悔しくて悲しかった。
(私のせいで、みんな死ぬんだ……)
粉雪が降り続けている。視界が雪と涙でぼやける。
(どうしたらいい? どうしたら……)
いくら考えても案はなく、力もなかった。現に今、立ち上がることも出来ないのだ。
絶望と無力感が心を覆っていく。唇を強く嚙みしめる。鉄の味がする。
「……っ」
ざくざくと、雪を踏みしめる足音がした。身を
「だれか……」
震える声で、いつの間にかそう
「誰か助けて……」
──次の瞬間。鋭い
(光の矢……?)
雪が花びらのように舞い上がって、雪音の体もふわりと宙に浮く。風だ。風が生き物のように、雪音を包み込む。
思わず目を閉じ、身を縮こまらせた。が、恐怖は一瞬で霧散する。
(暖かい……)
ほどなくして、誰かの腕に抱き留められていた。思わず
「生きてるか?」
誰かが、雪音を
「よし。生きてる」
見覚えのない、和装の青年だ。
新雪を切り出したような、光沢のある銀髪。涼やかで切れ長の目元が印象的な
「もう大丈夫だ」
彼は雪音の涙を
「何も心配しなくていい。あとは全部、俺に任せて」
その声はしなやかな植物のようで、鍛え抜かれた武器のようで、強く気高く頼もしく、そして優しかった。誰もが寄りかかりたくなるような、そんな光に満ちていた。
──彼は確かに、私の雪解けだったのだ。
*
この国には限られた人々だけが知る、特殊な神社が存在する。
それらは『特格神社』と呼ばれ、仕えるのは『神力』を持つ神職たち。
彼らは
ただし彼女は自分の持つ力について、そしてこの世界に隠された闇について、まだ何ひとつ知らない。
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