第11話:コラボ配信
「ソルさんソルさん! 見てコメントが!」
「お、マジっすか」
動画が公開されて、おそらく最初に見た人が再生し終わったくらいのタイミングで、シリウス、というアカウントから一つのコメントが残された。
『初めまして。動画楽しく見させてもらいました。続きも楽しみにしているので、頑張ってください。応援してます』
「こ、これが……視聴者から残されるメッセージ……コメント……!」
「いいっすね。視聴回数もだんだん増えてる。概ね、好評……というか、応援の声が多いっすね」
「まぁ、情けない姿を晒した上に壮絶な死を迎えてBadEndでしたからね……」
「登録者も増えてきてますし、この勢いで明日生配信に挑戦しましょう。リアルタイムでコメントしてもらえるのは楽しみあると思いますし」
「生配信か……緊張しますけど、頑張ります。ところで、内容はどんなことを……?」
一緒にやる、リクニスさん……だっけ。ダンジョンの運営に関わっているプロの方に特訓をしてもらう感じ、なのだろうか。
「朝に打合せしますけど、まぁ昨日の様子見てる限り、ツキノさん、というかツキコさん。戦闘経験がないんで、おそらくこのまんまだと先進めないと思うんですよねぇ。なんで、とりあえずあのクモくらいはぶっ倒せるようになってもらおうかなぁと」
「な、なるほど……」
少し怖いが、確かに必要だ。何せ今の私ではたぶんその辺の野良犬にすら勝てない。というかそもそも戦おうという気が起きない。
「じゃ、そろそろ明日に備えて就寝ですかねー」
「あ、そうだソルさん。私もこの動画……というかコメントとか、見たいんですけど、端末って借りれたりします?」
今はソルさんの持つ端末で色々見ているが、今後のことを考えれば自分で確認できた方が良いだろう。
「あ、そうっすね。パソコンはコペルフェリア戻ったら渡すんで、とりあえずこちら」
ソルさんは懐から、スマホのような情報端末を取り出した。
「これ、携帯端末です。たぶんツキノさんが元の世界で使ってたスマホにかなり近いんじゃないかと。これ持ってていいっすよ。仕事用のやつなんで、管理者変えときます。あと操作方法も簡単にお伝えしますね」
ソルさんに説明を受けた後、その端末を持って私は部屋に戻った。シャワーを浴び、寝る支度を済ませて端末を操作する。
「懐かしい感覚……あ、コメント新しいのついてる。再生回数も登録者も結構伸びてきた」
嬉しい。でも、これはほとんど私の力ではない。ソルさんが段取りを整え、動画は面白く編集してもらい、冒険者協会によって拡散してもらった。初動は悪くない。ここから、どう伸ばせるかは、私次第。
「――明日、がんばろっ」
幸せと、緊張と、決意を胸に、私は眠りにつく。この刺激的な毎日が、夢でありませんようにと願いながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「初めまして。冒険者協会育成科所属のリクニスです。いやー、昨日の動画面白かったですよ」
翌日の午前、冒険者協会の会議室で私たちに握手を求めてきたのは、長い灰色の髪を無造作にまとめた、大人の女性だった。年齢は三十歳前後くらいだろうか? 美人だが飾り気があまりなく、親しみやすさを感じる。
「どうもー。魔術士協会異世界人支援科の、ソルと申しますー。いやーこの度はこのようなお話いただきまして、ありがとうございます」
「よ、宜しくお願いします。ツキノです」
まだこういう挨拶は慣れない。ソルさんみたいに肩書があるといいんだけど、でもこの体で天乃月子って名乗るのも違うしなぁ。悩む。
「いえいえ。こっちとしても、宣伝お願いできるのは助かるので、ありがとうございます。じゃ、あんまり時間もないし、今日の配信? どういうふうに進めるか相談しちゃいましょ」
仕事できる人って感じだ。
「はーい。じゃあ今日何するか、なんですけど。簡単に言うと、ツキコさんが、ダンジョンの先に進めるようになってほしい。そのために彼女を導いてほしいんですよね。で、それをせっかくなら生配信しながらやっちゃおうという企画です」
「生配信……一応聞いてはいたけど、それ、私も映るんだよね」
「そうっすねぇ。まーどうしても嫌だったら顔隠します? 覆面とか」
「それも嫌だなぁ。ま、『リトライダンジョン』の広報活動で顔出してるし、別にいいよ。どうせ冒険者にしか見られないし、この町の冒険者は大体私のこと知ってるしね」
「まぁ、冒険者協会の案件だから、他の人はあんまり見ないでしょうねぇ、今は。ま、許可もらえるなら良かったです」
「じゃ、どうやって教える? 配信……ってことは『ツキコさん』になった状態でやれないとならないから……ダンジョン行くかぁ」
「えっ。現地コーチですか?」
あのダンジョンに一緒に入る感じ……?
「ああ、正規ルート進むんじゃなくてね。魔物の強さとか確認するための『テストルーム』あるから、そこ使おう。普通の人は入れないんだけど、まぁ今回はね、特別という感じで」
「テストルーム、ですか」
格ゲーのトレーニングモードみたいなイメージだろうか?
「そうそう。あ、配信って何時からやる予定?」
「悩んだんですけどねー。あんまり早いと冒険者の皆さん、仕事中だろうし、遅いと寝ちゃうでしょ? まぁご飯食べながら見れる、夜六時開始くらいが良いですかねぇ。五時だと仕事終わってない人いそうだし」
「おっけ。じゃあー……諸々準備もあるだろうし、三時くらいに、リトライダンジョン入り口集合でお願いできる? 進行の打ち合わせは現地見てもらってしたほうがいいでしょ」
「大丈夫っす。あ、これ一応台本お渡ししときます。あと、SNSで告知投げておくので、適当に拡散お願いしますね。じゃ、後ほどよろしくですー」
◆◇◆◇◆◇
私たちはリクニスさんと別れた後、おしゃれなカフェで少し早めの昼食を取りながら台本を読みつつこの後のことを話していた。海沿いのカフェ、めちゃくちゃ雰囲気が良くて大変満足です。
「どんな感じで始めたらいいですかね、配信」
生配信というのは初めてだ。Vtuberさんの場合はオープニング映像ののちに自己紹介をして始めたりするが、天乃月子にはまだオープニング映像はない。
「とりあえずいつもの挨拶してもらって、リクニスさんご紹介の上で、企画趣旨の説明、ですかねぇ。一応企画説明とか、簡単なテロップは用意してその場で映しながらやれるよう準備してるんで。まぁ余裕があったら適宜コメント見てもらえると」
ソルさんは別に映像関連のお仕事でもない割に、器用に色々やってくれている。例の動画編集のプロに習っているのだろう。
「ソルさん、なんで今回は生配信なんです? 動画にしたら編集もできるしテンポよくなるんじゃ……」
昨日の動画の様子を見る限り、そのまま流すよりも面白くなると思うのだが。
「映像としての完成度は間違いなく動画の方が上がるし、作品としては面白くなるでしょうねぇ。……でも、昨日の動画を見た人はたぶんこう思うんですよ『天乃月子を応援したい』って。動画って、既に終わったことじゃないすか。だから、結果を見ることしかできない。でも、生配信だったら『今起こっていること』だから、より熱量をもって応援できる。さらに、コメントで実際に声を届けることもね。……これは、動画とは全く別のエンタメでしょ。今回は、それを体験してほしいんすよ」
確かに。動画の面白さはテレビ番組の面白さに近い。演出なども含め、『創られた』エンタメだ。でも生配信は違う。その場で起こっていること、演者が実際にやっていることを見て、それに対してコメントができる。場合によっては反応ももらえる。……確かに、視聴者からすると全く別のコンテンツなのか。
「それは――楽しみですね。そうか、これは初めての、視聴者とのリアルタイムでの交流、なんですね」
「ええ、まさしく『ライブ』です。だからこそ、あなた自身の魅力が必要になる。……怖いっすか?」
「ええ、もちろん。でも同じくらい、楽しみです」
「いい返事です。じゃあ、見せてやりますかぁ。『天乃月子』の魅力ってやつをね」
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