第6話 船旅
「海だー!」
馬車に揺られて約一時間、とうとう港区までやってきた。
目の前には豪華な装飾が施された巨大船が止まっていた。
「もしかして、この船が僕達が乗る船ですか?」
「その通り。王族御用達の特別な船さ」
「スゴイ、こういう船ってパークでしか乗った事ないから楽しみだね!」
「豪華客船とはまた違った派手さがあるよねぇ」
「君達は船酔いとかは大丈夫かい?」
「はい!僕達は平気です」
「ふふ、そうかい。それじゃ、早く乗ろうか」
シアに案内されるまま二人は豪華な船に乗り込んだ。
船乗り達の合図と共に碇は上げられ、そして多くの人達に見守られながら船は水上都市を目指して動き出した。
「〽︎波をちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷかきわけて
雲をすいすいすいすい追い抜いて
ひょうたん島はどこへ行く
ボクらを乗せてどこへ行く
丸い地球の水平線に
何かがきっと待っている
苦しいこともあるだろさ
悲しいこともあるだろさ
だけどボクらはくじけない
泣くのはいやだ 笑っちゃおう
進め!♪」
広大な海を眺めながら、イチカはテンションに任せて歌い出す。
小さなドラゴンのご機嫌な歌に乗組員達は微笑ましそうに聴いていた。
「不思議な歌ですね。それもお二方の世界にある歌なんですか?」
アリアンが声を掛けてきた。
「そうそう。パパがたまに歌っているのを自然に覚えたんだよね」
自分達が小学生の頃、父親がその歌がテーマの人形劇の話しを熱心に話していたのを思い出す。
「イチカ様は歌がとてもお上手なのですね」
「最終的には夜の女王のアリアを歌えるようになるのがあたしの目標なの」
「そんなに難しい歌なのですか?」
「喉が死ぬ」
「そ、そんなに……!?」
「いいねいいね。もっと君達の世界の事、聞かせてくれないかい?どうせ水上都市までまだまだ時間が掛かるんだし」
いつの間にかイツキの隣にシアが立っていた。
つられてか、ライラやグルマンも寄ってきている。
「僕達の世界、ですか?う~ん…何処から話せばいいんだろ……」
「むかしむかし、竹取の翁というものありけり」
「それは昔話し」
「あたし達の世界で話せるものは…コミケ?」
「なんで真っ先にコミケ!?」
「コミケ?」
「コミックマーケットの略で、簡単に言うと、自作の本を売る事が出来るイベントなのよ。本以外にも色々あるけどね」
「ははぁ、私達でいうグリマケみたいなものが君達の世界にあるわけか」
「ちょっと待ってください!?え!?自作の本を売る文化ここにもあるんですか!?」
「kwsk!?」
シアの衝撃的な一言にイツキとイチカは思わず食いついた。
「私達の国は多種多様の種族が住む上に長命種も多いから子孫を残す、という考えが薄い。そのせいか、同性愛者が多くてね。それをテーマにした本が沢山売られているんだ」
「進んでるなぁ魔族領!?」
「グリマケが近づくとね、城で働いている使用人達が間に合わない、新刊落ちちゃうとか阿鼻叫喚の嵐が巻き起こるんだ」
「締め切り地獄は何処でも共通なんですね!?」
「あの悲鳴を聞くたびに、ああ、グリマケ開催して良かった…て、思うのさ」
「……あの、アリアンさん。シア様ってもしかして……」
「もしかしなくてもかなりヤバいお方です」
アリアンは多少気まずそうに目を逸らした。
腹黒ドS王子は実在したんだと、逆に関心するように二人はシアを見つめた。
「じゃあ性癖は……?」
「イチカちゃん、なんて事言うの!?」
「ちなみにイツキはケモナーです」
「イチカちゃん!!!!」
「そういうイチカちゃんはどんなシチュエーションが好きなんだい?ちなみに私は寝取られが大好きだよ⭐︎」
「この人とんでもない癖の持ち主だった!?」
「あたしは敵対してる相手に敗北して監禁調教コース行きが好きです」
「わ~、なんか私と気が合いそう!」
「やった~、闇の性癖仲間だ~」
仲間を見つけた喜びか、イチカとシアはハイタッチを決めた。
「あの、イツキ様……」
イツキが呆れる一方で、何やら神妙な表情でアリアンが尋ねてきた。
「ど、どうしたのアリアン?」
「イツキ様は、ふたなり女子同士の恋愛は男同士の恋愛に該当しませんよね?」
「そういう概念はこっちでもあるんだ!?」
「わたくし、女攻めが好きなのにそういうジャンル少ないんですよね……」
「分かる!ペクシブでもそんなに数は無かったしね!……ていうか、折角の船旅なのになんでこんな話題で盛り上がるのさ!!」
「おやおや、ケモナーなのに随分純情じゃないか。……ちなみにどの獣が好みなんだい?」
「猫です!猫!九割ケモノっ子が好きですハイ!」
「つ、つまり少年、俺の事が……」
「女の子が好きだしおまけに誰ぇ!?」
九割獣な猫の獣人が顔を赤らめ熱っぽい視線をイツキに向けた。
そんな彼と距離を取るように、イツキはライラの側まで後退した。
何故か性癖で盛り上がる賑やかな船旅。ツッコミ過ぎてイツキが辟易していた時だった。
船が大きく揺れ動き始めた。
「どうした!?何が起こった!?」
咄嗟にシアが叫ぶ。
「分かりません!ただ、水面に巨大な影が!!」
見張りの乗組員が叫ぶ。
水飛沫を上げながら巨大な何かが船に接近していた。
シアは嫌な予感を覚え、咄嗟に水面を覗き込むと……そこには禍々しい光を放つ鱗をギラギラ輝かせる竜の姿があった。
見覚えのあるその姿に思わず顔を引き攣らせた。
「あれは竜神!?何故アトランティアの護り神がこんな事を……っ!?」
避ける間もなくその巨体は船に激突し、大きく揺れた衝撃により船はバランスを崩した。
「まずい!このままじゃ全員沈められてしまう!」
「でしたらわたしが!!」
ライラは杖を取り出すと魔力を集中させた。
「はぁああああああっ!!」
ありったけの魔力を注いで放った瞬間、船は眩い光に包まれた。
王城は混乱を極めていた。
水上都市を目指す途中で、アトランティアの護り神である竜神に襲われ船は沈んだ。
ライラの転移魔法のお陰で乗組員達は全員無事だが、同行者及び異世界からの訪問者。そしてシアの行方は不明と、魔族領に戻されたグルマンはそう報告したのであった。
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