竜の唄〜剣使いの兄とドラゴンの妹〜

@mimi_PPP

第1話 妹がドラゴンになりました

「どうしようイツキ!あたし、ドラゴンになっちゃった!!」

「…………」


拝啓父さん、母さん、お元気にしているでしょうか。僕達は何故か自宅から森に移動していた挙句に妹がドラゴンになっていました。僕は夢でも見ているのでしょうか……。


理解が追いつかない橘花イツキは、未だ呆然と純白のドラゴンを見上げていた。ジェット機並にあるこのドラゴンが、双子の妹であるイチカであるのは未だに信じられなかった。


──異世界召喚。


そんな単語が脳裏に過ぎった。


「イ…イチカちゃん…なんだよね?」

「何度も言ってるじゃん!イツキのスマホの番号とか、性癖とか、アイドルゲームの推しキャラとか回答できるよ!」

「ごめん。まだちょっと混乱してるみたいで……」

「一番困惑してるのあたしだよ!!なんであたしドラゴンになってるのさ!!さっきまでライブ映像流しながら夏休みの宿題してたよね!?というか、この体どうやって動かすの!?」


そう言うと尻尾が勢いよく動いて木にぶつかったと思ったら、バキバキバキと凄まじい勢いで数本破壊してしまった。あまりの威力にイツキもイチカ本人も呆然とした。


「……わぁああああん!!こんなんじゃ身動きできないよー!!わぁあああああん!!」


イチカはついに泣き出してしまった。どうやらドラゴンになったことで情緒不安定になっているようだ。イチカの泣き声に驚いた小鳥がバサバサと羽ばたく音がする。

イツキは頭を押さえた。

妹を落ち着かせるために、今は自分がしっかりしなければ……。


「お、落ち着いてイチカちゃん。取り敢えずこの森から一旦出て……」

「わーーーーーーーーーーーーん!!」


ドラゴンになった事でさらに声量が増してイツキの声が掻き消されてしまった。

イチカは駄々をこねる子供のように翼をバサバサと羽ばたかせて暴れ始めた。

木々が一気に倒れ、小動物達の逃げる足音や鳴き声が聞こえてきた。

このままではイチカの泣き声と、イチカが巻き起こす破壊行動によって森全体にパニックが起きてしまうだろう。そうなればもっと面倒な事になるのは目に見えていた。


「(なんとかして落ち着かせなければ……!!)」


イツキはイチカに駆け寄った。しかし、ドラゴン化した妹にどう対処していいのか分からずおろおろしていた時であった。


「一体何の騒ぎだい?もしかして大型魔獣でも現れたのかい?」

「ひぇ……」


イチカの泣き声につられてか、一人の青年が姿を現した。

太陽のように輝く長い黄金の髪。真っ赤に濡れた紅玉の瞳。突如現れた男か女か判別のつかない性別を超えた美しい容姿の青年にイツキは思わず小さく悲鳴を上げ、イチカは泣き止んだ。


「これは驚いた。まさか君が瘴気を祓ってくれたのかい?」

「え……瘴気?」

「……まさか、瘴気を知らないのかい?」


イツキが頷くと、青年は信じられないとでも言わんばかりに目を見開いた。

そもそも異世界に召喚されたばかりなのに瘴気なんて知るはずがないのだ。


「うぅむ…どうなっているんだい?一つ確認したいのだけれど、君達は異世界からきた人間かい?」

「異世界召喚の事を知っているんですか!?」

「うぅむ…それだとますますおかしな話しになるな……」

「おかしな話し……?」

「もうすぐ日が暮れる。詳しい話しは王城で……」

「シア様!お一人であまり遠くへ行かないでください!」


青年の言葉を遮るように、一人の女性が駆けつけてきた。

純白の鎧に身を包んだ耳の長い美しい女性だ。その女性の後ろに多くの兵士も駆けつけていた。


「ああ済まないレペティア。それより見てごらん。異世界からの客人だよ」

「な、異世界人!?この魔族領で!?何故!?」

「それは私にも謎なんだ」

「しかしシア様…その、そこにいる白いドラゴンも、異世界から…?」

「イチカちゃんは立派な人間です!ただ異世界に来たら何故かドラゴンになっちゃったみたいなんですけど……」

「ねぇ!何でも良いからあたしを人間に戻してよぉ!じゃないとまた泣いて暴れるよ!」

「こらイチカちゃん!迷惑かけちゃダメでしょ!」

「だってぇ!このままじゃ身動き出来ないよぉ!!」


再び泣き出してしまったイチカに、青年も女性も困惑した表情を見せていた。


「変身出来る魔法とか薬は確かにあるにはあるけど、使用は法律で禁止されているんだ。……あ!でも代わりのものは確かここにあったはず」


青年は纏っているマントに手を入れて何やら探る仕草をしていると、中から黄金の腕輪を取り出した。


「それは、何ですか?」

「これはサイズリング。自由自在に大きさを変えれるのさ」


青年は腕輪に魔力を込めると腕輪は光輝き、イチカの腕に装着された。


「ほら、なりたい大きさをイメージしてご覧?」

「イメージ……」


イチカはイメージを膨らませていく。するとイチカの体が光り始め、そしてみるみる内に小さくなっていった。光が収まった頃には、両手に納まるぐらいの大きさに変わっていた。


「凄い……ここまで小さくなれるなんて……」


イツキはイチカを拾い上げた。


「あの、ありがとうございます」

「良いよ良いよ。何やら色々イレギュラーな事が起こってるようだし。……よし!彼らを連れて王城へ戻るぞ!」

「はっ!!」


正直未だに実感が湧かない。あまりにも非現実的過ぎて。

イツキもイチカも自他共に認めるオタクではあるけれど、物語りでしか起こらないような事象が現実に起こってしまった事実を未だ受け入れずにいた。

だから二人は言われるがままに彼らに着いていくしかなかった。

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